田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。ファッション界の星、ヴァージル・アブローが41歳という若さで亡くなったことで世界が追悼ムードに包まれています。心臓血管肉腫という侵襲性の希少がんと2年間闘病していたそうです」
天野龍太郎「今朝、訃報を知って本当に驚きました。残念です。ヴァージル・アブローといえばオフ・ホワイトの創業者であり、ルイ・ヴィトンのメンズウェアのクリエイティブディレクターでもあったデザイナーでした。黒人としての立場を打ち出したショーなど、革新的で力強い試みでファッション界を大きく変えた才能ですが、言わずもがな、カニエ・ウェストとの友情など音楽の世界における存在感がとても大きかった人です。また、カニエ&ジェイ・Zの『Watch The Throne』(2011年)など、数多くのジャケットをデザインでも知られています」
田中「ご冥福をお祈りします。また、先週は第64回グラミー賞のノミネーションが発表されたことが話題でした。BTSやオリヴィア・ロドリゴ、ビリー・アイリッシュ、H.E.R.、シルク・ソニック、ジョン・バティステら、この一年を代表するアーティストたちとその作品が選ばれていますね」
天野「でも、ノミニーの発表を担当したマネスキンが選ばれていないんですよ! ひどいですね。さらに、カニエ・ウェストの『Donda』に参加したマリリン・マンソンや、セクハラで訴えられたルイ・C・Kがノミネートされたことに批判が集まっています。ただ、レコーディング・アカデミーのCEOであるハーヴィー・メイソンは、〈私たちは過去や犯罪歴を問わない〉と声明を出しています。それについては、真摯で公平だとは思うのですが……。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
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Bloc Party “Traps”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はブロック・パーティのニューシングル“Traps”です」
田中「ブロック・パーティは、前作『Hymns』(2016年)から6年ぶりの新作にして、6作目になるスタジオアルバム『Alpha Games』を来年4月29日(金)にリリース。“Traps”は、同作からのファーストシングルですね。ブロック・パーティといえば、2000年代のポストパンク/ニューウェイブリバイバルの後半に現れて、シーンの話題をかっさらったバンドですよね。特にここ日本では人気がありますが、2015年にメンバーの脱退と交代を経験しています。近年はフロントマンのケリー・オケレケがソロ活動を活発に行ったり、ファーストアルバム『Silent Alarm』(2005年)の再現ライブを行ったりしていたのですが、ここに来て本格的な復活を遂げました」
天野「音楽的にも大復活した印象です。『Hymns』はわりとアンビエントっぽい穏やかなアプローチが中心だったのですが、この“Traps”はかなりアッパーでラウドですよね。プロデューサーはニック・ローネイ(Nick Launay)と彼の相棒アダム・グリーンスパン(Adam Greenspan)で、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズからアイドルズまでを手がけてきたベテランならではの手腕が発揮されていると感じました。僕、ブロック・パーティの直撃世代なので、こういう曲が届けられたのはうれしいです」
田中「ケリーは『“Traps”を書いた瞬間、アルバムからまず最初に聴いてもらわなければならない曲だと思っていた。最後のツアーのサウンドチェックで演奏して、大きな会場や屋外での聴こえ方、感じ方を体感して確信したよ』と語っています。来年5、6月には3年ぶりのツアーをUKとヨーロッパで開催するとのことで、アルバムともども期待が高まりますね。ぜひ日本にも来てほしいところ!」
Dionne Warwick feat. Chance The Rapper “Nothing’s Impossible”
天野「今週最大の話題曲じゃないでしょうか。ディオンヌ・ワーウィックがチャンス・ザ・ラッパーをフィーチャーした“Nothing’s Impossible”」
田中「ディオンヌ・ワーウィックといえば、言わずと知れたR&B/ポップシンガーですよね。60年代から活躍し、バート・バカラック=ハル・デイヴィッドの名曲、特にバラードを数多く歌っています。80年代にも多くのヒットを飛ばし、“We Are The World”(85年)への参加もよく知られていますね」
