イギリスが誇る歌姫、ジョス・ストーンの来日公演が10月12日(月・祝)~13日(火)にBillboard-LIVE TOKYO、15日(木)にBillboard-LIVE OSAKAで開催される。2003年にソウルフルなカヴァー集『The Soul Sessions』で若干16歳にてデビューを果たし、2011年にはミック・ジャガーやデイヴ・スチュワート(ユーリズミックス)らとスーパーヘヴィーを結成。錚々たるヴェテランたちに愛されてきた実力派であり、セールス面でも成功を収めつつ、作風を転々とさせながら類い稀な歌唱力でリスナーを魅了してきた。今回の公演はショーン・ポール、ローリン・ヒル、コモンらに続くBillboard-LIVEの8周年企画プレミアム・ステージで、先ごろ発表されたばかりの新作『Water For Your Soul』(レビューはこちら)を引っ提げての最新モードが披露される。ライヴでは新曲と共に、往年の名ナンバーにも期待したいところだ。そこで今回は、デビュー時より海外にも渡りながら彼女を熱心に追いかけてきた音楽ライターの内本順一に、濃密で奔放なキャリアを振り返ってもらった。(Mikiki編集部)
ジョス・ストーンは過去に3度来日している。初めての日本でのライヴは2004年11月20日の渋谷CLUB QUATTROで、それはデビュー作『The Soul Sessions』の国内盤発売から2か月後のメディア向けショーケース。このとき彼女は喉の調子が悪かったようで、それを引きずってか2005年1月に行われる予定だった正式な初来日公演は中止となった。2度目の来日は2007年4月9日の恵比寿LIQUIDROOM。これはサード・アルバム『Introducing Joss Stone』のプロモーション来日時に行なわれたショーケース・ライヴで、一般客用のチケットも売り出されたが一瞬で完売に。10人ものバンドを引き連れ、10曲以上を彼女は歌った。
3度目の来日はその約3カ月後で、彼女は〈フジロック〉の昼間のGREEN STAGEに立った。そこから8年ぶりとなる今回のBillboard-LIVE公演は、単純に久しぶりというだけでなく、ようやく実現する初の正式な単独来日公演なのであって、だからとても感慨深い。知名度のわりには動く姿を観たことのある人が少なく、そのキャラクターもあまり知られていない……それが日本においてのジョス・ストーンだったから、今回の来日公演はいろんな意味で強いインパクトを残すことになるだろう。
初めから完成されていたディープな歌唱力
ソウル再発見を促した早熟のデビュー期
ジョスがデビューしたのは2003年。ベティ・ライトらのプロデュースのもと、70年代のマイアミ・ソウルの名曲群を当時の腕利きミュージシャンたちによる演奏でカヴァーした『The Soul Sessions』が初作だったが、僕はタワーレコードの店頭におとなしく置かれていたその輸入盤を、60年代のソウル・レコードのようなレトロなデザインのジャケに惹かれて即買いしたのだった(半年後に出た日本盤はデザインを変更)。その時点ではまだ彼女が何者なのか、何の情報もなかったので知らなかったのだが、あとでイギリス出身の白人女性であり、しかも16歳だとわかって驚愕した。音の志向に加え、彼女のヴォーカルそのものがディープ極まりなく、どう考えてもそれは16歳の少女の歌唱とは思えないものだった。それはある意味その時点で完成されているとも言えるような歌いっぷり。ウィリー・ミッチェルが関与したワシントン出身の男性シンガー、リッキー・ファンテが、ジョスの『The Soul Sessions』のすぐあとにかなり近いコンセプトのEP『Introducing Ricky Fante』を出したりはしていたものの、当時はまだそれほどソウル復権の動きが目立って見えていたわけでもなく、それもあってジョスの登場は世界をざわつかせた。
