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■11月23日(月・祝)

【ブロック・パーティー】

新体制となって、2度目のヘッドライナーへ

いきなりの余談だが、ブロック・パーティーのマネージャーは、なんとあのメンズウェアのサイモン・ホワイトが務めているらしい。2005年にファースト・アルバム『Silent Alarm』でブレイクを果たして以来、イギリスのロック・シーンをリードし続けているブロック・パーティーと、〈ブリット・ポップ最大の徒花〉として有名なバンド、メンズウェア。この両バンドとの間に音楽的な共通項を見出すのはなかなか難しいが、一方でブロック・パーティーのケリー・オケレケは、〈実は初めて行ったライヴがメンズウェアだった〉とインタヴューでも明かしており、この邂逅にはなにかしらの運命的なものを感じられる。あるいは、ここにはブロック・パーティというバンドが抱える〈ポップであることへの執念〉が表れているではないか、とも。

そこでさっそく『Silent Alarm』の頃を思い起こしてみよう。当時の彼らは〈ポストパンク・リヴァイヴァル〉の文脈で語られることが多く、実際に『Silent Alarm』から聴こえてくるアタック感を強調した硬質なギター・リフと角張ったリズム・ワーク、そして何よりもケリーの喉を痙攣させるような甲高い歌声には、確かにギャング・オブ・フォーやキュアーなどを彷彿とさせるものがあった(これは、当時フューチャーヘッズやマキシモ・パークなどを手掛けていたポール・エプワースによるサウンド・プロダクションの影響も大きかったと思う)。しかし、そのおよそ2年後に発表したセカンド・アルバム『A Weekend In The City』で、彼らのサウンドは早くも大きな変貌を遂げる。当時、U2の『How To Dismantle An Atomic Bomb』にも参加していたジャックナイフ・リーをプロデューサーに迎えたこの作品は、70年代のプログレ的なスケールの大きい楽曲構成と少し不穏な音像、そして社会性を反映したシリアスなリリックも相まって、このバンドの音楽的なポテンシャルの高さを見事に提示。

ブロック・パーティーの2007年作『A Weekend In The City』収録曲“ I Still Remember”

続くサード『Intimacy』(2008年)では、ポール・エプワースとジャックナイフ・リーを2人とも招聘し、ここまでの総括に臨みつつ、アルバムの冒頭2曲ではクラブ・ミュージック的な音作りへの傾倒を見せるなど、またしても新機軸を披露。その後、ケリーがハドソン・モホークを迎えてソロ・アルバム『The Boxer』をリリースする傍らで、バンドは改めてギター・アンサンブルの在り方を模索し、2012年には4作目『Four』をリリース。こうしてざっとキャリアを振り返るだけでも、このバンドのディスコグラフィーには退屈なルーティンなど一つもなかったことが、わかっていただけるのではないかと思う。そう、ブロック・パーティーはいつも〈変化し続けること〉を自分たちに課してきたのだ。一方で、ともすればエクスペリメンタルな方向に偏っていきそうなところを、冒頭で述べたように、そうした試みを3分前後のポップ・ソングに帰着させることも、頑なに守ってきた。

ちなみに『Four』の発表を目前に控えていた2012年6月〈HCW〉でも、ブロック・パーティーはヘッドライナーを務めており、そのときにはリリース前の新曲をたっぷりと披露していた。そして、今回の〈HCW〉でも、彼らは来年1月にリリースされる新作『HYMNS』の収録曲を演奏する予定だという。しかも今回はオリジナル・メンバーの脱退を経て、ジャスティン・ハリス(ベース)、ルイーズ・ バートル(ドラムス)にリズム隊がチェンジして以降、初の来日公演でもある。先行公開された新曲“The Love Within”ではダンス・ミュージックにアプローチして波紋を呼んでいるが、新体制ブロック・パーティーは今まで以上にドラスティックな変化を遂げて、われわれを驚かせてくれるに違いない。 *渡辺

2016年1月にリリースされるブロック・パーティーのニュー・アルバム『HYMNS』“The Love Within”

ブロック・パーティーの2015年のパフォーマンス映像

 

【ミステリー・ジェッツ】

挑戦を続けるUK人気バンド、新作リリースを前に〈HCW〉再登場!

