20年ものキャリアを後悔なく歩んできた5人組は、新しい仲間たちを加え、生まれ変わったこのタイミングで、なぜ〈恐れ〉に向き合うのか? 決死の跳躍をやってのけた『The Human Fear』は〈人間〉を肯定する!!!!!

繊細さを大胆なスタイルで表現

 ポスト・パンクが再興した2003年にスコットランドから登場し、1曲のなかで劇的にアップダウンを繰り替えしつつ猛烈に踊れるビートと、文学的かつ快楽的なコーラスでシーンを席巻したフランツ・フェルディナンド。その後も順調にキャリアを進めてきた彼らだが、2016年のニック・マッカーシー脱退を期に、ギタリストのディーノ・バルドーとキーボーディストのジュリアン・コリーが加入。さらに2021年、ポール・トムソンからオードリー・テートへとドラマーが交代し、結成メンバーの2人――ヴォーカリストのアレックス・カプラノスとベーシストのボブ・ハーディを含む新たな5人編成に生まれ変わった。2022年には初のベスト盤『Hits To The Head』をリリース。同作に合わせて来日公演を含む大規模なワールド・ツアーを行った。

 「ベスト盤のツアーをすることで、バンドとしてタイトになれたよ。何も考えずに演奏できる状態になることを、僕は〈聖杯を手にした状態〉と言っているんだけど、その境地に達することができて、バンドがひとつの生命体のようになった。あと、ベスト盤を作ることで、自分たちのアイデンティティーをより明確にできたし、これまでの僕たちに満足できると思えたのもよかったな。僕が尊敬してやまないニック・ケイヴやレナード・コーエンも、自分自身でいることを恐れずに貫いている。フランツ・フェルディナンドもそういう存在になれていると感じたし、だからこそ次は冒険に出かけて、新しい音を発見しようと思ったんだ」(アレックス・カプラノス:以下同)。

FRANZ FERDINAND 『The Human Fear』 Domino/BEAT(2025)

 その〈次の冒険〉を記したのが、新年1月にリリースされる通算6作目のニュー・アルバム『The Human Fear』だ。これまで、トーレ・ヨハンソンにダン・ キャリー、フィリップ・ズダールら作品ごとに異なるプロデューサーと組んできた彼らが今回迎えたのはマーク・ラルフ。2013年発表の4作目『Right Thoughts, Right Words, Right Action』にエンジニアとして参加していたマークは、フィルシー・デュークスのメンバーとして知られ、イヤーズ&イヤーズやクリーン・バンディットなどに貢献してきた。

 「マークは友人だし、制作はすごくスムースだったよ。彼ほど高い集中力を維持できる人には出会ったことがないね。今回はスコットランドにある僕のスタジオで録音したんだけど、1つの部屋に集まって一緒に演奏することでしか出せないサウンドになった。たとえば“Build It Up”には、ジェイムズ・ブラウンのレコードと同じように、厳密にはテンポが合っていないにもかかわらず、タイミングとしては完璧なリズムを感じる。一発録りした“The Birds”にも同じ感覚があるね」。

 個性豊かな5人が一枚岩となっている様は、ハンガリーの芸術家、ドーラ・マウラーの代表作「7twists」をモチーフにしたアートワークが象徴的だ。

 「『7twists』は、内面の繊細さを大胆なスタイルで印象づけている素晴らしいアートだ。それは僕がバンドで表現したいこと。彼女の作品は自身のポートレートを組み合わせていたけど、僕たちはバンドだからお互いを支え合っている構図が正しいと感じたんだ」。