94~95年、『アカペラ・ド・ブラジル』『セグンド』の国内発売で人気を呼んだ極上コーラス。当時FMから、3姉妹の歌声が流れぬ日はなかった。でも、なぜか来日公演は実現せず。今回の最新作を機にやっと夢がかなうかも。エヴァとご亭主ジェラール・ガンビュスが、甘美なハーモニーの秘策を明かしてくれた。
「3人の音域を正確に理解しているジェラールが、コーラスのパートを割り振ってくれる。いったい他の誰にできるでしょう。今回、フランス語の分節を緻密に練習する必要があって、少々難しかったけれど」
「楽しみのため、彼女たちの歌のアレンジを書き始めたのが86年頃。以来、トリオにずっと付きっきり。それぞれの声を楽器として捉え、オーケストレーションのように編曲するんだ」と、ジェラールが補足。
選曲だけは長い協議の末、3姉妹で決めたようだ。
「子供時代に両親が大好きで、よく聞いていたシャンソンを中心に選びました。候補の30曲以上から絞り込むのが大変だったわ。姉妹には良い面もあるけれど、逆に協議に時間がかかっちゃう。遠慮ってものがないから(笑)。ブラジル人の私たちはのんびりしているほうで、あの曲がいい、この曲にしようってモメてると、ジェラールは待ち切れない。早くしてくれよ、もう頭の中にアイディアがいっぱい溢れてきているんだからって、とにかく急かすのよ(笑)」
ポルトガル語で歌われる《パリの空の下》と《残されし恋には》が、昔から存在するヴァージョンだとか。それにしても、楽曲ごとの味つけが絶妙だ。ブラジル北東部リズムを得た《仲間を先に》、ボサ・カンサゥン風《懐かしき恋人たちの歌》、ショリーニョの《リリー》、ボサノヴァ名曲と見まごう《残されし恋には》。ブラッサンス作品《ベンチの恋人たち》に至っては、筆者にはシコ・ブアルキの曲に聴こえてしまう!
「そう言ってもらえると嬉しい。いつも私は、ジョルジュ・ブラッサンスとシコ・ブアルキをひとつに重ね合わせて考えてきたから。無意識のうちに、このアレンジが出てきたんだろうね」と、天才編曲家。
最小限のピアノ、パーカッション、ギター等が、レベルの高いアカペラを引き立てて、実に見事。原題『優しいフランス』の命名も、シャルル・トレネの同名曲をイメージした、編曲家の着想だったという。
88年、パリのライヴを見に来たベルナール・ラヴィリエの誘いで2年間ツアーの前座をつとめ、ラヴィリエ公演を見たパトリック・ブリュエルがツアーに招き、そのステージを見たレコード会社と契約。素敵なご夫婦の縁を最初に結んだポール・モーリア御大は、トリオ公演には必ず最前列から拍手を贈っていたそうだ。