2日目のトリ前に出演するミステリー・ジェッツは、通算4枚目のアルバム『Radlands』のリリース直後となった2012年の第2回以来、2度目の〈HCW〉登場となる。前回出演時のステージでは、イントロが鳴った時点でフロアから逐一歓声が上がり、彼らと日本のファンとの良好な関係を改めて実感させてくれた。と同時に、ローラ・マーリングがゲスト参加した“Young Love”(2008年作『Twenty One』収録)のような従来のポップ曲だけでなく、カントリー/フォークを溶かし込んだ楽曲がセットの要所を占めていたことも印象的だったはず。

というのも、彼らの前作『Radlands』は、2010年の3作目『Serotonin』でデビュー作以降の方向性に区切りをつけ、〈SXSW〉に出演するために向かった米オースティンにそのまま滞在し、広大なアメリカのフォーク/カントリー・ミュージックを吸収して新たな可能性を追究した作品だった。何しろ、当初はロンドン北部のテムズ川流域を中心としたテムズビートの一派だった彼らの場合、その音楽的な特徴は英国伝統のスキッフルや土着音楽。バンドにとってアメリカ的なエッセンスは、まったくの新機軸と言っていいものだった。この挑戦には恐らく、当時北米進出を進めつつあったマムフォード&サンズを筆頭に、ノア・アンド・ザ・ホエール、ローラ・マーリングといったUKニュー・フォーク勢の活躍に背中を押された部分もあったのかもしれない。実際、『Radlands』リリース後のバンドはマムフォード&サンズのサポートとして本格的なUSツアーへと乗り出し、新天地での活動を積極的に行なった。

ミステリー・ジェッツの2012年作『Radlands』収録曲“Someone Purer”

そして今回の〈HCW〉には、2016年1月に控える新作『Curve Of The Earth』のリリース直前という絶好のタイミングでやってくる。第2回開催時には別日に出演していたブロック・パーティーの直前という出番のタイミングも、〈HCW〉の歴史を感じさせる見どころだろう。

『Curve Of The Earth』での彼らはロンドンに自分たちのスタジオを手に入れ、セルフ・プロデュースを敢行。〈パーソナルで〉〈バンドの最初の場所に戻った〉との言葉通り、彼らの地元=バンドが始まった場所とも言えるテムズ川のイール・パイ・アイランドにある小屋での(ブレイン・ハリソン単独の)セッションを反映させるなど、もう一度自分たちらしさに目を向けているようだ。とはいえ、今年10月に公開されたばかりのアルバム・トレイラーではこれまで以上に壮大な雰囲気も見せていて、その内容はまったくの未知数。2014年にロンドンのバービカン・センターで行なわれたライヴでも新曲2曲を披露していただけに、リリースを目前に控える今回は、ヒントとなるニュー・ソングの披露を期待したい。

2016年1月にリリースされるミステリー・ジェッツのニュー・アルバム『Curve Of The Earth』のトレイラ―

また、もうひとつのポイントは、アルバムのリリースと共に発表された新ベーシスト、ジャック・フラナガンのお披露目公演となること。前作以降のバンドには一時、ダン・キャリーの紹介で迎えたペダル・スティール奏者のマット・パークや、前作が完成してまもなく脱退したカイ・フィッシュの代役としてベースを担当したペッパーノーツのフロントマン、ピーター・コクランが在籍していたものの、今回の新作に関してはこのジャック・フラナガンが参加している模様。果たしてバンドにどんなケミストリーを生み出しているのか注目だろう。

そして、何と言ってもいまのミステリー・ジェッツの魅力は、その抜群の安定感。デビューから10年を経た現在の彼らは、マッカビーズやボンベイ・バイシクル・クラブら後進たちの道を切り拓いた〈インディーの良心〉としての評価を確かなものにしている。また、近年のライヴは往々にして、バンドが持つ音楽的なレンジの広さ、深さが前面に押し出され、豊富なレパートリーのなかからさまざまな表情を覗かせて、バンドの試合巧者ぶりが窺える。今回も盤石のセットで会場を盛り上げてくれるのは間違いない。 *杉山

ミステリー・ジェッツの2013年〈Blissfields Festival〉出演時のパフォーマンス映像

 

