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ネルスが吉田ヨウヘイgroup新作を聴き、ギターを実演!
「スティーヴ・ハウとピックの持ち方が一緒だと発見したんだ」

――実は、彼ら(YYG)の新しいアルバムも発表されたばかりなんです。ネルスさんにも一曲聴いてみてもらいたくて。どの曲にします?

吉田「(西田と話し合って)“サバービア”にしましょう!」

吉田ヨウヘイgroup paradise lost, it begins P-VINE(2015)

ネルス「これはビックリだな。誰がドラムを叩いてるの?」

吉田「豚汁です(YYGのドラム、高橋“TJ”恭平の愛称)」

西田「ピッグスープ」

ネルス「どういうこと?」

通訳「(英語で)〈豚汁〉はドラマーの名前で、ポークの入ったミソスープの呼称でもあるんです」

ネルス「あー、なるほど(笑)。実は今朝、これまでの人生で一番美味しいお味噌汁を口にしたばかりなんだよ。(宿泊していた)ホテルのなかにお寿司屋さんがあるんだけど、アサリをふんだんに使っていて、3種の味噌をブレンドしたものだった」

――それはたしかに美味しそう!

ネルス「(じっくり聴き入りながら)クレイジーなフォーク・ミュージックだね。(机をトントン叩いて)このシンコペーションが好きだな。(普通の)ポップとは違うけど、爆発的なエネルギーを感じさせる。70年代のブラジリアン・ポップスみたいにカラフルでエキサイティングだね」

吉田「ありがとうございます!」

ネルスプログレッシヴ・ロックの要素も感じさせるけど、シンフォニックというのもまた違うし。最近じゃあまり聴かないサウンドだね。トルコの70年代のバンド、セヴダ(Sevda)を思い出したよ。ドラムもオケイ・テミズのようだ。ヨーロピアンなホーン・プレイヤーとトルコ人のリズム・セクション、それを思い出したよ。リズムも素晴らしいし、声のようなホーン、まるでヴォーカルのようなホーンのメロディー表現があって。君たちのバンドは何人くらいでやってるの?」

吉田「7人です。僕はドン・チェリーやオケイ・テミズが好きで」

ネルス「そうかい! ビックリだな。君はいったい歳いくつなの(笑)。 70年代には(そういう音楽を)聴くことも難しかったのに、いまどきの子はいろんなことを知っているね。じゃあ、ベンクト・ベルガーボボ・スタンセンも知ってる?」

吉田「好きです。アルキメデス・バドカーも」

ネルス「そっか……素晴らしいね」

【参考動画】マフィー・ファレイ&セヴダの72年作『Jazz I Sverige '72』収録曲“Batum”
トルコ人3人組のセヴダと、スウェーデン出身プレイヤーがタッグを組んだエスノ・ジャズ名作
オケイ・テミズは、セヴダやドン・チェリーのバンドにも参加したトルコ人打楽器奏者

 

【参考動画】アルキメデス・バドカーの76年作『Archimedes Badkar II』収録曲“Två Världar”
アルバムにはスウェーデン人ドラム/パーカッション奏者でコンポーザーのベンクト・ベルガーも参加

 

――この曲(“サバービア”)はギターもすごいけど、西田くんはどのあたりを意識していたの?

西田イエスですね。スティーヴ・ハウとか。ハーモニクスやダブルストップのようなフォーキーにも使える技術を、音色を硬質にしたり、疾走感を持ってプレイすることでソリッドにも聴こえるようにするやり方がこの曲にはすごく合うはずだと思ったので、頑張って取り入れたいと思いました」

ネルス「僕もスティーヴ・ハウは大好きだよ。17歳の時に思いっきりハマって、ここ数年でまた意識するようになった。このあいだ(ウィルコの)ジェフ・トゥイーディとも話していたところなんだけど、彼はとてもオリジナルなギタリストだね。ベンディングもほとんど使わなかったところとか、当時珍しかったと思う。ギターは(ギブソンのES-)175を使っていて、トレブリーな音色だとか、ブルージーなところがあって、そのプレイがそのままイエスの音楽に意味や価値を追加していたんじゃないかな。例えば彼がちょっとソロの機会があるとすると、そこでブルーグラスを思わすようなフラット・ピッキングをしたり、ラップ・スティールを使ったりナイロン弦で演奏をしたりして、ブルージーな要素を追加したりっていう。彼はグループの調和を乱すことなく、いろんな帽子を取り替えるように様々なカラーを添えることが出来た。特にウィルコでの活動においては、自分もそんなふうに色付けが出来るアーティストにすごく影響を受けているんだ」

【参考音源】イエスの72年作『Close To The Edge』収録曲“Siberian Khatru”
スティーヴ・ハウの疾走感あるプレイも聴ける人気曲

 


