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〈壊していこう〉という感じは時代に合ってる気がする

――近年はセルフ・プロデュースの作品が続いていましたが、『BABEL, BABEL』には高野寛さんが参加されていて、亀井さん作曲の4曲でプロデュースを手掛けられていますね。

亀井「高野さんにお願いした時点では、まだ曲は1曲も出来ていなくて。ただ、高野さんに入ってもらった期間にたまたま僕がまとめて曲を持っていったので、結果そうなった感じです」

西川「プロデューサーを誰にするか、相当前からミーティングを重ねていたんです。候補もたくさん挙がっていて、海外のミュージシャンの名前もあったんですけど、アイデアを出してくれる人がもう一人欲しいというなかで、高野さんは比較的オールマイティーなんじゃないかと思って。僕は高野さんと面識もなかったし、高野さんの音楽のこともそこまで詳しいわけではなかったんですけど、こっちのオーダーにもっとも的確に応えてくれるんじゃないかという漠然としたイメージがあったんです。極端な人に頼むと、向こうの色に染まっちゃうかもしれないし」

田中「もしかしたら、完全に向こうの色に染まるというのも、そのうちアリになるかもしれないですけど、今回は曲もないうちからプロデューサーを決めなければならない状況だったので、〈こういう雰囲気の曲が出来てきたから、この人に話を振ってみよう〉という話にはならなくて」

高野寛の2014年作『TRIO』収録曲“Dog Year, Good Year”

 

――前作から1年という短いスパンで制作するにあたって、今回は他の人のアイデアを入れたいという希望がまずあったわけですね。

田中「そうですね。実を言うと、前のアルバムの時から〈そろそろ誰かプロデューサーを入れたい〉っていう話はあったんですけど、前回はあれよあれよとセルフ・プロデュースでやってしまったもんですから、次こそは誰かをお呼びしようと早い段階から話していたんです」

――なるほど、そういうことでしたか。高野寛さんの参加というのは、最初は意外にも思えたんですが、XTCという共通項もありますし、ポップとストレンジのバランスという意味で、すごくしっくりくる組み合わせだなと思いました。

西川「向こうの守備範囲が広いだけかもしれないですけどね(笑)。事あるごとに〈XTCのこの曲のこんな感じ〉って伝えてくれて、〈それを出されると、首を縦に振らないわけにはいかない〉みたいな(笑)」

――実際、最初に形になったのはどの曲だったんですか?

亀井「“SPF”ですかね。最初にジェイムズ・イハみたいな感じをイメージしていたので、この曲はそんなに大きく外れた仕上がりにはなってないですね。逆に言うと、高野さんに関わってもらってなかったら、もっと変な曲になっていたかもしれない」

田中「高野さんには重ねるもののトリートメントをしてもらって、それですごくシャンとした感じが出たというか、ハモとかにそれが表れている気がします」

――では、高野さんが入ってもっとも化学反応が起こった曲というと?

田中「それは“UNOMI”じゃないですかね。実際、高野さんがギターを弾いてくれましたから。弾いてるというか〈擦ってる〉んですけど」

――別のメディアで田中さんと高野さんの対談を読んだのですが、高野さんとアート・リンゼイとのインプロ・セッションがインスピレーション源になったとお話されていましたよね。〈GRAPEVINEはプリプロから本番のレコーディングでもう一度アレンジをし直す〉というエピソードも、すごく〈らしいな〉と思いました。

2014年の高野寛とアート・リンゼイのインプロヴィゼーション・ライヴ映像

 

田中「いまどきはがっちりデモを作って、それを差し替えていくというやり方も多いみたいですけど、われわれはそのやり方をずっとしてきてるんですよね。プリプロではアレンジを緻密に構築していくんですけど、結局それを〈せーの〉でやることに一生懸命になってるんじゃないかなと。そのへんにワンマン・バンドじゃないことのおもしろさが出てるんじゃないですかね」

西川「自分らでやっていて、曲の解釈がどんどん変わっていくのは非常におもしろいですね。レコーディング当日に解釈が変わってしまうこともよくあるんですけど、それにみんなが対応できるというのが、うちのバンドの強みかもしれない」

