矜持と含羞
歳をとるというのは不思議なものだ。子供のころに仰ぎ見ていたはずのジム・モリスンやジミ・ヘンドリクスはいうに及ばず、気がついてみればフレディ・マーキュリーやフランク・ザッパ、それに2009年に51歳で亡くなった音楽学者/ミュージシャンの大里俊晴よりも年上になっていた。
筆者の個人的な感慨はさておき、その大里俊晴、音楽学者とはいっても、その業界で華麗な、ないし篤実な業績を残せたとはとてもいえない。70年代末から80年代初頭にガセネタやタコといった伝説的なバンドで破滅的な演奏を披露した後渡仏、パリ第8大学でケージを研究して帰国、横浜国立大学の教授にまではなったものの、生前の著書は『ガセネタの荒野』(洋泉社/月曜社)という私小説のような奇書のみ。没後に『マイナー音楽のために』(月曜社)が編まれたが、ロック、ジャズ、現代音楽といったジャンルを横断し、さまざまな要素の間に思いもよらぬ共通点や接線を指摘する知的軽やかさと、それとはうらはらに結論だけは口にすまいと決意したかのごとき書きっぷりが印象的な、どちらもどこにもしっかりとした居場所を見つけられない恥ずかしさを湛えたような本だった。
もうひとつ共通して感じられるのは、金や権威はなくとも、アンテナと背筋さえしっかり伸ばしていれば、世界に対峙できるという確信・原則だ。何のことはない、どちらも大里本人そのものではないか。
そんな大里の七回忌がやってくる。ミュージシャンとしては、これも没後に『タカラネタンチョトタカイネ』を発表した大里を、ガセネタやタコ時代の盟友、山崎春美が中心となって、11月17日、新宿ロフトに招魂する。あわせて、ガセネタ、タコ、両バンドも復活! 山崎、乾純、佐藤薫(EP-4)、工藤冬里、向島ゆり子といった旧メンバー(?)のほか、遠藤ミチロウ、戸川純、香山リカといった強力なサポートメンバーを揃えた豪華すぎる顔ぶれの上、対バンには、竹田賢一率いるA-MUSIKが登場するという。アングラ魂百までというか、「21世紀」なんて晴れがましいタームを真っ向から否認するような、ゴツいイヴェントだ。
さらに、青春時代の大里に多大な影響(トラウマ?)を与えた音楽批評家、間章(あいだ・あきら)をめぐって、青山真治が監督、大里がインタヴューアを務めた7時間半に及ぶ大長編ドキュメンタリー『AA』も、20日にはネイキッドロフトで上映されるという。これも次にいつ見られるかわからない貴重作ゆえ、一見をお勧めする次第。その上、さらにもう1冊本が出るという噂も……。いやはや大里さん、死んだって聞いたけど、全然元気そうじゃない!
大里俊晴七回忌イベント
SHINDACO~死んだ子の齢だけは数えておかねばならない
○11月17日(火)18:00開場/19:00開演
会場:新宿ロフト
出演:タコ、ガセネタ[山崎春美、遠藤ミチロウ、戸川純、佐藤薫、成田宗弘、遠藤晶美、工藤冬里、松村正人、久下恵生、乾純、向島ゆり子、後飯塚僚、BANANA-UG、野々村文宏、香山リカ、長門洋平、渡邊未帆、他]
A-MUSIK[竹田賢一、大熊ワタル、千野秀一、小山哲人、中尾勘二]
※関連企画
音楽批評家、間章ドキュメンタリー映画「AA」上映!!
監督:青山真治/インタヴュアー:大里俊晴/2005年/443分
◎11月20日(金)深夜より新宿ネイキッドロフトにて
www.loft-prj.co.jp/LOFT/