ベーシスト・小松秀行が初のリーダー作で吹かせるブリージンな風!
数々のスタジオ・ワークならびにステージにおいてセンスの良いグルーヴを記してきたベーシスト、小松秀行。まずはリスナーとしての遍歴、つまるところの〈ルーツ〉から訊ねてみた。
「音楽に目覚めたのは18を過ぎてからだから、遅いほうですよね(笑)。大学では音楽サークルに入ってたんだけど、まわりの連中から回ってきたものを聴いたり、中古レコード屋さんに行って、1枚100円とかで売ってるようなものを〈これカッコイイかな?〉って買っていくとか、そんな感じで。そうこうしているうちに、ソウル・ミュージックあるいはジャズ/フュージョン的なものを聴くようになってね。思い入れのあるアーティストといえば、マーヴィン・ゲイかな。大学の先輩に勧められて聴き始めたんだけど、『I Want You』をローテーションの柱から弾き出すアルバムはいまだないですね。人生を支配されてる感じです(笑)」。
93年にオリジナル・ラブのメンバーとなり、プロとしてのキャリアをスタート。そんな彼が、プロ歴20余年にして初のリーダー・アルバム『Breezin'』を作り上げた。マーヴィン・ゲイがかのアルバムで聴かせていたメロウネス、ジョージ・ベンソンが同名のアルバムで聴かせていた心地良いグルーヴ、それらに近いニュアンスも感じとることもできる本作は、派手なベース・ソロを聴かせるなどプレイヤーとしてのエゴを過剰に押し出したものではなく、気取らず〈気持ち良く聴きたいもの〉というマインドが軸となって編まれている。
「結果的に自分のルーツがわかりやすく出たアルバムになったと思うし、すごく自分にフィットしてる、自然に出てきたものではあるなって思いますね。初めてだし、打ち込みとかで凝ることもできるんだけど、やっぱりみんなで集まって音を出してるのって楽しいわけじゃないですか。集まってくれたメンバーはみんな上手いし、せーので録って良いグルーヴが出ればそれでいい。〈こうじゃなかったかな?〉って思うようなところがあっても、〈揺れ〉が個性になっていくわけだから、あとでグリッドに揃えたりもしない。そういうのが、まあ、自分は得意だし、好きなやり方なんですよね」。
レコーディングに集ったメンバーは、オリジナル・ラブの頃から、そしてその後もたびたび隊を組んでいた佐野康夫(ドラムス)やギターで参加の田島貴男をはじめ、信頼のおけるプレイヤーたち。COSA NOSTRAの頃から親交の深い鈴木桃子がすべての作詞を手掛けたヴォーカル曲では、彼女のほかに鈴木雅之やTIGERが参加し、自身の歌声もさりげなく忍ばせている。
「去年、久しぶりにオリジナル・ラブのレコーディングに呼んでいただいたんですけど、プレイバックを聴いて、あの頃みたいな感じになるもんだなって。それって何だろう?と思ったんですけど、やっぱり田島さんのギターなんですよね。それでまあ、このギターがいいなっていうのがずっと頭にあって」。
そんなふうにして出来上がった、初のリーダー・アルバム。最後に、〈次もありますか?〉と訊ねると……。
「自分のアルバムで、自分が作った曲で、自分のベースでっていう、それはもう心地良いに決まってるんだろうけど、思ってた以上だなって(笑)。あとから聴いて自分らしいと思うし、自分が好きな感じになってるし、うん、好きで聴いてきたものにちゃんと寄り添えてるというか、リスペクトできてると思います。知人には〈衝撃のジャケット〉とか言われますけど(笑)、そこもすごく満足してるし、こんな気持ちは初めてですね」。