ピアノの旋律と美麗なファルセットを得て劇的に進化したシンガー・ソングライター。孤独も希望に変える目映いポップ・アルバムが完成!
昨年秋の初ミニ・アルバム『ツベルクリン』がピアノ・ポップを愛する者たちの間で評判に。だがビッケブランカがピアノを始めたのは21歳の時で、それまではバンドでギター&ヴォーカルを担当していた。
「ずっとしっくりきてない感じだったんです。〈本当に自分の伝えたいことが伝わってるのかな?〉って。だから表現の仕方を根本的に変えようと、1年間必死でピアノを練習したんです」。
ピアノとの親和性は本人の想像以上に高かった。それは、高校時代はヘヴィー・ロックなどを聴いていたものの、小学生の頃はマイケル・ジャクソンとSMAPにどっぷりハマっていたからで、そうした普遍的でポップなメロディーにチューニングを合わせることで、自分らしい表現ができるように。ベン・フォールズ・ファイヴを聴いて「ピアノでこんなにロックできるんだ!?」と衝撃を受けたのも大きかったが、それ以上に彼のスタイルに強い影響を与えたのがミーカの存在だった。
「僕は地声が低くて、それが曲作りに制限を与えていたんですよね。でもミーカを聴いて思ったんです。この人は〈他と違ってていいんだ〉という信念の元にファルセットを出している。僕も地声の表現に限界を感じているのなら、裏声で思いきって歌っちゃえばいいんだと」。
ここでまた彼は凄まじい集中力を発揮し、半年間毎日裏声を出し続けることで新たな歌唱法を獲得。それによって作曲の幅もグッと広がり、2年前に〈ビッケブランカ〉と名乗るようになってからは、「ステージに立った時、別の自分になれる感覚を得ました。本名の自分と演者としてのビッケブランカ。その担当分けがハッキリしましたね」。
言わば、本名の彼が映画監督で、ビッケブランカが演者。そのユニークな同居は作品にも反映されている。丁寧かつ繊細に風景や季節感を織り込みつつ、彼は短編映画のような歌詞を書く。また、キラキラしたメロディーであってもふいに孤独であることが見える瞬間が、彼の曲にはある。元bonobosの佐々木ヤスユキらとバンド形態で完成させた新作『GOOD LUCK』は、より立体的かつダイナミックにそうした世界観を伝えてくる意欲作だ。
「孤独と希望の対比。前作もそれが根底にあったけど、今回はもっとそれを深く掘り下げられたし、3日間でバンドで一気に録音することによって、勢いとか、それによる一瞬の奇跡みたいなものを盤に封じ込めることができました。これを聴いた人の過去や現在の不安が少しでも希望に変わったら……僕はこれを作った意味があると思うんです」。