[特集]二次元以上。widescreen
真っ白から極彩色までのグラデーションを描くカラフルな素敵音楽が、今秋は大充実。天使も悪魔も映り込む極上ポップ世界を、今回は拡大版でお届けします!!
綾野ましろ
伸びやかなハイトーン・ヴォイスを持つシンガーが、まっさらな状態でシーンに登場してから2年半。強い意志を秘めた歌の力で、彼女はいま、居場所を築き上げた
名前と歌声のほかは何もわからない。Mashiroと名乗る謎のシンガーが、アニメソング専門誌の付属CDという異例の形で突如シーンに登場したのは、2014年の5月のこと。その後Mashiroは綾野ましろとなり、TVアニメ「Fate/stay night」のオープニング・テーマ“ideal white”で鮮烈なデビューを飾る。北海道は洞爺湖町出身であること、プロデューサー・安田史生の秘蔵っ子であること、清楚なルックスと伸びやかなハイトーンを持つ類い稀な逸材であること――徐々にそのプロフィールがあきらかになり、熱烈な支持者を増やしながら駆け抜けてきた約2年半。始まりの季節のときめきを完璧にパッケージしたファースト・アルバム『WHITE PLACE』、満を持してのリリースだ。
「現時点でのベストを尽くしたアルバムです。〈ホワイト〉は〈ましろ〉でもあり、〈プレイス〉は〈場所〉という意味もあるんですけど、今回の場合は〈私とみんなとの居場所〉という意味を込めた〈プレイス〉なんです。音楽は、小さいときから私にとっての居場所だったから、アーティスト側になったいまは、私がみんなの居場所を作りたいという、ファーストに相応しい信念を込めたタイトルになっています」。
収録曲は、TVアニメとPCゲームで展開された〈ガンスリンガー ストラトス〉シリーズのタイアップ・チューン“vanilla sky”と“infinity beyond”、TVアニメ「D.Gray-man HALLOW」のエンディング曲となった最新シングル“Lotus Pain”など、これまでのベスト的な選曲に新曲とボーナス・トラックを加えた15曲の大ヴォリューム。一聴して気付くのは、以前よりも歌声にまろやかな膨らみと芯の太さが増していること。例えば2曲目から3曲目――デビュー曲“ideal white”と今作用に書き下ろされた“スパイラル・ガーデン”とを続けて聴くと、その印象はくっきりと鮮やかだ。
「変わったのかな? 逆にみんなに訊きたいですね。ただ自分では、〈最初の頃は表現が少し若いのかな〉というふうには思います(笑)。最近は歌詞を自分で書かせていただくことも増えたので、ちゃんと歌詞の世界観に入り込んで表現できている実感は、2年前よりも大きいかもしれないですね」。
歌詞なら言ってもいいんでしょ?
新曲は6曲。そのうち彼女自身の作詞が3曲あるが、これが良い。例えば、ヘドバンが似合いそうなハード・ロック路線に挑戦した“スパイラル・ガーデン”。そして、三連の壮大なロック・バラード“misty way”。その詞世界は、まだあどけなさの残る表情や、ふんわりとしたしゃべり方とは裏腹に、とてもメッセージ性の強いものだ。
「“スパイラル・ガーデン”は曲のアレンジにインスピレーションをもらっていて、頭の中をぐるぐる駆け巡っている風景が浮かんだので、それをメリーゴーランドに例えています。自分自身の罪の意識、罪悪感や後悔を、半分諦めて受け入れて、それでもそのなかでもがいている。救われることを期待して禁断の実を食べたけど、結局やっぱり駄目だったのかな?という、救いがない曲ではあるんですけど。自分自身もそういう経験があるし、そういう人はいっぱいいると思うから、その気持ちを肯定したいと思って書いた歌詞です。“misty way”は、普段私が使わないようなシンプルな言葉をあえて使ってみました。〈霧にかすむ道〉というのは、〈先の見えない道を歩いている〉というイメージで、私が好きな私になるためには、努力をしなきゃいけないのはわかってるんだけど、それだけじゃ上手くいかない。〈そんな魔法があったらいいのにな〉という切なる思いを歌ってます」。
極めつけは、スリリングなスピード感溢れるロック・チューンの“憧憬”。yukaricoとの共作による歌詞は、心の中にある別人格との戦いという、シリアスでドラマティックなもの。キュートなアニソン・シンガーの枠を軽くはみ出す、ギリギリの心理描写は迫力満点だ。
「自分の中に二つの存在がいて、英語の部分は掛け合いみたいになってます。自分が憧れた世界に向かって、もがいてもなかなか辿り着けなくて、そこでもう一人の自分と戦って打ち勝つという、力強い曲ですね。この社会で戦っていくには、自分の気持ちを押し殺さなきゃいけないことがたくさんあるけど、これを言わなかったら後悔すると思うことは言いたいし、作りたいもののためには熱くなっちゃったりするし。私のそういう思いも、歌詞に乗ってるのかもしれないです。普段は言えなくても、歌詞なら言ってもいいんでしょ?っていう感じ(笑)。それが響いてくれる人が、どこかにいたらいいなって思います。だから、私の周りに集まってくれる人には、同志みたいな感覚がありますね」。
シーン全体で盛り上がれたら
新曲のなかには他にも、ストリングスに飾られたスロウ・パートと、アッパーな4つ打ちのサビが交互に登場する“sinkiro”、メランコリックな深みのあるピアノ・ロック“Delusion”、思いきり陽性のポップ・チューンに挑戦した“labradorite”と、新機軸がズラリ。なかでも作詞にmeg rock、作曲にミト(クラムボン)を迎えた“labradorite”には、新鮮な発見があったという。
「いままでにないポップさがあって、可愛らしい楽曲なので、いきなり壁にぶち当たったんですけど(笑)。歌詞をよく読むと、〈ためらいながらも新しい世界にみんなと行きたい〉という意図がわかったので、そう思った瞬間に気持ちが変わって、しっかり入り込んで歌えました。ミトさんはベーシストなので、この曲はベースが特にカッコイイんです。みんなそこに注目してください。ライヴも楽しみです」。
秋には3度目のワンマン・ライヴが決まり、会場も大阪、東京、地元・札幌の3か所へとスケールアップ。同志たちとの居場所は、着実に広がりつつある。北国から来た少女は、その強い意志を秘めた歌の力で、さらに大きく羽ばたこうとしている。
「シンガーとして歌っているからこそ、改めて〈音楽ってすごいな〉と思うことが最近増えました。私も昔好きだったアーティストさんがいて、クラスの友達と〈君はどれぐらいこのアーティストに思いを掛けているのか!〉って、ケンカするぐらい熱くなってたんですよ。それは本当に青春だったし、そういう人がどんどん増えて、コミュニティーが広がっていったら楽しいよなって思うんですよね。私の音楽だけじゃなくて、このシーン全体で盛り上がっていけたらいいなという思いがすごくあります」。