28世紀からこんにちは。サイケデリックでエクスペリメンタルなオーブ・サウンドに乗って、まだ見ぬ時代のダビーな星間ランデヴーへ出かけよう

 「設定が未来の28世紀で、そこで起こるいろんな物語――23世紀とか、『スター・トレック』で描かれている未来よりもずっと先の話さ。23世紀くらいの未来だと、もういろんな作品で見てるから想像がつくだろ? だから俺たちは、それよりもっと未来の世界を提示することにしたんだ」。

 新作に込められたストーリーについて、そう語るアレックス・パターソン(以下同)。昨年は2枚目のベスト・アルバム『History Of The Future Part 2』として、21世紀に入ってからのトーマス・フェルマンユースと共に歩んだ軌跡をCD3枚とDVDのパッケージにコンパイルし、88年から続いた長い旅路にまたひとつの区切りをつけたジ・オーブ。そんな彼らの新たな門出となるニュー・アルバム『Moonbuilding 2703 AD』は、彼ら単独名義のオリジナル・フル・アルバムとしては『Baghdad Batteries(Orbsessions Volume III)』(2009年)から6年ぶり、そしてコンパクトからのリリースという意味では2005年の『Okie Dokie It's The Orb On Kompakt』以来、実に10年ぶりのアルバムである。

THE ORB Moonbuilding 2703AD Kompakt/BEAT(2015)

 これまでジャンルを問わず数々のアーティストとコラボレーションを行ってきたオーブだが、今回はゲストを招かず、アレックスとトーマス・フェルマンの2人きりでの制作となった。そんな環境も手伝ってか、各々のアイデアが奔放に注入されたのであろう、冒頭の発言を証明するように、人類の叡智をもってしても想像に及ばないような688年後の世界を思い描き、そのストーリーに彼らのバックグラウンドに潜むさまざまな要素を複雑に絡み合わせている。淡いノイズが立ち煙るヒプノティックなオープニング曲“God's Mirrorball”から緩やかに始まり、陶酔的な空気を残しながらもビートの力強さを増してダンサブルに変容していく“Moon Scapes 2703 BC”、幻想的なサイケデリアでインナートリップへと旅立たせてくれる“Lunar Caves”、多彩なコラージュにより、異国の情緒が漂うダブへと昇華させたラストを締め括る“Moonbuilding 2703 AD”まで、空間を揺らめく微睡のアンビエンスと深淵な音響を背景に、リズムや音色は変幻自在に移ろっていく。なお、マスタリングをリー・ペリーとのコラボ作と同じくステファン・ベトケポール)が担当しているのも注目だろう。

 「プロセスは自由だったし、エクスペリメンタル・レゲエ、エクスペリメンタル・テクノ、ジャズのリズム、いろんなものが放り込まれてる。とにかくこのアルバムは、俺とトーマスの持つエッセンスが盛り込まれた〈音の旅〉って感じだな」。

 一曲ごとの緻密な構成はもちろんのこと、また「アルバム全体がひとつの音楽なんだ。4つの異なるトラックをどう繋ぐか、これもまたチャレンジだった」とも語るように、スムースな流れで物語を辿り、再生をすればリスナーがたちまち28世紀の旅へと出発することができるのは、2人の緻密な計算がなせる技と言えるだろう。

 さて、そんなサウンド面でのチャレンジもさることながら、強烈なインパクトを受けるアートワークについても触れておかなければならない。今回のヴィジュアルは、トーマスがかねてから希望していたというデザイナーズ・リパブリックと共に仕上げられたもの。音楽と同等のクォリティーを求めていたとのことで、作業はかなりの困難を極めたとか。

 「けっこう張り詰めていたよ。コンパクトのレーベル・ロゴでさえも、色や置き場所がなかなか決まらなかったり、とにかくすべてにパーフェクトを求めてたから。俺たちも向こうも、詳細にかなり注意を払っていたんだ」。

 ちなみに1曲目のタイトルにもなっている“God's Mirrorball”とは、ジャケットの中央で燦々と輝いているそれだ。

 「ディスコのミラーボールはわかるね? あれの宇宙一大きなものが〈God's Mirrorball〉なんだ。ミラーボールから放たれる何千ものキラキラした光線が、宇宙に広がっている。ゴッドというのは特定の神じゃない。大きな存在って意味さ。宇宙サイズのディスコ・ボールだな」。