イエス愛溢れる吉田ヨウヘイgroup(YYG)のグッズ用バンド・ロゴ

 

ネルス「あとはヴォリューム・ペダルを使うようになったのもスティーヴ・ハウと(キング・クリムゾンの)ロバート・フリップの影響でね。みんなはビル・フリゼールの影響だと思ったらしいけれど実は違うんだ。別にビル・フリゼールが最初にヴォリューム・ペダルを使った人でもないし、ここ何年も全然使ってもいないのにね。当時、自分はそういう音楽(プログレ)を聴いていなかったからというのもあり、グレッグ・ベンディアンに朝の3時までイエスとジェネシスのビデオを無理やり見せられて。その時にスティーヴ・ハウと(自分の)ピックの持ち方が一緒だと発見したんだ。細い指でこういうふうに持ってて(実際に握ってみせる)、あと僕がよくやるクラシカルに似せた持ち方とかもやってて、ほんと信じられなかったけどすごくハッピーになったよ。それから、自分のピックの持ち方もまんざら悪くないんだなというふうに思えるようになった」

※グレッグ・ベンディアン
ネルスのほか、パット・メセニーやセシル・テイラーらと共演歴をもつニュージャージー州出身のドラマー。ネルスとは99年に共演作『Interstellar Space Revisited: The Music of John Coltrane』も発表している(
参考音源はこちら

西田「もう一回どうやって(ピックを)持つか、見せてもらってもいいですか?」

ネルス「もちろん。親指にも特徴があるんだ(握ってみせる)。大したことはしてないんだけどね。ピックの持ち方はちゃんと学んでなくて、あるときギターの講座を受けたら、ちゃんとした持ち方をしていないということで教師はとても嫌がってたね。いわゆる完璧な〈正しい〉のはこうらしい、3本の指でアンカーはなし(ギター壁面に何もつけない)。でも僕には全然できないね。だから僕の持ち方はこう。手をギターに乗せ、この指を使ってね。だからいつも何かに触れている。手のひらはブリッジに、だからここにタコができている。ときどきマメや水ぶくれもできるよ。こんなふうにね」
 

★文章に書き起こしても、ピックの持ち方がまったく伝わらないですよね! ここでネルスが直々にギターを持って実演してくれた、取材のハイライト動画をどうぞ!

  

ネルス「テクニックは(人から)習ったことはない。ブルースマンのクラレンス・ゲイトマウス・ブラウンは知ってる?  もう亡くなってるんだけど。彼なんてこんなふうだよ(握ってみせる)。ブルース系(のミュージシャンは)よくこうやって弾いてる。彼もスティーヴ・ハウとかと似たようなピッキングなんだよ。とにかく、何が正しいとか間違っているとかないと僕は思う」

【参考動画】クラレンス・ゲイトマウス・ブラウンの1966年のパフォーマンス動画

 

吉田「彼(西田)もネルスさんと同じジャズマスターを使っていて、同じマスタリー・ブリッジを使っているんです」 

ネルス「そうなんだ。僕の(マスタリー・ブリッジ)はジョン・ウッドランド(John Woodland)がデザインしたんだよ。(西田のギターを見て)ああ、いいギターじゃないか。素敵だね。このフィニッシュはどこで?」

西田「レリックです」

ネルス「色の組み合わせもいいね。本当にクールだ」

吉田「ネルスさんのインタヴューを読んで、このブリッジを使っていることを知って(西田が)買ったんです」

ネルス「そうなんだ。さっき言ったジョン・ウッドランドが、たしか日本で(マスタリー・ブリッジが)よく売れている、なんて言ってたよ。僕は〈だって日本はジャズマスターだらけだからね〉って言っておいた。いずれにせよ、そのギターはセンスがいいね」

吉田「売れているのはネルスさんの影響ですね(笑)」

ネルス「でも、本当にいいものだよ。全然違うよね」

ネルスの実演がはじまり、思わず前のめりになる2人

 

吉田「最後に、勝手に(YYGの音楽性と)共通点を感じているところについて質問させてください。昨年(〈JTNC2〉で)インタヴューさせていただいた際に〈ネルスさんの弾く速いパッセージがサックス奏者のアルペジオみたいだ〉と言ったら、〈ジョン・コルトレーンの影響を受けている〉という回答をいただいたんですけども、昨日のライヴを観て、あなたの演奏にはモード期のコルトレーンの影響があるんじゃないかな?というふうに感じました。個人的には“Impressions”とか“A Love Supreme”みたいな曲をジミ・ヘンドリックスが歪んだギターで演奏したらすごくカッコいいんじゃないかと昔から想像していたんですが、それとかなり近いことをネルスさんはやっている印象で。僕も自分のソングライティングにモード期コルトレーンの雰囲気を取り入れられたらと……と考えていて、〈もしかしたら(ネルスさんも)近いことを考えているんじゃないかな?〉と勝手に思ったりしたんですが」

