EMCの『FOREVER』を聴いてフォークとヒップホップの共通点に気付いたんです
――そうしたなかで昨年、初作『緑町』を作ったことは、なにかに後押しされることがあったんですか?
石指「『緑町』の前に弾き語りのCD-Rを3枚作っていたんですね。そのなかの評判の良い曲や気に入っている曲をさらにアレンジしてみようと考えたんです。で、アレンジをし直して録りはじめたら、こんなにがんばってるんだし、これはフル・アルバムにせんと損だなと思った。どっかのレーベルから出そうという気持ちはなく、そういうオファーもないから、じゃあもう自分で出そうと。そういう流れですね」
E「アルバムの録音方法はどこで学んだんですか?」
石指「『緑町』でやりたかったことは、昔のフォーク・シンガーはこういう音源を作っていたよなと思える作品を作ることだったのよ。だから、気持ちとしてはコピーしまくってたときと同じなんだよね」
M「具体的にイメージしていた作品はあるんですか?」
石指「どれか1つというより、イメージの寄せ集めという感じかな。ファーストのコンセプトは〈生活〉なんですけど、そこに寄せつつ、自分が好きな作品に近付けていった」
E「『緑町』の録音はカセットMTRですよね? なんでデジタルにしなかったんですか?」
石指「理由は大きく2つあって、まずはカセットのほうが目に見えるということ。音が入っているところが見えるでしょ? もう1つは大きい音で再生したときに奥行きやダイナミクスが違うんですよね。まあ、モノとしてもカセットMTRが好きで、お気に入りのを持っていたので、じゃあこいつでアルバムを作ろうと決めたんです。実際録ってみると自分の好みの音に出来た」
E「アナログの温かい音になってますよね」
石指「特に大きい音で再生すると良いんだよね」
E「デジタルだとすぐに修正できるじゃないですか? テープのほうが大変ですよね」
石指「カセットテープはシビアだからね。録音しながらいろいろテクを学んでいった。例えばテープが伸びて少しだけピッチが変わったときにどうすればいいかとかね。いろいろ裏ワザみたいなもんがあるのよ」
E「俺もアナログは好きなんですけど、EMCは完全にデジタルなんですよね。パソコンと録音インターフェイスとマイクがあればどこでもできちゃう」
――石指さんは今回、演奏も録音も全部1人でされてますよね。人に手伝ってもらったりゲストで演奏してもらったりはせず、自分だけで完結させようとした意図は?
石指「確かにいろいろな人と作業したほうが広がりは出るんです。でも自分がいろいろバンドをやっていたという経験にも基づくんですけど、いちいち揉めてらんねえなと思ったんです。『緑町』は関わっている人が4人だけなんですよ。録音・演奏を全部やっている僕、ミックスしてくれたKensummer、デザインが花原史樹くん、で、写真は僕の彼女なんです。とにかく最少人数でやりたかったんですよ。ややこしいことを抜きに進められるために、ミックスもデザインも自分が100%気兼ねなく話せて、かつ信頼している人に頼んだんです」
――逆にEMCの『FOREVER』は石指さんを筆頭に思い出野郎Aチーム、Homecomingsなどゲストも多いですし、石指さんとは違う方法論で制作されてますよね?

E「まず俺らは曲を作る段階から3人でいろいろ話しますからね」
M「雑談からスタートする」
石指「最初にSoundCloudにアップされた“ラップ道"と今回のアルバムのヴァージョンを比べるとやっぱり違うよね。今回のほうがみんなの息が合ってるし、声の張りも違う」
M「最初はもう恥ずかしくて」
E「部屋の電気を消して録ったね」
石指「“BIG LOVE”の〈味噌汁が旨い〉のところ、SoundCloudの音源ではMくんが言ってるけど『FOREVER』だとCくんが言ってるんだね」
EとM「ハハハ(笑)。よく聴いてますね」
石指「めっちゃ聴いてるよ! 昨日“BIGLOVE”を昨日電車で聴いてて泣きそうになっちゃった」
――石指さんは『FOREVER』全体にはどんな感想を持たれました?
