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ミック・ハックネルの“ファースト・コール・ギタリスト”が語るシンプリー・レッド

 「Simply Red is Back!!」

 一曲目《シャイン・オン》のイントロが流れ始めた瞬間から、ファンだったらそう叫ばずにはいられないだろう。モダンなサウンドに乗せた、古いソウルやリズム&ブルースへの憧憬。そしてミック・ハックネルの繊細で美しいシルキー・ボイス。8年ぶりの新作『ビッグ・ラヴ』は、どこを切ってもシンプリー・レッドの魅力があふれ出てくる傑作だ。

SIMPLY RED Big Love EastWest/ワーナー(2015)

 「今回は結成30周年ということもあって、特にレッドらしさにこだわりましたね。あと、生のバンドによるリアルなサウンドを追求したのもポイントです」

 こう語るのは、ギタリストの鈴木賢司。83年にレコードデビュー、天才ギタリストと謳われつつも88年から拠点をロンドンに移し、98年から〈ケンジ・スズキ〉としてシンプリー・レッドに参加している。現在ではハックネルから絶大な信頼を寄せられる“ファースト・コール・ギタリスト”だ。彼が感じるシンプリー・レッドの魅力とは?

 「ファンは、洗練された音楽性に惹かれるのかもしれないけど、ミックにとっては、世の中のしくみに対するレベル・ミュージックという意識が強いですね。小さい頃に母親が蒸発し、父親と二人きりで貧困生活に耐えてきた。また、バンド名にもなっている“レッド”は彼の髪の色で、赤毛の人間は英国で差別の対象になりやすい。今でこそ成功と、そして家族との幸せを手に入れたミックだけど、根っこには苦しかった時の記憶や反骨心があって、それを知ってほしいという想いが、確固たる“歌う理由”として存在するんですよね」

 本作に収録されている《ダッド》は、数年前に亡くなったハックネルの父に向けられた歌で、曲のエンディングに向けて鈴木の控えめなソロがコーラスに優しく寄り添う。「ミックの声をサポートするのが僕のシンプリー・レッドでの仕事」という鈴木の気持ちが垣間見れる美しいナンバーだ。

 いっぽう、バンドを離れると〈ケンジ・ジャマー〉名義で、さまざまなミュージシャンとその名の通りジャム・セッションを中心とした活動を行っている。一昨年にはフジ・ロック・フェスティバルの「Charジャムナイト」に奥田民生仲井戸麗市佐藤タイジらと共に出演した。

 「帰国時にはジャマーとして毎回違うメンバーと“その日その瞬間しか聴けない音楽”をテーマにツアーをしています。でも、今年から来年にかけては、シンプリー・レッドのワールド・ツアーがあるので、まだ日本公演は決まっていないけれど、レッドのケンジ・スズキとして日本に行けたら嬉しいですね」