【ボヒカズ】

がむしゃらなロックンロール・スタイルから一皮剥けた大型バンドが再来日

たぶん、ザクザクと刻むギターがフリーキーに唸る“XXX”と“Swarm”の衝撃に囚われすぎていたんだと思う。約1か月後にリリースするファースト・アルバム『The Making Of』からもセットリストの半分を占める数の曲を演奏した今年7月の〈フジロック〉。その日、初めて耳にしたスロー・ナンバーやポップ・ナンバーも含めた新曲の数々を聴きながら、正直、彼らが何をやりたいのか掴めず、ちょっと戸惑ってしまった。しかし、その後、『The Making Of』を聴き、すべて合点がいった。イギリスでふたたび盛り上がりはじめたギター・ロックの勢いを改めて印象付けた“XXX”と“Swarm”は彼らのほんの一面にしか過ぎなかった。

イースト・ロンドンからやってきた4人組ロックンロール・バンド、ボヒカズ。実は来日経験もあるギターとドラムのデュオ・バンド、スワントン・ボムズをやっていたドミニク・マクギネス(ヴォーカル/ギター)とブレンダン・ヒーニー(ドラムス)が2013年にドムジョンことドミニク・ジョン(ギター)とエイドリアン・アコラツェ(ベース)と結成。程なくイギリスの人気インディー・レーベル、ドミノと契約を結び、2014年3月にシングル『XXX / Swarm』でデビューを飾った。

ボヒカズの2015年作『The Making Of』収録曲“Swarm”

ここ日本では2014年6月、上記シングルとセカンド・シングル『Crush Me/Bloodhound』をカップリングした独自企画盤『EP』 でデビュー。フランツ・フェルディナンド、アークティック・モンキーズらを擁するドミノがデビューさせた大型新人と謳われ、いきなり注目された彼らはさっそく、同月に開催された〈HCW〉に出演するため初来日を実現させると、がむしゃらに突き進むエネルギッシュなパフォーマンスで会場を大いに沸かせたのだった。

ボヒカズの2014年〈HCW〉での“XXX”パフォーマンス映像

その後、世界各地をツアーしてきた彼らがリリースした『The Making Of』は前述した通り、そんな印象をがらっと変える作品だった。ストロークスやキングス・オブ・レオンに刺激され、焦燥感に満ちたロックンロールを演奏していた彼らは改めて、それ以前に聴いていたビートルズやビーチ・ボーイズに倣い、ポップなメロディー、美しいハーモニー、さらにはエフェクティヴなサウンドに挑戦しながら懐の深さをアピールしていた。

〈フジロック〉ではまだ曲がこなれていなかったせいか、そんな懐の深さまでは感じられなかったが、今度はばっちりキメてくれるはず。あの時もすでにアンセムとなっていた“XXX”と“Swarm”に加えて、“The Making Of”“Upside Down And Inside Out”“Somewhere You Know What I Mean”といった即効性抜群の新曲に観客がさっそく反応していたのだから、今回も熱気むんむんのライヴになることはまず間違いないと思うし、単なるロックンロール・ショウでは終わらないだろう。ボヒカズが持っているポテンシャルを存分に見せつけてくれるに違いない。

いつもスタイリッシュにキメているセクシーなサウスポーのギタリスト、ドムジョンをはじめ、ステージに立った時のメンバー4人の佇まいもロックンロール・バンド然としていてカッコイイ。それもまた、彼らの見どころだ。 *山口

ボヒカズの2015年作『The Making Of』収録曲“The Making Of”

 

【ジュリア・ホルター】

アカデミックな才媛、ポップに花開いた新作を手に初来日

ジュリア・ホルターといえば、2010年代以降に大挙した女性のエレクトロニック・アーティストを代表するひとり。グライムスやゾラ・ジーザスらと共にその名前は、いまやインディー・ミュージック・ファンの多くが知るところのはず。あるいは、昨年発表されたリンダ・パーハクスの44年ぶりの新作『The Soul Of All Natural Things』にホルターの名前を見つけた、なんて往年のアシッド・フォーク・リスナーもいるかもしれない。かと思えば、つい先日には巨匠マーティン・スコセッシがプロデュースする映画のスコアを担当するとのニュースが――。

