コラム

映画「禁じられた歌声」 多数の映画賞ノミネート&バラケ・シソコら音楽協力したアブデラマン・シサコ監督作が日本初公開

(C)2014 Les Films du Worso (C)Dune Vision

抵抗の、否の詩集

 暴力に抗うための最良の手段が暴力であるとはかぎらない。近年の一連の「テロ」などは、むしろ大国が「テロ」撲滅のためと称してふるった暴力に誘発された面が少なからずある。

 サハラ砂漠南西部のマリ共和国北部で2012年から2013年にかけて起こった出来事を映画化するにあたって、マリの隣国モーリタニア出身のアブデラマン・シサコ監督は、何よりもまずそのことを考えたにちがいない。映像は、作り方次第で、実際の暴力以上に暴力的になりうるが、この映画の映像や語り口は、暴力に抗する静謐な美しさを秘めているからだ。

 マリの内戦は、比較的よく報道されたので、記憶している人も多いだろう。最初は政府に対して遊牧民トゥアレグ(タマシェク)の反乱が起こったが、反乱はイスラム過激派に乗っ取られた。その後、フランス軍の介入で過激派が追い払われ、選挙で新しい政府が誕生して、とりあえず現在にいたっている。

(C)2014 Les Films du Worso (C)Dune Vision

 この内戦が日本でも話題になったのは、過激派が音楽や喫煙やスポーツなど日常生活の細部にまで戒律を強要したからだった。過激派占拠中の北部の都市ティンブクトゥとその周辺を舞台にしたこの映画にも、禁止にまつわるエピソードがくりかえし出てくる。

 といっても極悪非道の兵士が暴れ回って強要するような場面はない。戦士の一人はイスラム教の穏健な聖職者と対話することまでは拒まない。砂漠で人目を避けて喫煙する戦士もいれば、歩哨の退屈しのぎにサッカーの思い出話に花を咲かせる戦士もいる。戦士たちは他者を抑圧する戒律が、自分たち自身をも縛るのを止められない。その怖さもやんわりと描かれている。

 それに対する住民の反抗例として象徴的に描かれるのは、手袋の強制に抵抗する市場の魚売り女、鞭打ち刑に処せられても歌をやめない女性歌手、空想のボールでサッカーを楽しむ少年たちなどの場面で、いずれも忘れがたい印象を残す。

(C)2014 Les Films du Worso (C)Dune Vision

 われわれはイスラム教徒の大部分と過激派は関係がないことを知っている。いさかいで罪を犯したトゥアレグの男が、過激派に裁かれる一連の場面では、過激派が一枚岩ではないことも伝わってくる。

 音楽では、女性歌手役を演じたファトゥマタ・ジャワラ、画面には登場しないがコラの名人バラケ・シソコなど、マリやモーリタニアの有名なミュージシャンが多数協力している。北アフリカの弦楽器ウードを使ったスコアを書いたのは、チュニジアの作曲家アミン・ブハファだ。

 映画では極彩色の衣装を身にまとった狂女だけが、自由な振舞を黙認されている。その状況は、日本の政治や社会の変化を見ていると、遠い国の他人事と言ってばかりはいられないという気もしてくる。

映画『禁じられた歌声』
監督:アブデラマン・シサコ
出演:イブラヒム・アメド・アカ・ピノアベル・ジャブリトゥルゥ・キキ/ファトウマタ・ジャワラ/イチェム・ヤクビ/他
配給:レスペ(2014年 フランス・モーリタニア 97分)
(C)2014 Les Films du Worso (C)Dune Vision
◎12/26(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー

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