ネルス「モードの影響は最近になって戻ってきているように自分では感じるね。ますますその傾向が強くなっていると思う。いまどきのシンガー・ソングライターとかって、弾き始めたらすぐにコードが変わるみたいな感じだけど、そういうのは自分としてはちょっとね。たしかにモーダルな音楽にはすごく興味を持っていて、コルトレーンに関してはどんな曲もクロマティックに吹いている感じを受けるし、曲のなかでコードチェンジはほとんどない。それは(インド伝統音楽の)ラーガにおける旋法にも通じる部分だよね。とか言っておきながら、自分も関わった今年リリース予定のアルバムのひとつは、コードチェンジがすごく多いジャズ・バラードを扱った作品なんだけどさ(笑)」

【参考音源】ジョン・コルトレーンの63年作『Impressions』収録曲“Impressions”

 

吉田「もう一つ、どうしても訊きたいことがあって。シンガーズのリズム隊も世界最高峰の演奏レベルだと昨日のライヴで思ったんですけど、ウィルコもそういうレベルのバンドですよね。もちろんメンバーが違うので多少は勝手も違うとは思うんですけれど、(それぞれのバンドで)演奏されているときに、どちらも自分の思うように演奏すれば(バンドのアンサンブルに)勝手に合うものなのか、それとも意識的に演奏の仕方を変えたりするものなのでしょうか」

ネルス「自分のバンドをやっているときは、ほとんどみんな自由にやって、それで自然と流れが出来ていくという感じ。唯一管理するとすればテンポくらいだね。それでもたまに、ミスって速すぎたり遅すぎたりなってしまうんだけど。これがロック・バンドになると、グルーヴや構成をどうするか延々話し合いすることになるわけで、僕は正直そこにはあまり参加していない。自分がやりたいように出来るときは、信頼を置いているプレイヤーと即興で演奏している。例えば自分はNYでジム・ブラックジェラルド・クリーヴァーチェス・スミスなどたくさんの素晴らしいドラマーと一緒に演奏しているんだけど、そこでは僕は何も言わないし、比較的自由度を持たせてセッションしている。スコットに関しても、歌が入るときは〈クロス・スティックにしてくれ〉とか〈シンバルは外して〉みたいに頼むときもあるけど、基本的には彼の好きなようにやってもらっているし。自然とグルーヴを作るやり方が自分には合っているんだと思う」

 【参考動画】ウィルコ“Impossible Germany”のパフォーマンス動画

 


 

〈話を聞いてみて〉

当日、吉田&西田が用意したノートには質問がビッシリ! さらに取材中も熱心にメモを取り、緊張しながら不慣れな英語でもコミュニケーションを図ろうとするなど、ネルスへのリスペクトが伝わってくる取材でした。大ファンだからとミーハーな質問は一切せず、ひたすらギター奏法やバンド・アンサンブルの構造など、ネルスの音楽観に迫ろうとしていたのもナイスですね!

 

 

会えるはずではない人に会っている、という感覚が最後まで抜けきらなかったんですけど、どの質問にもしっかり答えてくれて、ギターの話になったらギ ターを持って実際に弾いてくれたりと、その人柄を本当に尊敬しました。今回(シンガーズの)ライヴを2回観れたんですけど、本当に素晴らしかった。インタヴューで話していることも、実際のライヴを観てみないと実感しにくい部分も多いと思います。またシンガーズで来日してくれる機会もあると思うので、その際は今回行けなかった方にもぜひ足を運んでほしいなと思いました。アルバムとも全然違う、聴いたことのない音楽が聴けるので。(吉田)

自分のヒーローが目の前にいることへの興奮で終始やられっぱなしでしたが、話す内容はもちろん、語り方自体からも音楽への真摯な姿勢が溢れ出ていて、自分もこんなふうになりたいと一層憧れが深くなりました。今回のライヴは凄すぎて、いったいどんなふうにしたらこんなことが出来るのか最初は全く想像がつかなかったのですが、実際にネルスの姿勢に触れることでその糸口が掴めた気がします。これからも憧れ、追いかけ続けたいです。(西田)

 


 

吉田ヨウヘイgroup『paradise lost, it begins』release tour

9月12日(土) 京都UrBANGUILD
共演:本日休演

9月13日(日) 福岡PEACE
共演:ネネカート and more
DJ:toya

9月20日(日) 名古屋CLUB ROCK'N'ROLL
共演:mudy on the 昨晩

10月27日(火) 東京O-EAST
(ワンマンライヴ)

http://yoshidayoheigroup.tumblr.com

【参考動画】吉田ヨウヘイgroupの2015年作『paradise lost, it begins』収録曲“ユー・エフ・オー”のMV