石指「まず言えるのは、めっちゃ元気が出るということ。楽しいよね。最近は音楽でもお笑いでも〈病んでる〉アプローチが多い気がするんです。ちょっとヤバイ、陰のある奴が人気になるというか。そのなかでEMCは〈楽しいことは正しい〉とEnjoy Music Clubという名前からして伝えていますよね。その強さがある気がします。音楽やるのは楽しいじゃんというスタンスに説得力がある。それがいまは貴重な気がするんですよ」
E「嬉しいです」
石指「あとEMCは3人で集まることのカッコ良さがあるんですよ。バンドでも、この4人でいるからカッコイイみたいな人たちがいるじゃないですか? 集まって音楽やることの意味ってそこですよね。EMCもそんな感じがするな。絵になる」
――石指さんの感じるEMCが持つ〈楽しいことは正しい〉という説得力は彼らのどういうところから出てるんだと思いますか?
石指「なによりいちばんは3人が楽しそうだからですよね。それぞれの個性も立ってますし、一緒に話してても役割分担がある気がします。Eくんは好きなときに話すし、Cくんは何も気にしていないし、Mくんは気を遣うし(笑)」
M「たまにほかのラップ・グループで仲が良くないという話を聞くと衝撃なんですよ。どうしてできんの?と思う」
石指「3人が仲良いから、俺も混ざるのが楽しくて遊びに行ってしまいますしね。あとは等身大ということ。歌詞とか普通の会話でもそうですけど、自分の身の丈に合ってない内容を歌われたり話されたりすると、すぐ不相応だなとわかるし、聴いているほうも恥ずかしくなるじゃないですか。EMCの音楽は、全部スッと入ってくるし、不自然じゃないんですよね。楽しさの説得力もそこじゃないかな。3人が本心で歌っているんですよ」
M「普段使ってる言葉でラップを書こうとは話しています」
石指「〈パルム、ピザポテト、コーラ〉」
M「そのときにあったものを言ってるだけ」
一同「ハハハ(笑)!」
――普段使っている言葉で歌われることによって、いま生きている人の音楽という印象が強まる気がします。〈マッドマックスとアベンジャーズ〉とか。2015年にリリースされたCDなんだなとわかる。
M「作詞家のなかには、〈現代を表す言葉を使っちゃうと将来懐メロになっちゃうから使わない〉と言ってる人と、逆に〈あえて時代を表す言葉を入れてポップソングにする〉と言ってる人がいますよね。俺は後者のほうがカッコイイと思ったんです。時代感のあるほうがイケてるなと。それで歌詞には〈いま〉のことを入れようとなり、コンビニに糖質制限の商品が増えてきたねとか、そういうことを入れようと話して作ったんです」
E「それって石指さんの歌詞にも感じるんですよね。石指さんの歌を聴いていると、石指さんが喋っているのを聴いているような気になる」
石指「昔のフォークはコードのCとFだけ、DとGだけで曲を作っていたりとか、発想は完全にヒップホップのトラックと一緒なんですよね。ポエムとギターで始まってコードをずっとループさせてサビで印象的なメロディーが乗るという形式はすごくラップと似てますよ」
E「どちらもブルースが原点にあるんでしょうね」
石指「フォークもギターをトラックとして使ってるんだよね。EMCのアルバムを聴いててそれに気付いた」
EとM「なるほど!」
石指「さっきのMくんの固有名詞の話を聞いて思ったんですけど、俺はいつの時代にも同じような奴はおると思うんですよ。例えば俺が60年代や80年代のフォークを聴いても、どの時代の音楽にも俺みたいな奴いますからね。自分みたいな奴は絶対いつもいて、自分が歌ってるような歌を歌ってるシンガーもおるんです。それを聴くか聴かないかはその時々にアンテナを張ってる人がいるかいないかで、もしかしたら30年後、40年後に俺を見つけてくれる人がいるかもしれない。だから固有名詞って全然大した問題じゃないよね。それで古くなるということはたぶんなくて、いつの時代にも同じような奴がおるけん、自分がわかる言葉で歌おうと思う。いまの時代だったらInstagramやTwitter、SNSとか、永久には使われなさそうな単語を使ったっていい。それはただの記号なんですよね。何十年後かに聴いた人の生活にもインスタと同じような何かはあると思う。僕はそう思ってアルバムを作ってましたね」
――自分のなかからスッと出てきた言葉なら、現代語であっても、時代に縛られない耐久性を音楽に加えるんじゃないかということですよね。石指さんはさまざまな時代のフォークに精通していると思うんですけど、その古き良きフォークをなぞってる感じはまったくしません。
E「あー、そうですね」
M「まったくないです」
石指「へぇ、そうですか!」
M「最新の音楽として聴いてます」
石指「オリジナリティーはゼロだと思うんですけどね。本当に真似してるだけですもん」
E「そういう感じはないですよ」
――石指さんもEMCもいまの時代に暮らしている人の作る音楽という印象です。
石指「Mくんが言っていた、斬新なラップをやろうという切り口は意外でしたね。もっとルーツっぽい、それこそスチャダラパー的なスタイルをめざしてるような気がしていた」
M「スチャダラはすごく好きだけど、根っこの部分では違うと思っていますね。スチャダラパーはちゃんとヒップホップだと思います」
――ちなみにEMCが表現するうえでNGにしていることは?