ちなみに、エイミー・ワインハウスのデビュー作『Frank』が出たのも2003年で、ジョスのデビューの半年後。アデルのデビューはその約4年後だ。もちろん90年代にはネオ・ソウル~オーガニック・ソウルのブームがあったわけだが、英国の……特に若い女性歌手たちによるソウル再発見的な動きは、ジョスの『The Soul Sessions』から始まったと言っていいだろう。
そのアルバムはイギリスはもとよりアメリカでもゴールド・ディスクに輝く快挙となったがしかし、2007年にインタヴューしたとき、ジョスは振り返ってこう話していた。「あのアルバムを一言で言うなら〈ヴィジョン〉。といっても、私のではなく、制作の大人たちのヴィジョンだけどね。私の作品というよりは、私の関わった作品。関わることができて光栄ではあったけど」。
そんな思いがあったから、ジョスはその翌2004年、今度は〈私の作品〉と言えるものを作るべく、自ら数曲を書いて初のオリジナル・アルバム『Mind Body & Soul』を制作し発表。だが、このアルバムも制作の主導権は『The Soul Sessions』同様、S・カーヴのCEOだったスティーヴ・グリーンバーグとプロデューサーのマイケル・マンジーニにあり、UKチャートで1位、USチャートでも11位を記録するほどの成功を収めたにも関わらず、ジョスはのちにこう話していた。「あのアルバムは、一言で言うなら〈初の試み〉。自作曲を初めて収録することができたからね。でも疲れ果てているときに大急ぎで作らなくてはならなかったから、全曲を好きにはなれなかった。1枚目よりはいいけど、それでも自分のアルバムという感じがしなかったわ」。
存在感のある歌声で引っ張りだこに
ヴェテラン・アーティストたちとの共演
ジョスがそのように否定的だったとはいえ、しかし『The Soul Sessions』と『Mind Body & Soul』はその圧倒的なヴォーカル力で人々に衝撃を与えるのに十分なインパクトを持つ作品だった。〈とんでもない女の子が現れたものだ〉と、業界関係者やヴェテラン・アーティストたちもさぞかし驚いたことだろう。だからこの時期、彼女はさまざまな企画盤仕事などに呼ばれ、ヴェテランたちのお相手をものすごい勢いでこなすことにもなった。
ミック・ジャガーがプロデュースしたサントラ盤『Alfie』でミックとのデュエット“Lonely Without You (This Christmas)”を含む3曲を歌ったことに始まり(この作品にはデイヴ・スチュワートも関与。つまり後にスーパーヘヴィーを結成するメンバーのうち3人がここに揃っていたわけだ)、クイーンのトリビュート盤『Killer Queen: A Tribute To Queen』(2005)で“Under Pressure”を歌ったり、ハービー・ハンコックの『Possibilities』(2005)でジョニー・ラングと“When Love Comes To Town”を歌ったり、サンタナの『All That I Am』(2005)でショーン・ポールと“Cry Baby Cry”を歌ったり、エルトン・ジョンの『Elton John's Christmas Party』(2006)でエルトンと“Calling It Christmas”を歌ったり、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのトリビュート盤『Different Strokes By Different Folks』(2005)でジョン・レジェンドらと“Family Affair”を歌ったり。まさにオヤジ殺しといった感じで、彼女はどんな相手であってもどんな曲調であっても、その歌声の存在感を光らせていたものだ。
ちなみに僕は2005年のグラミー賞授賞式を観に行けたのだが、そこではジョスとメリッサ・エスリッジがジャニス・ジョプリンのトリビュート・パフォーマンスを行なった。それはその日一番のスタンディング・オベーションが起きたほどに圧倒的で、グラミー・パフォーマンスの歴史に刻まれるものとなった。
若さゆえに自由を追いかけて
自主レーベル設立とスーパーヘヴィーへの参加