――解釈のズレをエラーと捉えて排除していった結果、面白味のない作品になってしまうことも多いと思うんですけど、むしろそこにこそ豊かさがあって、積極的に曲に取り込んでいった結果、独自性の強い作品が生まれているのかなと。

田中「それこそがロックの歴史な気がしますけどね。ビートルズストーンズも、勘違いから始まってるようなもんですから」

西川「極端に言うと、全員同じものを見てなくてもいいと思って演奏しているんです。それで結果的におもしろい音楽になるなら、みんなズレていてもいいというか、一人くらい訳がわかってない人が入っていてもいいかなって」

田中「だから、非常に壮大な、複雑なミクスチャーですよ(笑)」

――今回はさらにそこに高野寛さんも加わったと。

田中「ええ、かなり複雑なミクスチャー度合いの人が入ってますからね(笑)」

――残りの曲の多くはセッションをベースに作られていて、最初に話した再現性を考えずに作られている曲というと、“Golden Dawn”“Heavenly”“BABEL”といったアルバム前半の曲かなと。

西川「そのへんは最初のほうに作った曲が多くて、その頃は前作の延長線上にあるものを作ろうとしていて、そのせいで無茶したアレンジが多いんです。〈前と同じにならないように、さらに〉みたいな気持ちが強くて、比較的気持ち悪いアレンジのものが多い(笑)。このアルバムはいろんなところに気持ち悪い要素があるんですけど、最後の曲(“TOKAKU”)なんかは明るすぎて逆に気持ち悪かったり(笑)。まあ、その〈前作よりもさらに向こうに行きたい〉という意識が、結果的にアルバムのカラーにもなったのかなと」

――ごく一般的に言えば、キャリアを重ねれば自分たちの色が見えてきて、それを深める方向に行くと思うんですね。それがここに来てさらに無茶をするようになってきたというのは、レコード会社の移籍によるフレッシュさ以外にも、何か理由があるのでしょうか?

西川「プロデューサーがいなくなった時期から、どんどん無茶するようになったんですよね。プロデューサーの人がいてくれると、軌道修正してくれたし、前はエンジニアの宮島(哲博)さんとかも〈それはちょっと〉って言ってくれたんですけど、最近は誰も何も言わないので(笑)。やっぱり、同じことを繰り返したくないという気持ちが強いから、できるだけ違うことをしていきたいんですよね」

――シーケンスの感じが独特な“Golden Dawn”はどのように作られたのですか?

西川「プロデューサーの候補にはキシ・バシも挙がっていたんです。あの人の曲って、すごくカラフルじゃないですか。僕らの前作もわりとカラフルだったんですけど、もっとカラフルな感じの曲にしたいと思ったら、結果的にカラフルすぎて気持ち悪い曲になっちゃいました(笑)」

キシ・バシの2014年作『Lighght』収録曲“Philosophize In It! Chemicalize With It!”

 

田中「キシ・バシのカラフルさは極彩色って感じだけど、“Golden Dawn”は……」

西川「狂ってる感じ(笑)。だって、相当チャレンジしてますからね。サビと言われるところに歌詞がなくて、口笛しか入ってない(笑)」

――ミニマルでファンキーなリズムも心地良いです。

田中「最初はセイント・ヴィンセントみたいな感じでやりはじめたんですけど、やってるとついついトーキング・ヘッズっぽくなっちゃうんですよね」

亀井「ほぼやったことがない4つ打ちのパターンをやりましたけど、すごく新鮮でした」

田中「シーケンスと一緒にすることで、いい感じになったなと。あんまり4つ打ちらしい4つ打ちはやったことなかったんですけど」

――このタイミングでやるのもGRAPEVINEらしいのかも(笑)。

田中「しかも、こんな曲で(笑)」

――“BABEL”も非常にカッコイイ仕上がりですね。

田中「これは最初、アラバマ・シェイクスみたいな感じでやりはじめて……結果まったく違うことになってる(笑)。これは初日に作ったので、とりあえずやってみるか、という感じだったんですけど、非常にいい出来になったと思います。高野さんのスケジュールの都合もあって、“EAST OF THE SUN”“SPF”あたりはわりと早い段階で録音していたので、そういう曲が出来上がっていると安心なんですよ。〈もっと無茶してもいいだろう〉ってなれるんで」