天野「そんなディオンヌの曲を聴いて育ったであろうチャノは昨年12月、『ハイ、チャンス・ザ・ラッパー。あなたってラッパーなのは明らかなのに、どうしてステージネームに〈ラッパー〉と入れているの? 気になって仕方ないよ』とディオンヌから突然リプライを飛ばされています。それがきっかけなのか、今回の〈ディオンヌ・ザ・シンガー〉とチャンス・ザ・ラッパーの共演が実現したわけですね。ちなみに、この曲は2人がそれぞれ選んだ慈善団体〈Hunger: Not Impossible〉と〈SocialWorks〉のためのもの。後者は、チャノがシカゴで立ち上げた若者のための非営利団体ですね」
田中「ディオンヌの滋味深い歌とチャンス・ザ・ラッパーの温かいラップが慈愛を感じる曲ですね。〈信じれば不可能なことなんてない/あなたが目指すものを遮るものなんてない/夢は永遠/あなたが何者かなんて問題じゃない〉というコーラス(サビ)のリリックが感動的で、柔らかく優しさにあふれたメッセージを伝えています」
Poppy Ajudha “London’s Burning”
天野「ロンドンの注目株が登場です。ポピー・アジューダの新曲“London’s Burning”。UKジャズやソウル/R&Bのシーンで注目されているシンガーソングライターのポピー・アジューダは、ジャイルズ・ピーターソンによるコンピレーションアルバム『Brownswood Bubblers Twelve Pt. 2』(2017年)や話題作『Blue Note Re:imagined』(2020年)への参加、トム・ミッシュ“Disco Yes”(2018年)でフィーチャーされたことが話題になっていました。そんな彼女が、ついにデビューアルバム『The Power In Us』を来年3月11日(金)に発表。この曲は、そこからのファーストシングルです」
田中「ジョルジャ・スミスやFKA・ツイッグスを手がけてきたジョエル・コンパス(Joel Compass)と共作し、彼がプロデュースしたこの“London’s Burning”は、まずは〈ロンドンは燃えている〉という曲名が強烈ですね。クラッシュの名曲(77年)を思い出します。アジューダはここで、イギリス文化における移民の重要性と影響について歌っているそうです」
天野「アジューダのコメントは強烈です。彼女は、他国を破壊し、世界中から収奪をしてきた〈植民地主義の遺産〉によって英国は成り立っているにもかかわらず、困っている人に対して扉を閉ざす矛盾した態度を指摘しています。クラッシュの曲とは似ても似つかないエッジーなヒップホップソウルサウンドですが、根底にあるのは実にUKパンク的なアティテュードだと言えるでしょう。アジューダには、ぜひ今後も注目してください」
ML Buch “Fleshless Hand”
天野「デンマークのエレクトロポップミュージシャン、ML・ブークことメアリー・ルイーズ・ブーク(Mary Louise Buch)。昨年、コペンハーゲンのレーベル〈Anyines〉からデビューアルバム『Skinned』をリリースして脚光を浴びた才能です。Pitchforkは〈デジタル化されたアートポップ〉と彼女の音楽を形容していて、的確な表現だと思いました」
田中「ポップとレフトフィールドの間をたゆたうような自由な電子音楽と独特の歌心が魅力ですが、この新曲は80sっぽいギターとドラムのサウンドが中心になっていて、生音の要素が増していますね。でも、彼女特有のアンビエンスと浮遊感、ボーカルに深くかけられたエコーやエフェクトは健在で、とても幻想的な音の風景を描き出しています。ドリームポップと呼ぶには少しエクスペリメンタルな、絶妙な塩梅の音楽だと思いました。次作への期待が高まりますね」
$NOT “Go”
天野「今週最後の曲です。米フロリダ、ウェスト・パーム・ビーチのラッパー、スノットの新曲“Go”。スノットについては、7月にケヴィン・アブストラクトの“SLUGGER”を紹介したとき、彼がフィーチャーされていたので軽く触れました。常にフディー(パーカー)のフードを被っていて、顔の前で紐をぎゅっと絞った変なスタイルで知られています。去年から注目されているアーティストですが、最近いよいよ無視できない存在になってきたと感じますね」
田中「まずは派手なシンセが鳴り響く、ディー・B(Dee B)がプロデュースしたビートが強烈ですね。これは、いわゆる〈レイジ〉のサウンドだと言っていいでしょう。歯切れよく言葉を畳み掛ける、フューチャーやトラヴィス・スコットなどからの影響が滲むフロウもかっこいいと思いました」
天野「ヤング・サグをダウナーにした感じというか。〈コール オブ デューティ〉〈X・ゲームズ〉〈デスノート〉〈ブルース・ウェイン〉など固有名詞をまぶせつつ、絶妙なリズム感でテンションを上げながらライミングしていく様がすごくいいですね。“Go”は近々リリースされる予定の新作『Ethereal』からのシングルと見られていて、アルバムが発表されたらいよいよ人気が爆発しそうですね」