インタビュー

新生ミステリー・ジェッツ、〈HCW〉での挑戦的パフォーマンスの意図をあきらかとする新作『Curve Of The Earth』を語る

 

ナチュラルに音楽性を変化させてきたミステリー・ジェッツが新作『Curve Of The Earth』を発表した。レコーディング前には、2012年に脱退したカイ・フィッシュの後釜として新たなベーシスト、ジャック・フラナガンが加入。新たな4人編成で制作した初のアルバムだ。2015年11月に開催された〈Hostess Club Weekender(以下〈HCW〉)〉でのライヴでは、リリース前にもかかわらず同作が全曲パフォーマンスされ、いち早く体験できた日本のファンは特に待ち遠しかっただろう。まず耳を引くのは端正なプロダクション・ワークで、キャリア史上屈指の複雑なアンサンブルを美しく有機的に組み立てている。〈HCW〉ではまだ苦戦しながら演奏しているように見えたが、音源の緻密さを考えるとそれも仕方のなかったことなのかもしれない。また、随所で使われているエレクトロニクスも効果的で、ディープかつビッグになった音の鳴りも強烈だ。メンバー自身も語っているように〈これまでになかったくらいに大胆〉な進化を遂げたアルバムと言える。

劇的な変化の一方で、『Curve Of The Earth』には2006年の初作『Making Dens』のサイケデリックなムード、2008年作『Twenty One』においてエロール・アルカンが力添えしたプロダクションの先鋭性、そして『Serotonin』(2010年)から『Radlans』(2012年)にかけて磨きをかけていった巧みなソングライティングと、これまでに培った彼らの特徴すべてが溶け込んでいるのだ。ここでは新生ミステリー・ジェッツとなったバンドとその驚くべき新作について、ギター/ヴォーカルのウィリアム・リースとドラムスのカピル・トレヴェディに話を訊いた。

MYSTERY JETS Curve Of The Earth Caroline/HOSTESS(2015)

――新作、素晴らしかったです。ミステリー・ジェッツの新章を告げる作品でありつつ、これまでのあなたたちのさまざまな魅力も反映されていました。

ウィリアム・リース「君の言う通りだと思う。このアルバムを作るにあたって、いまままでの10年、15年を振り返ったところがあるんだ。プログレやサイケといったバンド初期に聴いていた音楽を踏まえたうえで作ったアルバムだし、それと同時に新しいことをやっている。自分の新しい経験がしっかりと反映されているんだ。いままで進んできて辿り着いた場所から昔を振り返ってみた作品でもあるし、ここから新たに出発するというアルバムでもある」

カピル・トレヴェディ 「もう僕らも音楽シーンに登場したばかりの男の子じゃないからね。大人の男に……いや、まだバンドをやってるから大人とは言えないな(笑)。思春期が続いているような気もするし」

ウィリアム「ハハハ。そうだね」

カピル「人生のなかでは、なにかを決めてそこを集中しなきゃいけない時期があると思う。自分たちにとってはいまがそのときなんだろうな」

――前作の『Radlands』をリリースして以降、2013年の〈ブリスフィールズ・フェスティヴァル〉にはヘッドライナーで出演するなどを経て、バンドとしては仕上がっていたにもかかわらず、2014年は表舞台に立つことを避けていた印象でした。

〈ブリスフィールズ・フェスティヴァル〉でのライヴ映像

 

ウィリアム「『Radlands』は自然な終わり方をしたんだよね。自分たちの20代を費やした、アルバムを作ってツアーをしてというここ10年の周期が、特に決めたわけでもないのにスロウダウンしていったんだ。そのあと自分やバンドのことを考え直して次の方向を見つけるための時間が必要だったんだと思う。カイが辞めて、そしてジャックが加入したことが象徴的だと思うんだけど、あるチャプターが終わって次のチャプターが始まった。それに対して自分たちもどういうふうにやろうか考えたり慣れようとしたり、そうした時間を設けたことが音楽のためにもなったんだ。自分たちがどういうことを表現したいかがはっきりと見えた」

カピル「今回、自分たちで決めていたことの1つは、本当にアルバムが完成するまで完成とは言わないってこと。締め切りを作って、それに間に合うように作るということは絶対にしないってね。実はアルバムを2枚作ったんだよ。まず1枚作ってみて、でも〈これじゃない〉と思ったから、また1年かけてアルバムを作った。ラッキーなことに、2回目で自分たちで納得できる作品を作ることができたんだ。それが『Cueve Of The Earth』さ。良かったのは自分たちのスタジオを持ったことだね。自分たちの世界で、時間制限なく取り組めたのは最初の『Making Dens』ぶりだった」

2006年作『Making Dens』収録曲“Alas Agnes”

 

――お蔵入りになった作品と今回の『Curve Of The Earth』とではどんなところが違うのでしょう?

