イベリア半島からカフカス地方まで、地中海周辺地域では様々な場所でポリフォニー・コーラスの伝統が受け継がれてきたが、最も今日的な形で機能しているポップ・ミュージックということだったら、やはりこいつらだな。2月の初来日公演でそう確信させてくれたのが、マルセイユの男性5人グループ、ルー・クワール・デ・ラ・プラーノ(LCDP)である。彼らは2001年の結成以来、オクシタニア(ロワール河以南の南仏全域)の伝統文化の復興と今日的展開というテーマを一貫して掲げてきたわけだが、ベンディール(片面太鼓)やレク(タンバリン)といったマグレブの打楽器、あるいは手拍子や足踏みだけを伴にした緩急自在のアカペラ・コーラスは実にスピーディ&パワフルで、柔軟な跳躍感は時にヒップホップを想起させたりもする。伝統音楽のスタイルを援用しつつ、オリジナルな歌詞(もちろんオック語)には随所で鋭い社会/政治意識が潜んでいる。
リーダーのマニュ・テロンがオック文化に強い関心を持ちだしたきっかけは、マルセイユで美術を学んでいた17才の時(86年)、マッシリア・サウンド・システムに出会ったことだったという。
「民族音楽ではないレゲエぽいサウンドだけど、オック語で若者に向けて歌っているというのが衝撃的でね。それをきっかけにオック語を学びたいと思い、地元の老人たちに教わるようになった」
その後、長期滞在したイタリアやブルガリアで伝統音楽の生々しい生命力に直に触れ、自身の伝統文化への強い思いを再確認したテロンは、自らコーラス・グループ、ガチャ・エンペガを結成。それが発展する形で、伝統音楽及びそれにインスパイアされたオリジナル曲をやるグループとして誕生したのが、LCDPだ。
「伝統音楽からは、前向きに生きるエナジーを強烈に感じたんだ。パンクやロックンロールと同じように」
彼らはこれまでに、宗教や祭り、政治などをテーマに3枚のアルバム――03年の『Es Lo Titre』、07年の『明日があるさ』、12年の『マルシャ!』を発表してきたが、新旧(伝統と同時代性)、そして聖と俗の渾然一体化というスタンスは一貫している。
「それは意図的にやっていることだ。僕らは長い歴史の中にいるわけで、LCDPの位置はそのわずかな一点にすぎない。僕らは、僕らの歌を聴いてほしいのではなく、僕らの長い歴史、文化を聴いてほしいんだ。だから、新しい曲も、昔からある伝統的な曲とそんなに違わないように作っているんだ」
マルセイユでは、間違いなく今も、トゥルバドール(吟遊詩人)が生きている。