コラム

グレアムが全面関与したブラーの新作は、屈託ない雑食主義に則って東洋と西洋/過去と未来/歌心と実験欲が交錯する一枚

グレアムが全面関与したブラーの新作は、屈託ない雑食主義に則って東洋と西洋/過去と未来/歌心と実験欲が交錯する一枚

There's No Other Way
ついに、やっと、待ちわびた瞬間が訪れる! グレアム・コクソンが全面的に関与したアルバムとしては、99年の『13』以来となる新作がお出ましだ! ここにあるのは伝統的な英国ロックをポップに響かせる、この4人でしか作り得ない魔法のホイップ。さあ、胸を昂らせ、大声で叫べ!!

BLUR The Magic Whip Parlophone/ワーナー(2015)

 12年ぶり!? いやいや、この『The Magic Whip』はブラーの16年ぶりのアルバムと位置付けるのが正しい。オリジナル・メンバーでのライヴ活動再開から6年を経て登場する8作目は、まさしく99年の『13』と直線で繋げられる作品であり、〈だからブラーが好き!〉と言いたくなる内容であり、グレアム・コクソン不在の前作『Think Tank』がいかに異質だったか、グレアムのギターがいかにバンドにとって不可欠な要素だったか、いまさらながら思い知らされる。ちなみに、陽の目を見ることはないと諦めていた本作がこうして届いたのも、ぶっちゃけグレアムのおかげだ。

 事の始まりは2013年5月。出演予定だった〈TOKYO ROCKS〉がキャンセルされてスケジュールに空白が生まれたことから、滞在先の香港で4人はレコーディングを企画。5日間に渡って気分の赴くままにジャムをするものの、作品にまとめることができずお蔵入りに……。その後、昨年になってグレアムが、初期の名盤を一緒に作った盟友スティーヴン・ストリートと、野放図な音源を編集/加工しながら曲に仕立て、デーモンは香港を再訪して自分たちの足跡を辿るように詞を書き上げ、完成に至ったのである。

 つまり先入観なく着手しただけに、本作は香港そのものをストレートに反映しており、冒頭のサンプルが聴き手を雑踏に引きずり込んで、あの混沌とした情景を目の前に突き付け、色彩と匂いとノイズで感覚を刺激。4人はいつもの屈託ない雑食主義に則り、東洋と西洋、過去と未来、歌心と実験欲をダイナミックに交錯させる。そこからは、90年代の王道ブラー(“Lonesome Street”)も、『13』に通じる変化球のブラー(“Go Out”)も、94年の“To The End”を想起させるユーロ・シアトリカルなブラー(“There Are Too Many Of Us”)も聴こえるが、ほかにもアフロ・ブルースや60sポップス、古典ソウル、ラテン、エレクトロなどを引用し、音のパレットをめいっぱい拡大。異国の非日常な空間で感じる混乱と漂流感、遠いようで近く、近いようで遠い、いまの奇妙な世界の距離感を、ドリーミーでサイケデリックでカオティックなサウンドスケープに捉えたと言えよう。

 そんななかでもハイライトを選ぶなら、タイトルからして言い得て妙な長尺曲“Thought I Was A Spaceman”、あるいは〈僕らが兄弟だったのはずっと昔のこと〉とメンバーの関係を振り返っているようにも聴こえるバラード“My Terracotta Heart”だろうか。もちろんデーモンだけに、香港での民主化デモや昨年訪れた北朝鮮の様子、シドニーで起きた人質事件にも言及しつつ、パーソナルとポリティカルを切り離さずに歌う。そういう意味で、『The Magic Whip』という名の〈香港の奇跡〉は、現代社会の論評である一方で、4人が絆を再確認し、ことにデーモンとグレアムが和解に至るまでの過程の記録でもある。そしてまた、ひとつの終着点なのか、新たな出発点なのかわからないからこそ、いっそうマジカルで愛おしい。

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