FOLLOW ME UP
20年の軌跡を辿るような、めくるめく72分──世界を広げることを恐れなくなった彼女の〈いま〉
デビュー20周年を飾る坂本真綾の最新アルバム『FOLLOW ME UP』は、まるでバースデー・パーティーのような賑やかさだ。菅野よう子、北川勝利、鈴木祥子など、これまで坂本に曲を提供してきたミュージシャンを迎えた曲をはじめ、the band apart、コーネリアス、大貫妙子など新しい出会いから生まれたコラボ曲。そして、彼女自身が手掛けた曲など盛りだくさんな内容。「シングル曲も多かったし、お腹いっぱいなアルバムになる予感はしてたんですよね(笑)」と微笑みながら、彼女は新作について語ってくれた。
「今回は一曲一曲に世界があって、〈めくるめく72分間!〉という感じの作品になりました。それが20周年らしい華やかさになればいいな、と思ってます」。
そうした収録曲のなかで、最近の彼女の挑戦として耳を惹くのがコラボ曲。彼女はどんな気持ちで共演に挑んできたのだろう。
「『シンガーソングライター』を出したことで、自分のカラーがはっきりしたのは大きかったですね。以前は、いろんな人と一緒にやることで自分らしさが揺らいでしまうんじゃないかと不安だったりしたんですけど、いまではコラボの時に出る予想外の私も自分で楽しめるようになって、世界を広げていくことが怖くなくなったんです」。
そのシリーズの延長線上にあるのが“かすかなメロディ”。作詞は“東京寒い”を手掛けた坂本慎太郎で、作曲はさかいゆうという異色の組み合わせだ。
「さかいさんから上がってきた曲を聴いた時、〈慎太郎さんなら私にはない発想で歌詞を書いてくれるんじゃないか〉って気がしたんです。私は歌詞はできるだけ自分で書きたいと思ってて、〈あの人に〉って思い浮かぶ人は少ないんですよね。(完成した曲は)すごくメロディーと言葉の関係が良くて歌っていて心地良いんです。メロディーも歌詞も暗くないのに、後味は何だか切なくて甘酸っぱい。聴く人によって印象が違ってくる曲だと思います」。
一方、坂本の歴史に名を刻むソングライターが提供した曲のなかで印象的なのは、h-wonderによる“That is To Say”だ。かつて彼が手掛けた名曲“ループ”とは打って変わってアコースティックでジャジー。しっとりと大人な雰囲気が漂っている。
「私が初めて出会った時、h-wonderさんは和田弘樹さんとして活動されていたんです。この曲は和田さんの世界に近くて、そういう曲をぶつけてくれたことが嬉しかったです。〈出会ってから20年、私もようやく大人になりました〉って、時の流れを噛み締めるようなレコーディングでした」。
そして、何より彼女のミュージシャンとしての成長が伝わるのは、彼女が作詞/作曲を手掛けた曲の数々だろう。そこからは鮮明に坂本真綾の〈いま〉が伝わってくる。
「書いていただく曲はアッパーでトリッキーな曲が多いですけど、実際の私は割とまったりしていて、シンプルで、キーも低めで。自分が書く曲は、そういう自分を出すことができるから歌ってて落ち着きます。それに我が子のように可愛いし(笑)」。
みずから曲を手掛けるようになったことで、さらに奥行きを増した歌の世界。これまでの音楽活動を振り返って、「特にこの5年はアクセルを踏んだみたいに駆け抜けてきた気がする」と彼女は言うが、その5年間で気持ちに大きな変化があったようだ。
「昔は〈もっと本当の私を見てほしい〉という思いで世間に対して身構えていたんですけど、最近は良い意味で肩の力が抜けてきたというか。自分が良いと思うことをやれば、自分が届けたいところにちゃんと届く気がするんですよね」。
〈昨日も今日も同じだって 退屈してるなら 探しものに付き合って 無重力の向こうまで〉(“FOLLOW ME”)。そんなフレーズそのままに、20年という節目を迎えた坂本真綾の新たな旅はもう始まっているのだ。