そうしたヴェテラン・アーティストたちとの共演などでどんどん評判をあげ、自信もつけていったジョスが2007年に発表したのが、前2作の制作陣から離れ、新たにラファエル・サディークをプロデューサーに迎えて作られた『Introducing Joss Stone』。前2作にあった南部縛りを解いて若々しさに見合った現代的なサウンドをネオ・ソウルと溶け合わせ、ローリン・ヒルやコモンもゲスト参加したそのアルバムは、ようやくジョス自身も心から満足のいく仕上がりとなったようで、彼女は「これが私!って感じかしら。このアルバムを一言で言うなら、そう、〈リアル〉よ」と話したものだった(アメリカでは初登場2位に輝いた)。
ちなみに、『Introducing Joss Stone』の発売時期に僕はロンドンのカムデンにある「KOKO」というベニューでジョスのライヴを観たのだが、そこでギターを弾いていたのはラファエル・サディーク。ジョスは「今回一度限りではなく、必ずまたラファエルと一緒にやりたい」と話し、事実、2009年の4作目のアルバム『Colour Me Free!』にもサディークは参加。ほかにシーラ・E、ジェフ・ベック、ナズ、デヴィッド・サンボーンらも参加したその作品は、ゲストの顔ぶれからもわかるようにジャジーな曲あり、ファンキーな曲あり、レゲエあり、王道バラードありの多彩な内容となった。
出来は良かった。がしかし、〈EMIに縛られている〉という思いがこの頃、彼女のなかでピークに達し、リード・シングル“Free Me”では〈EMI、私を解放して〉と歌い、さらには檻に押し込められたアートワークをジャケットに持ってくるなどして我を通した。そうしたゴタゴタによる発売延期なども手伝い、このアルバムのセールスは前作と比べてかなり落ち込んだ。思えば3作目『Introducing Joss Stone』のアートワークも音楽性とはかけ離れたサイケなトーンだったわけだが、そのように少々過激とも風変りとも言える見せ方に走ってしまう傾向があったのがこの頃のジョスで、それは若さ故とも言えたが、万人に理解されづらい一面だったのも確かだ。まあその、ある意味ばか正直とも天然とも言える性格がまた彼女の面白さであり、多くのオヤジ・ミュージシャンたちはそのへんが可愛くて共演したくなったりもするのだろうが。
そんなこんなで翌2010年にはEMIとの契約解除が成立し、ジョスは自主レーベルの〈Stone’d Records〉を設立。その際、いろいろと相談にのっていたのがデイヴ・スチュワートで、その流れから自主レーベルの第一弾作品『LP1』はデイヴがプロデュースを手掛けることとなった。わずか6日でレコーティングされたというその『LP1』は、デイヴがジョスのジャニス・ジョプリン的な歌ヂカラに焦点を当てて際立たせた作品で、つまりソウルよりもロック側に振れたもの。2曲目“Karma”などはまさにジャニスを彷彿させる感情剥き出しの歌いっぷりで、ソウル好きよりもオールド・ロック好きにこのアルバムは支持された。
ジョスとデイヴはこの制作でさらに強い信頼関係を築き、デイヴのソロ盤制作にもジョスは呼ばれた。デイヴは自身のソロ盤制作にあたってミック・ジャガーにも声をかけていたが、しかしその制作は流れ、代わりにバンド・プロジェクトへと大きく発展。それがあのスーパーヘヴィーだ。
ミック・ジャガー、デイヴ・スチュワート、ジョス・ストーン、ダミアン・マーリー、A.R.ラフマーン。この5人がひとつになったスーパーヘヴィーは、以前から一度はバンド活動をしてみたいと願っていたジョスにとって最高のプロジェクトであり、彼女は大きな刺激を得た。と同時に、男性メンバーたちも彼女のナチュラルボーン・シンガーっぷりから元気をもらったようで、スーパーヘヴィーのアルバム・リリースにあたって僕がミックとデイヴに取材した際、ふたりはこんなふうに話していた。
「ジョスとのデュエット曲はふたりでどう歌うか話し合いながら進めていった。〈ここでは、あなたは静かにしてて!〉なんてジョスに言われたりもしながらね(笑)。あのコはいつも歌っているんだ。トイレに行くときにも歌うんだよ。〈ワタシはトイレに行きたいのぉ~~♪って〉」(ミック)