E「ネガティヴなことはしない、入れないってことですね」
M「そんくらいかな」
E「あと他人の悪口を言わない(笑)」
石指「“あなたの悪口、言うのやめます”(『緑町』の収録曲)」
一同「ハハハ(笑)!」
石指「フォークは暗かったり斜に構えてたりする音楽だと思うんです。社会のはみ出し者の音楽。でもEMCから〈楽しいことが正解だ〉と両手を挙げても言われて僕は嫌じゃないんですよね」
――〈ネガティヴなことを言わない〉という姿勢の面で共感できる存在はいますか?
E「うーん」
M「単純に希望が湧く音楽が良いと思ってるんですよ。聴いてて明日がんばろうと思えるほうが健康的だなと。漠然とそういうことは考えてますね」
E「この名前がまず決まったこともデカイですよね。〈Enjoy Music Club〉と名乗ってる以上は、楽しさ以外は〈ギリギリ切ない〉くらい、それ以上先には行かないようにしている」
――石指さんには表現面でのNGはありますか?
E「フォークも漠然と見えないルールみたいなものがありますよね」
石指「あるよね。でも僕は1人ですからね。このコードはダサイとかそういう自分の判断基準はありますけど、自分は真似をしているだけなんです。こんなんをやりたいな、というのがスタートだから、ゼロから生み出したものは何もないんです」
E「音楽はそうなりますよね。いままで聴いてきたもの見てきたものが出る」
石指「自分が聴いてきたものを次の人に渡したいという感覚です」
――EさんとMさんは、石指さんの音楽のどのあたりに彼らしさをもっとも感じますか?
M「俺は歌詞ですね。とにかく歌詞がすごいと思います。石指さんの喋りのようでもあり物語でもあるし、日常を描いているだけというふうには全然思わない。生活を歌った音楽だけど、〈生活〉をテーマにしたファンタジーのような気がします。“最寄りのコンビニ、夜になったら閉まるねやんか”とか素晴らしいですよね。石指さんはどうやって歌詞を書いてるんですか?」
石指「さっき話したフォークとラップの共通点、それは歌詞への接し方でも似てると思うんです。両方とも詩を楽しむ音楽でもあるんですよ。言葉から歌のバックグラウンドを想像していく。語尾が一つ違っても印象は変わりますし、〈なんとかさ〉と〈なんとかだ〉で印象違いますよね。あと人称を使わないことによって広がりが出ることもあります。散文的な歌詞もあるし、〈鼻でとうもろこしをかじっている〉(友部正人“トーキング自動車レースブルース”)みたいに、ない言葉を発明する歌詞もある。読む人が言葉の後ろにあるものを想像するのが詩だと思います」
M「石指さんの歌詞は〈乗換面倒臭いやんか〉という一行でその人がどういう人なのか浮かんでくる。すごい描写力だなと思うんです。本当に感動しますよ」
――そのキャラクターを取り巻く世界とか辿ってきた歴史を匂わせてくれる歌詞は魅力的ですよね。
石指「ね! 一文だけでバックグラウンドを伝える歌詞ってありますよね。それもラップのパンチラインと一緒じゃないですかね。一文でそれ以上のことが入ってくる」
M「石指さんの歌詞は聴き取りやすいところも良いですよね」
――EMCの歌詞も聴き取りやすいですよ。
石指「聴き取りやすい!」
M「アメリカのラップを模したフロウみたいなカッコイイものは、僕らがやることではないなと思っています。普通の言葉で勝負しようと」
E「そもそもできないしね」
M「だね。ダサくなるよね。日本一ダサイ音楽になるよね(笑)」
