〈early days〉から辿る、綾野ましろの軌跡!

 雪のように真っ白で淀みのないハイトーン・ヴォイスを耳にするたび、力強さのなかに滲む微かな切なさに心を動かされる。2014年10月にシングル“ideal white”でメジャー・デビューしてから一年強。2015年は“vanilla sky”“infinity beyond”という話題曲を放ったほか、日本最大級のアニソン・イヴェント〈Animelo Summer Live〉に出演、LAやシンガポール、ドイツでもステージを経験するなど、シンガーとして着実に成長を重ねてきた綾野ましろ。そのプレ・デビュー期の楽曲を中心に構成されたのが、今回のコンセプト・アルバム『early days』だ。

綾野ましろ early days ARIOLA JAPAN(2016)

 北海道は洞爺湖に生まれ育ち、「まだ幼かった頃、言葉で気持ちを伝える難しさや危うさにぶつかってしまった時、音楽と出会って歌うことに没頭することで、そこに自分の〈居場所〉を見つけたような気がして」歌手の道を志したという彼女。その夢を叶えるため札幌へ移り住むも、自分の方向性に悩んでいた時に出会ったのが、現在も彼女の楽曲の多くを手掛ける安田史生だった。

 「(初対面の印象は)いままで出会ったことのない、変わった人だなぁと思いました(笑)。でも、私にとって楽曲制作だけでなく、何気ない話もいろいろとざっくばらんに話せてしまうような存在です」。

 同じ北海道出身の藍井エイルの存在が、アニメ音楽の世界に興味を持つきっかけだったと語る綾野だが、その藍井を世に送り出した安田との出会いは、彼女の運命を大きく動かす。2人はさっそく音源の制作に取り掛かり、そこから生まれたのが本作に収められた楽曲たち。このうち“Wingless Diver”と“刹那クロニクル”は、2014年にプレ・デビュー曲として発表されたライヴでもお馴染みのナンバーだが、その他は今回が初出(ヴォーカルは新録)。なかでもリード・トラックの“春想の街”は、シングルの表題曲では爽快なアップを連発してきた彼女のバラディアーとしての実力が窺える、どこか懐かしさを感じさせるミディアムだ。

 「洞爺湖の街並みや子供の頃の思い出をイメージして歌いました。MVも全編を通して洞爺湖で撮影してます。冬と寄り添い、春を待ち侘びる、そんな北海道での生活や風景を思い描いてもらえたら嬉しいですね」。

 さらに“re:rain”では綾野と安田が歌詞を共作。エモーショナルなギター・ロックに、希望を強く求める言葉が光を投げかける。

 「〈心に降る雨〉が止むまでの物語を綴っています。孤独と向き合いながら、強がりながら、疲れてしまうこともあるけれど、きっと止まない雨はないのかなって」。

 そこに「こういう一風変わったアップテンポの曲調も好きで。とにかくライヴで歌いたい曲です」と語るパンキッシュなビート・ロック“RAY OF LIGHT”を加えた収録曲に通底するのは、どこか冬の澄んだ空気を思わせる凛とした佇まい。その歌声が持つ特質はもちろんだが、いまも北海道を拠点とする綾野(と安田)の故郷への思いが、自然と楽曲にそういった雰囲気を帯びさせたのかもしれない。

 「北海道の冬は厳しいですが、故郷の雪はどこか暖かく感じる時もあって。北海道はいまの私の原点でもあって大切な土地ですから、ここに住んで思うことや生まれてくる作品を大事にしていきたいと思っています」。

 なお、本作には2015年11月に行われた初ワンマン公演より、“ideal white”“燐光”“vanilla sky”のライヴ音源も収録。ファンの熱気を全身で受け止め、それを凌ぐパワフルな歌声を響かせるその様子からは、彼女がこの先さらに大きな舞台に立つ未来が見えるようだ。

 「私はいつもその時にできるベストを尽くしたいと思っていて。初ワンマンでもそれは実践できたと思います。春には次のワンマンも控えてますし、どんどん大きな会場でライヴをして、たくさんの人と〈居場所〉を作っていきたいです!」。