マリ共和国の新世代トリオと先鋭的な弦楽四重奏との共演作
20年前にライ・クーダーがキューバのブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブをプロデュースして作ったアルバムが、その後世界的に大ヒットした。それを仕掛けたワールド・サーキット・レーベルは、しばらく鳴りを潜めていたが、ここに来てオーケストラ・バオバブの10年ぶりの新作を発売。続いてこのトリオ・ダ・カリ&クロノス・クァルテットの『ラディリカン』を発表した。
クロノス・クァルテットは言うまでもなく現代音楽の人気弦楽四重奏団。これまでにブルガリアやインドやアゼルバイジャンの歌手などワールド・ミュージックのアーティストとも数多く共演してきた。今回の共演相手トリオ・ダ・カリはマリ共和国のグループだ。
トリオ・ダ・カリの歌手ハワ・カッセ・マディ・ジャバテはベテラン歌手カッセ・マディ・ジャバテの娘、バラフォン(木琴)奏者のフォデ・ラッサナ・ジャバテはトゥマニ・ジャバテ・シンメトリック・オーケストラのメンバー、ベース・ンゴニ(バンジョー的な楽器で低音用)奏者のママドゥ・クヤテはバセク・クヤテの息子。三者とも高名な伝統音楽一家の生まれだ。ただしバラフォンと歌は伝統的な組み合わせだが、ベース・ンゴニは近年開発された楽器だから、3人のアンサンブルは完全に伝統的というわけではない。
音楽はトリオを前に出してクァルテットが彩を添えるもののほうが多いが、古いマンデ系の伝統曲をクァルテットが前に出て伴奏している曲もある。アメリカのゴスペル歌手マへリア・ジャクソンの曲はクァルテット側からの提案で取り上げられた。“主は涙を拭い去る”のオルガン風の演奏は、クァルテットが弦の弾き方を工夫して作ったそうだ。
ブエナ・ビスタ以来、ワールド・サーキットは英米とワールド系のアーティストの組み合わせに強い関心を寄せてきた。その久々の企画としてレーベルが満を持して作ったこのアルバムは、伝統的なのに現代的という〈ありえなさ〉の妙が実現した作品だ。