フェス会場にいるんだが、どうやら財布を無くしたらしい。なので、目の前のライヴ・パフォーマンスに集中できず、リュックの中に入れたままなのかもしれない、そもそもそのリュックはどこへ行ったんだ? と会場中を探し回っている。

財布を無くしたことはしょうがない。その中に入っていたカード類の使用停止だとか再発行だとかの手続きのほうが面倒で嫌だな~、とずうっと探しながら思っていた。会場内を探し回っている間には、久々に会う懐かしい人との再会なんかも挟みつつ、カサヴェテス映画のような手持ちカメラによるストリート長回しが続いていて、その映像は終わってしまった。

映像? 真夜中に目が覚めた。真っ暗な部屋、ベッドの上だ。副鼻腔炎というのに罹ってしまい、寝る前に飲め、という病院でもらったアレルギー抑制の薬がひどく強かったらしく、すぐに眠りに入り、そして悪夢を見て、目が覚めた。

気分的には、サイキックTVが聴きたくなった。どうしてかはわからないけど、悪夢的、という感覚/印象から引き出された欲望なのかもしれない。確かに夢うつつなサウンドには違いないけれど、スウィートな夢っていうイメージとは違うわな。

でも、時々スウィートでロマンティックな曲もあったから、そこもサイキックTVが好きな理由だった。 

いま聴き返してみると、ガムランっぽかったりして、ノイズ民俗音楽、過激さとロマンティックさの同居、という20代に入って自分が好きな音楽的側面を明確に意識しはじめる要素をサイキックTVは持っていたんだな、と気づく。

サイキックTVを知ったのは、十代後半ごろ近所のバンド仲間の有馬くんにダビングしてもらったミックステープに入っていたからだ。有馬くんのミックステープには全然知らない、それまで聴いたこともなかった奇妙な音楽がいっぱい入っていて、〈もっと聴いてみたい!!〉という音楽的欲求をひどく刺激されるものだった。例えば、セックス・ピストルズは中学生の頃から聴いていたけど、P.I.L.は聴いたことがなかった。

直接的なパンク8ビートを聴くのにも飽きはじめていたので、アラビックな旋律だとか、ギター・ノイズの作り方、自由なジョン・ライドンの呪術的唱法なんかに夢中になった。そうか、パンク以降のUKでは、ニューウェイヴというのがあったんだな。中学生の頃MTVで観てたハワード・ジョーンズトンプソン・ツインズとは随分と違う音楽だな、と。

また、有馬くんにダビングしてもらった別のミックステープには、これまた聴いたこともない奇妙な曲が入っていた。ドイツのバンドで、カンって言うらしい。クラウト・ロックっていうものがあるらしい。

P.I.L.がカンに影響を受けていた、とかはもっとずっと後、大人になって知ることになる。UKニューウェイヴはクラウト・ロックの影響も大きい、と。な~るほど。

有馬くんは、国分寺のバイト先の古着屋のバイト仲間にいつもミックステープをもらってて、それをダビングさせてもらってたんだけど、今度その人がやってるバンドを観に行こうよ!ってことで、吉祥寺のマンダラか高円寺の20,000Vかそこらあたりのライヴハウスへ行った。確か割礼が対バンだったような、、、。

割礼のフリーキーなアレンジにもP.I.L.に似たものを感じて、すっげえカッコいいバンドがいるもんだな~、とそれからしばらくは夢中になって聴いていたし、当時やってた自分のバンドでも〈虚無的に行こう!〉とP.I.L.や割礼からの影響が大きくなった時期もあった。で、有馬くんのバイト仲間がやってるのは多摩美の人たちがやってるゆらゆら帝国というバンドで、アレ、それってあの眉毛が無い真っ黒の服を着た人たち、、、まさにステージにいる人たちは、国分寺のスタジオで、俺のバンドの隣の部屋でいつも練習してるゆらゆら帝国じゃん!

、、、と、悪夢で目が覚めた昨晩に甦った一連の記憶たち、でした。

【P.S.】ゆらゆら帝国の坂本慎太郎さんには、その後bounce誌でのインタヴュー時にその当時のことをいろいろと話して、いいミックステープをいろいろと聴かせていただいたお蔭で、この仕事にも繋がっています、ありがとうございました、と御礼を述べました。坂本さんは昔の記憶が急に甦って〈アタマがグラグラグラッとした〉と目をパチクリとしていました。

坂本さんのソロ2作目『ナマで踊ろう』、楽しみすぎ~!!