ウィリアム「もうめちゃくちゃ違うね。最初に作ったものはすごく重たくてゆっくりとしたドローンなアルバムだったんだ。聴いててすごく疲れたよ! マネージャーも含めてみんなで1枚通して聴いてみたんだけど、最後のほうでは全員が時計を見てたくらいさ。〈終わらないかなー〉みたいにね。そのときにこれはリリースしちゃダメだってわかったよ。でも、その経験があったからこそ、それからのソングライティングの方向性が定まった」

カピル「実は6曲目の“Blood Red Baloon”はそのアルバムにも入っていたんだ。タイトルから〈血まみれ〉という曲だろ? そういう曲が1枚のアルバムのなかにうまく入っていれば良いんだけど、同じような曲が並んでいると退屈だよね。自分たちが気付いたのは、曲それぞれに違う役割があって、アルバムはそのバランスを取らなきゃいけないということだった。あの曲が出発点だったね」

――ドローンでスロウなアルバムを作ったとき、ジャックはもう加入していたんですか?

ウィリアム「もうジャックもいたよ。話としては一度アルバムを作って〈ダメだー〉ということになって、ジャックが加入したことでブレイクスルーが起きたと言えば綺麗なんだけどね(笑)」

――ジャックはもともと誰の知り合いだったんですか?

カピル「ロンドンのライヴハウスやクラブ、バーといった音楽の遊び場にいつもいる奴だったんだ。彼もバンドをやってたし、よく会うから、〈またいるな〉と徐々に顔見知りになった。そうしていくうちにバンドに誘い込んでいったわけ」

ウィリアム「こっちから特に気を遣うことなく、すぐにハマったね。〈探し求めていたパズルのピースだ!〉と思えるくらいだった。逆に言うと、カイが抜けたあとはいつも彼の影を感じていたんだと思う。ジャックはプレイヤーとしてだけでなく仲間の1人としてすんなり入ってきたんだ。まったく問題はなかったよ」

カピル「このバンドはギャング集団みたいなところもあるからさ。ジャックはその一員だと思えたことが大きかったな」

ジャックが元ホロウェイズロブ・スキッパーらと活動していたヘアーズの2012年の楽曲“Your Kind Of Guy”。ロブは2014年に逝去

 

――なるほど。じゃあ音楽的に彼がミステリー・ジェッツに持ち込んだものは?

カピル「どういうことか具体的に言うのは難しいね」

ウィリアム「そうだね。音楽を作るということは終わらないプロセスであって、アンプを切った瞬間に終わることじゃない。昼でも夜でも1日中、例えばいま君と話していることも、どういう形でかはわからないけれど、将来音楽に関わってくることだと思うんだ。ジャックはこの船に飛び乗ってくれたというか、いま一緒にその経験を生きてくれているんだよね。彼のやってくれたことはすごく大きいんだけど、バンドの音楽というのはスープみたいなもので、それぞれの素材がわからないくらいに溶け込んでいるんだ」 

 

 

――2015年11月の〈Hostess Club Weekender〉では、リリース前の『Curve Of The Earth』をフルで演奏するというチャレンジングなパフォーマンスをしてくれました。

ウィリアム「『Curve of the Earth』はアルバムとして聴いてほしい、聴かなきゃいけない作品なんだ。1つの作品のなかで全部の曲がお互いに語り合っているようなアルバムだからね。ライヴにおいても、他のアルバムの曲のなかにちょこちょこ挿まっているんじゃなくて、ピュアなまま提示するというのがすごく大事だった。〈HCW〉の1週間ほど前にロンドンでも同じパフォーマンスをしたんだけど、それを日本でもやるのは日本の観客をリスペクトすることでもあるよね。ロンドンのハードコアなファンの前ではやるけれど、海外のファンに向けてはやらないというんじゃなくて、日本でも同じことをやれたのが大きいしすごく意味がある。それは、僕たちの今回の作品に対する信頼の表れでもあるんだよね。もちろん観客にとっては知らない曲をずっと聴き続けるのは大変だと思うし、バンドにとっても慣れない曲ばかりを演奏するのは簡単なことじゃない」