E「1回そういうトラックも作ったよね」
M「銃声や野犬の鳴き声を採り入れたやつでトライしたこともあるんですが、ダメでした」
石指「EMCの制作はトラックからなんだね。僕は大体曲からなんですよ。鼻歌とかじゃなくてギターで歌のメロディーを作るんです。そのメロディーに合わせて口ずさんでみて、いちばん舌触りの良い言葉を軸に歌詞を作るんです」
E「EMCのサビは他の2人が書いて持ってくるんで、俺は違和感しかないときもあるんですよ。ただ俺の思ってた母音のイメージとは全然違っても、ハメてしばらくミックスしながら聴いているうちに馴染んでくる。1人で作ってたら石指さんと同じ方法になると思うな」
M「ちなみに石指さんは『緑町』を出すにあたってCD以外の選択肢はありました?」
石指「うーん」
M「僕らは最初どうしようかはすごく考えたんです。いまの時代にCDというオワコンかもしれないもので出すべきなのかとか」
E「考えてたね」
M「でも最終的にCDにしたのは、デザイナーからCDにブックレットが付いているのはいまの時代だけだと思うと言われたのと、Eがやっぱり〈モノ〉を作りたいと言ったのが大きかった」
E「逆にCDが良いな、と思うようになってきたんですよね」
石指「俺はむしろCDしか思いつかなかったな。配信だけなんて考えもしなかったし、フォークが好きだからレコードで、というのもカブれてるなという気がしたから普通にしていたい感じ。それでCDを出した」
M「実はCDケースのトレイの下にボーナス曲を入手できるリンクを忍ばせているんです。アルバムが発売して以降のことをテーマに作った曲で、そうした曲がCDの最後の曲としてボートラになっていたら新しいんじゃないかと思った。でも、発売1か月後に発表したら、誰も気付いてないみたいで全然ダウンロードされてないんです(笑)。買ってくださった方はトレイを外してみてください!」
――ゴスペル的な昂揚感のあるスウィート・ソウル・ナンバーで最高でした! この記事が告知にもなって良かったです(笑)。では、最後に両者の2016年の活動指針を教えてください。
石指「今年も1枚アルバムを出したいですね。音源制作に時間を割きたいからライヴは少し減らすかもしれません。1人だから好きなとき、気分が乗っているときに作れるので、長いスパンで取り組みたいなと」
M「バンド編成でライヴしたりは?」
石指「いや、バンドはたぶんまだ無理だろうな。とりあえず3枚目までは1人でやろうと思ってる」
――EMCはどうですか?
M「うーん。無理をしない……ですかね」
一同「ハハハ(笑)!」
石指「俺もそれが良いな。それで!」
★石指拓朗からのお知らせ
ライヴの予定
2月26日(金)東京・高円寺 U-hA
3月11日(金)東京・吉祥寺 曼荼羅
4月23日(土)東京・上野 水上野外音楽堂
★Enjoy Music Clubからのお知らせ
〈SOUL PICNIC 番外編〉『ミラーボールの神様 EP』 Release Party
日時:会場/3月12日(土)東京・代官山LOOP
ライヴ:思い出野郎Aチーム、EMCと思い出野郎、思い出野郎Aチーム with asuka ando
DJ:ミラーボールの神様
開場/開演:18:30/19:30
料金: 2,800円(前売)/3,300円(当日)
「4月は名古屋、京都、広島行きます! 夏にはやりますイヴェント! 詳しくはサイトをチェックしてください!! http://enjoymusicclub.tumblr.com/」