まさに多才。絵に描いたような才媛(併せて容姿端麗)。いずれの〈顏〉もホルターの音楽家として個性を伝えるもの。その音楽からは、耳を澄ませばさまざまなアーティスト――ローリー・アンダーソン、ケイト・ブッシュ、ジョニ・ミッチェル、ジュリー・クルーズらの面影や記憶が聴こえてくるだろう。

2011年のデビュー・アルバム『Tragedy』からしてすでに、アンビエント、ドローン、オペラ、フォーク、ミュージック・コンクレート……と幾重にも折り重なるサウンドを披露していたホルター。そんな彼女の多様な音楽性の基礎をなしている一つが、子供の頃から教育を受けたというクラシック音楽の素養。いわばUSアンダーグラウンド仕込みの実験的な音作りと、アカデミズムに通じた正統的な作曲法が相半ばするホルターの特徴は、作品を追うごとに大きく開花。2012年の2作目『Ekstasis』、続く2013年の3作目『Loud City Song』は、ギリシャ悲劇やミュージカルを下敷きにしたコンセプチュアルな仕様も相まって、ホルターの評価を決定付けた作品と言っていい。例えば同様の素養を持つ近しい女性のエレクトロニクス作家にはグラッサーやエラ・オーリンズ、あるいはジュリアナ・バーウィックなども挙げられるが、とりわけホルターは、その多彩な楽器が織りなすモダンでエレガントな音色のハーモニーにおいて際立った存在感を放っている。

ジュリア・ホルタ―の2012年作『Ekstasis』収録曲“Marienbad”

そしてもうひとつ、ホルターの音楽活動を支えている重要な基盤が、地元LAの音楽コミュニティー。互いの作品や前述のリンダ・パーハクスのアルバム等で共演の多いナイト・ジュエルとは盟友の間柄。アリエル・ピンクともホルターのデビュー前からの付き合いで、共演曲を収めたマドンナのトリビュート盤『Through The Wilderness』(2007年)はさながら西海岸のネオ・フォーク・シーンの相関図といった趣も。また、一見すると意外なところでは、地元のネット・ラジオ〈dublab〉を介したLAビート・シーンとの繋がりだろう。ナイト・ジュエルとのコラボも含む同局企画のオムニバス『Light From Los Angeles』(2013年)には、ラス・Gやティーブスといったシーンの顔役をはじめ、さらにはサン・アロウやラッキー・ドラゴンズらアンダーグラウンドの奇才も参加。そうしたジャンル横断的な交遊録からも、ホルターの多才を誇る作家性の背景を窺い知ることができるはず。

4枚目となる2015年の最新作『Have You In My Wilderness』では、リヴァーブなどの装飾的なプロダクションは控えめに留め、対照的にホルターの歌声がこれまで以上にクリアで立体的に演出されているのが大きなポイント。昨年発表したディオンヌ・ワーウィックのカヴァー“Don't Make Me Over”で見せたバカラック的なスタンダードの魅力も湛え、全体的にポップさが増した仕上がりに。一方、チェロやサックスなどを揃えた管弦楽器のアレンジメントは華やかで洗練されていて、奏者にはジャズ畑からアリエル・ピンクやデラドゥーリアン周りの面々までを起用。そのあたりの作品の世界観やアンサンブルの妙がどう再現されるのか。待望の初来日となる〈HCW〉のステージは、そのまたとないお披露目の機会となるにちがいない。 *天井

ジュリア・ホルターの2015年作『Have You In My Wilderness』収録曲“Feel You”

ジュリア・ホルターの2015年作『Have You In My Wilderness』収録曲“Sea Calls Me Home”のパフォーマンス映像

 


 〈Hostess Club Weekender〉
日時/会場:2015年11月22日(日)、23日(月・祝) 東京・新木場スタジオコースト
開場/開演:12:30/13:30
出演:〈22日〉Melvins / Daughter / Christopher Owens / Dornik
〈23日〉Bloc Party / Mystery Jets / The Bohicas / Julia Holter
チケット:通常2日通し券/13,900円(税込/両日1D別)
通常1日券/8,500円(税込/両日1D別)
イープラス
チケットぴあ(Pコード:279-443)
ローソンチケット(Lコード:78690)
楽天チケット
http://ynos.tv/hostessclub/schedule/201511weekender/ticket