カピル「特に時差ボケのときはね」

ウィリアム「でもやったことにはすごく意義があったんだ」

 

 

――〈HCW〉のライヴでは新作の楽曲の演奏に手こずっている局面もあったように見えましたけど、メンバー全員が挑戦している姿には興奮しました。

カピル「すごく勇気があるかすごく馬鹿なのかどっちかだよね。今回はクルーを連れて来れなくてさ。そういうなかでの慣れない演奏は愚かなチャレンジだったかもしれなけいけれどやった甲斐はあった。このアルバムにはああいう形で初対面してほしかったんだ。今作は自分たちが経験したすべてをリスナーにも体験してほしいアルバムだし、自分たちも聴く人の知性を信頼しなきゃいけない作品さ。ちゃんと伝えられるんだと自分たちのことも信じなきゃいけなかったんだ」

『Curve Of The Earth』収録曲“Telomere”

 

――“Greatest Hits”という曲もあるように、ミステリー・ジェッツは優れたポップソングを作ることにも長けたバンドですよね。そのうえで今回はアルバム1枚を通して体験すべき作品にしようとした理由は?

 

2012年作『Radlands』収録曲“Greatest Hits”

  

ウィリアム「これまでになかったくらい大胆で決定的なものを作りたかったんだ。以前はプログレっぽかったり、ものすごくポップだったり、その時々の影響が色濃く出てるアルバムを作ってきたと思う。『Radlands』ではアメリカ的なものをめざしたり、そういうふうにいろいろな服を着てみてきたんだけど、いまは自分たち自身、ミステリー・ジェッツというバンドがどういうものかという作品を作るときが来たんだよね。そのなかで今回はシングル向けのポップソングを入れなきゃ、みたいな気持ちがなかったんだ。アルバムとして全部が同じカラー・パレットから生まれたような作品にするのがすごく大事だった」

カピル「ミステリー・ジェッツはいろんなことができるバンドだけど、それは良い面も悪い面もあるよね。今回は1枚のアルバムとして聴いてほしい」

ウィリアム「いまはストリームとかがあるからこそね。新しいものをバンバン投げつけられて注意力が散漫になるような聴き方がシステムによって促進されているような面もある。でも実際はきちんとアルバムを聴くという人はいまもいっぱいいると思うし、アルバムというフォーマットは死んでない。作るほうにとっても45分聴いてもらうというチャレンジはやりがいのあることなんだ」

――2人が話してくれているリスナーの能動性を信頼するという態度は今作のインスピレーション源となったという〈全地球カタログ〉の監修者、スチュアート・ブランドの考えとも通じるものだと思います。彼の思想がバンドを後押ししてくれたのでしょうか?

※ヒッピー文化/ハッカー文化に影響を与えた雑誌〈全地球カタログ〉の監修で知られる作家。持続可能な社会をめざすサスティナブル・リヴィングの提唱者として現在も活動している

〈全地球カタログ〉をテーマとしたトーク・イヴェントの模様

 

ウィリアム「〈全地球カタログ〉の下敷きには楽観性があると思う。人と人、アイデアとアイデア、それらを追求することでお互いがどんどんコネクトしていくというね。最初に出会ったときはアナログのインターネット、Googleが生まれる前のGoogleみたいな存在だなと思った。ページの順番に沿って読んでいくんじゃなくて、興味から興味に飛んでいろんなところに飛べる。書かれていることもオプティミスティックな側面があって、スティーヴ・ジョブズも引用した“Stay Hungrry, Stay Foolish”なんかもそうだけど、受け取る人への信頼がすごく表れているものだよね。そこにインスパイアされたんだ」 

 


 

★2月8日追記
ミステリー・ジェッツの約5年ぶりとなる単独来日公演が決定!

Hostess Club Presents Mystery Jets
日時/会場:
5月12日(木) 大阪・Soma
5月13日(金) 東京・恵比寿LIQUIDROOM
開場/開演:18:30/19:30
チケット:6,000円(1D別)
※詳細はこちら

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