鎧を脱ぐことによって捕まえた、〈なんだって超えていける〉という感覚――自身の思う〈カッコイイ〉を信じて作り上げた〈強い曲〉と共に、彼女は自分自身を突破する!
イメージは〈突破〉
インタヴューの冒頭、「いいアルバムが出来たから、話したいことがいっぱいあるんですよ! 今回は本当に好きなようにやらせてもらいました!」と笑顔で宣言。TVアニメ「魔法科高校の劣等生」「ソードアート・オンラインII」のテーマソングとなった“Rising Hope”“シルシ”“No More Time Machine”や、自身のポップ/ロック・サイドへ大きく振り切った“BRiGHT FLiGHT”“L.Miranic”といったシングルを含む3枚目のフル・アルバム『Launcher』は、そんな彼女の言葉通り、自身のアーティスト性とキャラクターがこれまで以上の精度で表現された素晴らしいアルバムに仕上がっている。
前作の『LANDSPACE』以降は、2014年と2015年の1月に2度の武道館公演を行うなど、活動のスケールを拡大してきたLiSA。そのなかで得た〈何をやってもLiSAの音楽にできる〉〈枠を取っ払って、好きなことをやっていい〉という自信は、今作の制作にも強く反映されているようだ。
「去年の武道館ライヴ以降、〈ファンのみんながちゃんとLiSAを受け止めて、楽しんでくれている〉という実感が持てるようになって、自分自身、鎧を脱いだ状態になれたんですね。そういう背景を伝える言葉って何だろう?と考えていたときに出てきたのが〈Launcher〉という言葉だったんです。イメージは〈突破〉。〈なんだって超えていける、ブッ放していこう!〉というのが、いま自分が歌うべきことだなって」。
そんなアルバム『Launcher』の制作において彼女が求めていたのは、ズバリ〈強い曲〉だったという。ハード・ロックやメロコアなどのテイストを採り入れながら、アニメやアイドルのファンにもアピールするようなポップ・チューンへと繋げる。このバランス感覚こそが、LiSAの強みなのだ。そのことを示す曲のひとつが、かねてから彼女の音楽を支えてきた田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)の作詞/作曲による“rapid life シンドローム”だ。
「私はストレートなロックをカッコ良くやってきたわけではなく、八重歯を出して〈テヘペロ〉って笑いながら歌ってきたところがあると思うんですね。ヒラヒラのスカートで、めっちゃ激しいことを楽しくやるというか。そのイメージを作ってくれたのが、田淵さんの楽曲だと思うんです。“rapid life シンドローム”は、まさに〈テヘペロ〉の部分を表す曲ですね」。
ウィッグを取って、スカートも短く
ロック・テイストながらも、アルバムの前半はポップで華やかなイメージの楽曲が中心。そして、地元である岐阜でバンド活動を行っていた時期から親交のあったSiMのMAHが作曲した7曲目“L.Miranic”以降は、ヘヴィーかつシリアスなサウンドが続く。このコントラストもLiSA自身のアイデアによるものだが、その意図について彼女はこんなふうに語る。
「後半は確かにゴツイ曲が多いですよね。私としては〈カッコイイことがやりたい!〉というだけなんですけど(笑)。学校に例えると、アルバムの前半は〈校門の前に先生がいるから、黒髪のウィッグを被って、制服もきちんと着よう〉というイメージ。そして後半は、〈ウィッグを取って、スカートもちょっと短くして〉っていう感じかな。どっちも楽しいし、どっちも必要なんですよね、LiSAとしては。お客さんもそこをちゃんとわかってくれたうえで楽しんでくれてると思います。〈あいつ、また変なウィッグ被ってるよ!〉って(笑)」。
アルバムの後半で特に印象に残るのが、トラックメイクにはじまり、小説や脚本も手掛けるクリエイターのじんが作曲した“ANTIHERO”。憎悪と虚栄心で満ちたネットの世界を描いた歌詞と鋭利なメロディーが一体となったこの曲もまた、LiSAのひとつの側面なのだろう。
「このアルバムのなかでは、突起物みたいな立ち位置の曲ですよね。自分のなかのイヤな部分、汚い部分を認めて、それを歌のなかで表現したっていう。じん君にもぜひ、このアルバムのタイミングでお願いしたかったんですよね。以前からじん君の楽曲にゲスト・ヴォーカルとして参加したり、ライヴに呼んでもらったりしてたんですけど、いつも自分の歌を歌ってるような感覚があって。それくらい相性が良いんですよね、彼の曲とは。他の作家の皆さんもそうですけど、ちゃんとLiSAを好きでいてくれて、〈LiSAはどうあるべきか?〉という目線を持ってくれてるんですよ。誰かに方向性を定められた曲ではなくて、私が欲しい曲、歌いたい曲を作ってくれるチームに出会えたことは、本当にありがたいなって思います」。
カッコイイと思えるか
また、LiSA自身が作詞/作曲を手掛けた“君にピエロ”もこのアルバムの大きなポイントだろう。アコースティック・ギターと歌を中心としたアレンジ、穏やかな雰囲気のメロディー、そして〈完璧になれない僕も 信じられるかい〉という歌詞を持つこの曲には、現在のLiSAの心境がそのまま映し出されていると言っていい。
「(自作曲は)どうしてもマストというわけではないですけど、LiSAッ子(ファン)に伝えるメッセージとして、あったほうがいいかなって。お母さんが作った上手なお弁当ではなくて、がんばって自分で作ったお弁当のほうが、不恰好でも愛情が伝わることもあると思うし(笑)。この曲で伝えたかったのは、〈君がそこにいてくれることが真実。それだけで幸せなんだ〉ということですね。音楽って本来、そうやって誰かのことを思って生み出すものだと思うんですよね、私は」。
加えて、起伏の大きい旋律と性的なイメージの歌詞が溶け合う“蜜”や、カラフルなエレポップ“エレクトリリカル”など、楽曲の幅がこれまで以上の広がりを見せていることも本作の大きな魅力と言える。ロック・バンドのヴォーカリストとして活動後、ソロに転向し、2010年にTVアニメ「Angel Beats!」の劇中バンドであるGirls Dead Monsterのヴォーカル役に抜擢されたことで一気に知名度を上げたLiSA。〈ユーザーから求められるLiSA像〉と〈自分自身がやりたいこと〉を高い次元で融合させたこの『Launcher』によって、彼女はみずからのアイデンティティーをようやく掴み取ったのかもしれない。
「バンドマンだったら自分がやりたいことをやるのが使命だと思うんですけど、私は〈ガルデモ〉いう場所から始まっていることもあって、〈どこで必要とされているのか?〉〈どういう人に聴いてもらえるのか?〉を考えてきたんですね。でも、いちばん大事で譲れないのは、〈自分の感覚のなかでカッコイイと思えるかどうか〉なんです。このアルバムでもそれは実現できてると思うし、純粋に楽しめる作品になったことがすごく嬉しいですね」。