――リード曲的な、メロディーの強いものが先に出来ていたからこそ、実験的な方向もより突き詰められたと。

西川「で、最後は力で押し切る曲というか、ただただ明るく、そろそろ何のギミックもない曲がやりたくなったので“TOKAKU”を作って、終わり。もう疲れていたんでしょうね(笑)」

田中「構成や盛り上がり方に関しては、非常に単純な曲なんですけど、結果的にはやっぱりいろんなギミックが入ってます(笑)」

――最初にいまの若いバンドの話などもしましたが、作品を作るにあたって、時代感を意識する部分はどの程度ありましたか?

西川「作っている時は時代感は考えていないんですけど、〈壊していこう〉みたいな感じは時代に合ってる気はします。ウィルコもそうだし、そういうバンドが増えてきているのかなと。僕はそういう一筋縄ではいかないようなバンドが好きなので、そういう意味では時代感があるのかもしれないですね。日本にはあんまりいない気もしますけど」

――シャムキャッツなんかはウィルコが日本でもブレイクして、若い人たちにも聴かれるようになって以降のバンドだと思うので、そういうバンドによってGRAPEVINEが再発見される流れというのは、個人的にはしっくりくるものがあります。

田中「なんだかんだ、聴くもん観るもん読むもんで、時代感は肌で普通に吸収しているんでしょうけど、それをことさら音楽に反映させてるつもりはないですね。ただ、いなたくなったり、古臭くなるのは絶対に嫌なんですよ。だからと言って無理して若作ってる感じにはなりたくないので、あくまでも自然に刺激を受けたものが、自然に反映されたらいいなと思いますね。あと斬新であることを重要視して、ルーツが疎かになるパターンも嫌なんです。なぜウィルコが好きなのかというのは、ロックの歴史みたいなものがちゃんと感じられるからだと思うんですよね」

――脈々と流れるロックの大河のようなものと接続したうえで、同じことを繰り返すことなく前進していくと。

田中「そうですね。そうじゃないと、いくら斬新だったり、演奏が上手くても、あんまり魅力を感じないことが多いですね」

――時代感ということに関しては、言葉の面により表れていると思うのですが、“BABEL”という曲と『BABEL,BABEL』というタイトルとの関係性を教えてください。

田中「歌詞を書くにあたって、前作や前々作とは違う筆致で書きたいと思って書きはじめて、“BABEL”が出来た時に非常にご時世感が出た気がしまして、これをタイトル曲にしようと思い、だったらアルバム・タイトルは『BABEL, BABEL』でいいんじゃないかと。覚えやすいし、インパクトがあるし、(デヴィッド・ボウイの)“REBEL, REBEL”みたいでカッコイイじゃないかと」

――“BABEL”という曲には〈何かおかしな方向に進みはじめてしまったんじゃないか〉という、漠然とした不安感が描かれていて、それはアルバムに通底しているように思います。

田中「そうですね。そういうことを最初はもっと毒々しく書くつもりやったんですけど、結局僕のやり口として〈お前はいったいどの角度からモノを言ってんねん〉という自己批判みたいなものが入ってきてしまうんですね。それで結果として、こうなったんですけど」

――客観的な視点が入って寓話性を纏うことになって、結果的には多くの人が自身を重ねることのできる作品になっているように思います。では最後に、この再現性を度外視したアルバムがライヴでどう再現されるかが気になるところなので、4月からのツアーに向けた展望をお話しいただけますか?

西川「相当大変そうだなと思っていて、正直メンバーをもう一人入れたいです(笑)。最近はハーモニーのラインをかなり凝って作っているので、演奏しながらだと難しいんですよね。そのへんをそろそろ誰かに助けてもらってもいいんじゃないかと、個人的には思っています」

田中「物理的に手が足りないということは、これまでも多々ありましたからね。さらに今回は歌もなかなかハードルが高いという。それをやりこなすスキルもさることながら、違うやり方をまたひとつ増やすことができるといいですけどね。ひとつ新しい武器を手に入れるというか、新しいやり方が見つかるツアーになればいいと思いますね」