夕方だというのにいささかも暑さの引かない8月末のある日。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。おや、部員たちが夏合宿から帰ってきたようですよ。
【今月のレポート盤】
杉田俊助「コヤスは4年生のくせに、サマー・ヴァケーションをエンジョイしすぎじゃないの?」
子安翔平「夏合宿はロッ研最大の行事やろ! 決して女子の水着が拝めるから参加したわけやないで!」
梅屋敷由乃「あの……就職活動は?」
杉田「それ以前に卒業がピンチだと思うヨ、Ha! Ha! Ha!」
子安「余計なお世話や、ジョン! いざとなったら梅屋敷コンツェルンに入社やで!」
梅屋敷「えっ!? 人事部に相談しませんことには……」
子安「冗談や! ところでユノちゃん、さっきから何聴いとんの? ポップでええやん!」
梅屋敷「これは『Audio With A G: Sounds Of A Jersey Boy』っていうボブ・ゴーディオさんの初作品集です」
子安「おお、ボブ・ゴーディオいうたらビーチ・ボーイズと並ぶUSポップ・コーラスの最重要グループ、フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズのメンバーにして、名ソングライターやん!」
杉田「誰もが知る“Can't Take My Eyes Off You”の作者だよネ!」
梅屋敷「はい。今年1月に両親とヴァリさんの初来日公演に行ったのですが、それを拝見してからすっかりゴーディオさんの書くメロディーに夢中ですの」
子安「グループやヴァリのソロのヒット曲はほとんど彼が手掛けているやんな。とりわけ敏腕プロデューサーでもあるボブ・クルーとのコンビは、レノン&マッカートニーにも引けを取らんと思うわ」
杉田「フォー・シーズンズ人気はいまもUSじゃ絶大で、2005年には彼らをテーマにしたミュージカルも作られたよネ。ミーもラスヴェガスでマミーといっしょに観たヨ! Ha! Ha! Ha!」
子安「トニー賞にも輝いた『Jersey Boys』やろ!? それ、クリント・イーストウッドが映画化したばかりの話題作や!」
梅屋敷「今秋には日本でも劇場公開されますね。ゴーディオさんが音楽監修を務めているのですが、実は父の会社がいくらか映画に出資しておりまして……」
子安「梅屋敷家はどないやねん! ところで、ゴーディオといえばフォー・シーズンズ関連以外にもイイ曲が多いんや。例えば、彼も一員だったロイヤル・ティーンズの“Short Shorts”とか……」
杉田「Oh~! 〈タモリ倶楽部〉のオープニング・ナンバーだネ!」
梅屋敷「この2枚組のCDには、他にもフランク・シナトラさんやダイアナ・ロスさん、ロバータ・フラックさんなど、錚々たる方々への提供曲が収録されています」
子安「プロデューサーとしてもバリー・マニロウやバーブラ・ストライサンド、マイケル・ジャクソンを手掛けとるんやで!」
梅屋敷「まあ、ショウビズ界のオールスターズとも言える顔ぶれですこと!」
杉田「オールド・エイジが大喜びしそうだネ! でもこのコンピを聴いてミーは思ったんだけど、ゴーディオの曲って最近のインディー好きにもジャストだと思うヨ!」
梅屋敷「言われてみると、ビーチ・デイあたりはフォー・シーズンズっぽいですよね。ヤーニングのアルバムも雰囲気が近かったですわ」
子安「オーヴァートーンズやブリリアンティアーズのようなネオ・ドゥワップ系のグループもモロやしな」
杉田「それにヴァリやフォー ・シーズンズの70s作品はディスコ・テイストだから、tofubeatsファンもイケるネ!」
梅屋敷「あらあら、そう思うと何だかとても現代風のソングブックみたいな気がしてきました」
子安「ボブ・ゴーディオ再評価の波が来たで! よし、腰を落ち着けて聴こうやないか!」
梅屋敷「はい、ではアイスティーをご用意いたします」
子安「ユノちゃんはまりにゃんと違って気が利くわ~。思わず君の瞳に恋しそうや、ガハハ!」
4年生の夏休みを自由気ままに過ごしている子安がやや心配ですが、それ以上に梅屋敷さんの暮らしぶりが気になる今日この頃。いつかご家族で登場することがあるのでしょうか……。 【つづく】