「そういえばトイレのなかからも彼女の歌が聞こえてきてたよ(笑)」(デイヴ)
安住を許さない好奇心旺盛なキャリア
最新モードを引っ提げて、ついに来日
EMI時代よりも遥かに自由に楽しみながら活動するようになったジョスは、どうやらこの時期、創作意欲が溢れ出ていたようで、『LP1』発表の1年後(『SuperHeavy』からわずか10か月後)には早くも新作『The Soul Sessions Vol 2』を発表。タイトルからもわかる通り、これは16歳で発表したソウル・カヴァー集の続編で、デビュー作に大きく関与したベティ・ライトが再びサポート。アーニー・アイズリーも参加したこのアルバムは荒々しいロック歌唱による『LP1』の反対を行く丁寧な作りと歌唱表現が印象的で、ソウル愛好者たちは〈ようやくジョスが帰ってきた〉と喜んだものだった。
思えばこのように、ジョスはデビュー当時から常に反動をパワーにしながら前進してきた。世間がソウルの本格派と評価すれば、〈私だっていまっぽい曲を歌えるのよ〉とばかりに現代的な表現を自作曲主体で志向し、かと思えばロックな表現こそが自分だとでも言うようにあえて荒削りなアルバムを作り、そこから今度はバンド表現を楽しみ、そして再び原点のソウルに回帰。同じ場所に留まることが嫌なのだろうし、単純に飽きっぽいところもあるのかもしれない。が、そのようにある意味で反骨精神とも言えるようなものを持っていた女性だったからこそこうしておもしろいキャリアを積んでいるのだろうし、だからこそ大物たちからもおもしろがられるのだろう。2004~2005年あたりの共演仕事は先に記したが、その後もさまざまあり、2010年にはジェフ・ベックの『Emotion & Commotion』で2曲を歌ったり、リンゴ・スターの『Y Not』で歌ったりもしている。最近ではバディ・ガイの新作『Born To Play Guitar』(2015)にも参加し、相変わらずの大物食いっぷりを見せたところだ。
そしてつい先頃、ジョスは7作目となるアルバム『Water For Your Soul』を発表した。これはスーパーヘヴィーの活動で親しくなったダミアン・マーリーがジョスにアドバイスして作られたもので、レゲエが基調となったアルバム。だがデニス・ボーウェルやニティン・ソーニーの参加もあり、ワールド・ミュージック的な要素もまぶされている。多くの曲でジョスはずいぶんリラックスして歌っていて、その響きは優しく、なんとも幸福なヴァイブレーションを感じさせてくれる。現在28歳。デビューから12年の間にいろんな経験をしていろんな方向性を試してきたジョスだが、それはいつも自分らしくいたいがための表現であり、いまはいまの自分らしさをレゲエを基調とした大らかなリズムで表現しているということだろう。
このようにいま実にいい状態にある、そんなジョスを感じることができる今回のBillboard-LIVE公演は、恐らく新作の曲が主体になるのだろうが、過去の代表曲もきっといまのモードで聴かせてくれるに違いない。本当に楽しみだ。
〈BBL 8th Anniversary Premium Stage JOSS STONE〉
【東京公演】
日時/会場:10月12日(月・祝)~13日(火) Billboard Live TOKYO
開場/開演:
1stステージ 18:30開場/20:00開演 ※本公演は1日1ステージ(90分)のみ。
料金:サービスエリア/24,500円
カジュアルエリア/22,500円
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=9596&shop=1
【大阪公演】
日時/会場:10月15日(木) Billboard Live OSAKA
開場/開演:
1stステージ 17:30開場/19:00開演 ※本公演は1日1ステージ(90分)のみ。
料金:サービスエリア/24,500円
カジュアルエリア/23,000円
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=9597&shop=2