ポルトガルのファドといえば、古くからのファンにとっては、真っ先にアマリア・ロドリゲスの名前が挙がることだろう。1999年に亡くなった後はスターが不在状態であったが、その死と入れ替わるように突如登場したのがカティア・ゲレイロだった。2001年にアルバム『Fado Maior』でデビューした彼女も、今年で15年のキャリアを誇る。その間、医者としての二足のわらじを履き、出産して母となった。当然活動もマイペースになるため、本作『Até Ao Fim』もオリジナル作品としては6年ぶりとなる。
今回プロデュースを担当したのは、ティアゴ・ベテンクール。彼はトランジャというロック・バンドで活動していたシンガー・ソングライターである。カティア自身もロック・バンド出身だったということを知っていれば、この組み合わせだとミクスチャー的なサウンドを予想してしまうかもしれない。しかし、実際にはそういったトリッキーな指向は一切見られず、ファドが本来持っている歌の世界を見事に表現した作品集に仕上がっている。その証拠に、彼が提供した楽曲 《Ate Ao Fim》と 《Sei Que Estou So》は、アコースティックなアレンジと美しいメロディが冴える王道路線。ポルトガル・ギターのルイス・ゲレイロやベースのフランシスコ・ガスパールといった名手たちのサポートも手堅くまとめられている。
その他の楽曲も、カティアの歌をしっかりと聴かせる落ち着いたナンバーが多く、洗練されたアレンジによって彼女の声の良さを最大限に引き出している。そこには仰々しい感情表現は控えめに、比較的淡々と丁寧に歌いこなしていることに好感が持てる。なかでも、アマリア・ロドリゲスの言葉にギタリストのペドロ・デ・カストロが曲を付けたメランコリックなナンバー 《Quero Cantar Para Lua》も気負わず自然体なのがいい。しかし、その陰にはファドを背負って立つカティアの強い意志も垣間見られ、ほのかに芯の強い女性像が浮かび上がってくるのだ。