「俺がいままで聴いてきたものを見習って自分の音楽を作ってみた。俺にとっては、その道がジャズだったのさ。ジャズは即興など、たくさんのことができる。ジャズというルートを使って、自分の音楽を作ったんだ」。

 日本でもロング・ヒットとなっているカマシ・ワシントンの『The Epic』を筆頭に、改めて〈ジャズ〉という言葉がフレッシュネスを伴って受け止められるようになったここ数年。そんな活況の嬉しい余波として、今度は2011年に配信されていたブランドン・コールマンのリーダー作がCD化される。先日のカマシ来日公演にも鍵盤奏者として同行したブランドンは、カマシやテラス・マーティンらを擁するLAのジャズ・コレクティヴ=ウエストコースト・ゲット・ダウンの一員であり、近年はフライング・ ロータスサンダーキャットといった仲間たちの作品やライヴに参加してきたことで名を馳せる最重要プレイヤーのひとりだ。

BRANDON COLEMAN Self Taught Brandon Coleman/BEAT(2015)

 ただ、(単に制作時期の関係かもしれないが)その『Self Taught』はビート・ミュージックやヒップホップの影響と広がりを意識した周辺アーティストのリーダー作以上に、フュージョン色がストレートに出ている。そこはサンダーキャットにも通じる部分だが、ヴォコーダーの歌唱やシンセ・ベースも駆使して彩り豊かなキーボード・サウンドを配した開放感のあるグルーヴ・デザインは、もっと真正面から〈LAフュージョン〉と呼んでも差し支えのない、ファンキーで洒脱な出来映えなのだ。一聴してジョージ・デュークハービー・ハンコックを連想する人も多いと思うが、それはつまり、往年のソウル/ファンクと彼の嗜好が明確に地続きだということでもある。

 「60年代も50年代も大好き。80年代も大好き。現在以外だったら何でも好き!というのは冗談(笑)。俺はハービー・ハンコック、チック・コリア、ジョージ・デューク、ドナルド・フェイゲンに魅了され続けている。あと、スライ・ストーンパーラメントファンカデリックジェイムズ・ブラウン。あと、マイケル・ジャクソンクインシー・ジョーンズのプロデュースする音も好きだ。このアルバムは、そういうサウンドに対する俺なりのアプローチの仕方だと思ってほしい。“Never The Same”にはパーラメントのような響きがあると思うし、“The Spaceship Is Leaving”は個人的にJBジミ・ヘンドリックスが融合したようなサウンドだと思っている。“Driftin Away”は、俺とジャコ(・パストリアス)が雲の上を飛んでファンクを弾いてる夢を見たことから出来た曲なんだ。目が覚めたらベースラインが聴こえてきて、あれはジャコにインスパイアされた瞬間だったね」。

 屈託なく想像力を働かせた創造のプロセスが、この窓を全開にしたような素晴らしい風通しの良さに繋がったのだろう。昨今のLAシーンが生み出したどんな作品よりも、彼の音には(勝手なイメージではあるが)LA的な明るさと楽しさが溢れている。

 「永遠的に聴くことのできる作品を作りたかった。俺はリピート再生して聴けるような音楽が好きなんだ。いつ聴いても初めて聴いたときと同じくらい良くて、みんなが好んでくれるような、タイムレスな音楽を作りたかった。それがアルバムの方向性だ。俺は独学(self taught)でいろんな音楽を学んできたし、問いかけというか、これをムーヴメントの始まりにしたかった。〈良いとされている音楽をプログラム通りに作る〉のではなく、〈自分たちが創造したいものを想像力を使って創造するべき〉だというムーヴメントだ」。

 

ブランドン・コールマン


82年生まれ、LA出身のジャズ・キーボーディスト。音楽一家に生まれ育ち、高校卒業後はコルバーン・スクールでジャズを学ぶ。2000年代に入ってからさまざまなアーティストのライヴで演奏するようになり、カマシ・ワシントンやビルド・アン・アーク、サンダーキャットらのレコーディングに参加。2011年には自主制作によるファースト・アルバムを配信リリース。以降はフライング・ロータスやボニー・ジェイムズらとのコラボでも注目を集める。今年に入ってからはクァンティックの『A New Constellation』に参加、カマシ・ワシントンの来日公演でも話題を集めるなか、12月2日に先述のファースト・アルバム『Self Taught』(Brandon Coleman/BEAT)をCDでリリース。