コラム

映画「サケボム」

紋切り型の「アジア人」を敢えてみずから演じて状況を切り抜ける!

(c) 2013 pictures dept. / Sake Bomb Films, LLC

 

 SAKE-BOMB(英語なまり風にSakiと発音すべし)とは、ビールグラスのうえに箸を並べ、日本酒の入ったお猪口をのせて、「サキサキボム!」のかけ声とともにビールのなかに日本酒を(爆弾のように?)落として一気飲みするもの。カウンターで小粋に鮨をつまみながら大吟醸をちびちび嗜む、世界中のハードコアな日本酒愛好家がいかにも眉をひそめそうな飲み方だが、米国の大学生のパーティなどではおなじみの光景。焼酎とビールを混ぜて飲む韓国のソメクにも似ている。

 


(c) 2013 pictures dept. / Sake Bomb Films, LLC

 

 2000年以降、米国で映画製作を行なってきたサキノジュンヤ監督の長編劇映画第一作目は、異文化の衝突をコメディタッチで描いたものとなった。日本人キャストも含め、会話は全編英語。濱田岳扮する純朴な青年ナオトは、初恋の人をさがしに、ロサンゼルスにやってくる。彼は酒蔵で働く日本酒職人だが、米国生まれの従兄弟セバスチャン(日本人の父と朝鮮半島出身の母をもつ)と出会い、二人は北カリフォルニアに住むというナオトの元恋人をさがす旅にでる......。

 日本生まれのナオトと米国生まれのセバスチャン。考え方も話し方も表情も身のこなしも何もかも違う。日本酒とビールのように凸凹の二人だが、彼らの視点を同時並行的に導入することで、米社会でのアジア人/アジア系人にかんする無知やステレオタイプを指摘するにとどまらず、彼ら自身がお互いに対して抱いている偏見やコンプレックスをも暴露し、米国においてアジア人/アジア系人として生きる現実を多層的に浮かび上がらせる。

 


(c) 2013 pictures dept. / Sake Bomb Films, LLC

 

 セバスチャンは動画配信ブログFOB Mother Fucker(FOBはFresh Off the Boatの略で、新来のアジア人を指す俗語。「カタコトの英語」「運転が下手」といったステレオタイプを含意)を管理する最強のひねくれ者。「酒が弱い」「スポーツが苦手」「内気で黙り屋」「アジア人の顔はみな同じ」といったアジア人/アジア系人に対するステレオタイプに、辛口のユーモアと自虐をまじえて論駁する動画を撮ってブログに上げたり、「どうしてアジア人の女の子は白人と付合いたがるのか」と毒づいて、友だちを怒らせたりする。サキノ監督はセバスチャンについて「アジア系アメリカ人であることのネガティヴな要素を全部くっつけたような人」と語るが、その個性的な人物造形には、旧知の仲である気鋭の脚本家ジェフ・ミズシマ氏の貢献に負うところが大きいと言う(2013年SXSW映画祭出品時のインタヴュー)。

 二人の強力なタッグにより生まれた物語は、新来のアジア人とアジア系アメリカ人の両方の視点をあわせもち、かつ、多様な人種・文化的背景をもつ登場人物(アジア系、アフリカ系、ラテン・アメリカ系、ユダヤ系など)の対話を用意することで、各種の偏見や固定観念、人がそれらに囚われてしまうメカニズムや心理も含めて、鋭く、ユーモラスに抉りだす。とりわけ、アジア系男性のセクシャリティにまつわるステレオタイプ(「貧弱」「軟弱」というお決まりの見方)を語る部分には熱がこもる。

 この映画が格別リアルに感じられるのは、偏見や差別を告発するセバスチャン自身が、中国に対する差別意識に囚われていたり、新来者のナオトを見下したり、紋切り型の「アジア人」を敢えてみずから演じて状況を切り抜けようとしたりする様子を描いているところ。批判しているはずのステレオタイプに逆に束縛されてしまうセバスチャンの矛盾と自己嫌悪を、カメラは愛情たっぷりにみつめる。セバスチャンに扮するのは、コリアン・アメリカンのユージーン・キム氏。ステレオタイプを逆手にとってネタにするスタンダップコメディが本業で、まさにはまり役といえる。コメディアンらしいテンポのいいせりふ回しは小気味よく、口が悪く、誰に対しても敵意むきだしなのに、なぜか憎めないセバスチャン役を好演している。ほかにも、アジア系人ポルノスターという役どころで、ヴェトナム系アメリカ人コメディアン、ダット・ファン氏が出演している。

 


(c) 2013 pictures dept. / Sake Bomb Films, LLC

 

 おなじみのロードムービーの枠組に、マスメディアやポップカルチャーにおけるアジア人/アジア系アメリカ人の表象にかんする辛口の論評を盛り込んだ上質のエンターテインメントに仕上がっている。日本酒の酒蔵、稲穂が風に揺れる農村風景、伝統的な家族観など、外国の観客が期待するであろうステレオタイプの「日本」も持ち込みつつ、それらをズラしたところに落とし込んでいく。酒でもビールでもないまったく別の味を醸していると言えるのだろうか。英語圏での生活経験者にとっては、思わず爆笑してしまう「あるある」がそこここに散りばめられている。

 

元カノ追っかけ5000マイル!
明日ちょっとだけガンバレる、青春“ほろ苦”ロードムービー!
「サケボム」

監督:サキノジュンヤ
脚本:ジェフ・ミズシマ 
音楽:吉田大致
出演:濱田岳/ユージン・キム/マーレーン・バーンズ/渡辺裕之でんでん/他
配給:ピクチャーズデプト (2013年 アメリカ・日本  82分)
◎5/24(土)新宿シネマカリテ 他全国順次ロードショー!
(C)2013 pictures dept./Sake Bomb films, LL
SAKE-BOMB.COM

 


intoxicate presents
女性限定 特別試写会


映画『サケボム』 特別試写会に
35組70名様をご招待!
5/8(木) 19:00開場  19:30開映
会場:渋谷ヒカリエ8/COURT
映画終了後、トークショーがあります。 21:00〜21:30

MC:マイソン(トーキョー女子映画部)
ゲスト:青柳文子中田クルミ

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