ニューノーマルな日々を駆け抜け、いまこそ人々は外へと飛び出す! 仲間に呼びかける狼のごとく野蛮かつ躍動感に溢れた新作は、新しい世界への咆哮だ!

 パンデミックで時が止まってしまったような期間も、ROTH BART BARON(以下、ロット)は精力的にライヴをこなし、毎年新作を発表してきた。今年4月には川和田恵真監督による長編映画「マイスモールランド」の劇伴にして初めてのサントラ作品『My Small Land (Original Motion Picture Soundtrack)』を発表したばかりだが、その尽きることのない表現衝動を、ダイレクトに反映したのが新作『HOWL』だ。内省的な前作『無限のHAKU』(2021年)とは対照的にアップテンポな曲が並び、アルバムは躍動感に満ちている。バンドのフロントマン、三船雅也は、その変化をこんなふうに語ってくれた。

 「『無限のHAKU』のときはニューノーマルな生活に疲れている人たちの様子を見て、心が静かになるアルバムを作りたかったんです。その結果、バンド史上最高のクォリティーの作品が出来た。その後、ライヴを続けていくなかで、いま観客は外に飛び出したいんだって感じたんですよね。それで新作『HOWL』は身体性を取り戻すアルバムにしようと思ったんです」。

ROTH BART BARON 『HOWL』 SPACE SHOWER(2022)

 アルバムのオープニングを飾るのは、中村佳穂とのデュエット“月に吠える”。中村の個性的な歌声がロットのサウンドに新たな生命力を注ぎ込む。

 「毎回、新しいアルバムを作っているなかで、バンドに新しい何かが生まれたと感じる曲があるんですけど、今回はこの曲がそうでした。そして、曲が出来たときに佳穂ちゃんに歌ってもらいたいと思ったんです。彼女の歌声は脆さもあるけどパワーもすごい。両極端なものが共存していて、いま人々が彼女の歌声を求めている理由がわかったような気がしました」。

 ストリングスやホーンを加えてシンフォニックなサウンドを聴かせるのがロットの特徴だが、本作ではロックバンド的なサウンドがくっきりと浮かび上がっている。“月に吠える”をはじめとするマーティ・ホロベックのベースは独創的。“O N I”では岡田拓郎が珍しくオルタナなギターで切り込み、“HOWL”は工藤明のアグレッシヴなドラミングが炸裂する。なかでも、工藤のドラムはバンド・サウンドの要だ。

 「これまで『極彩色の祝祭』(2020年)に収録された“NEVER FORGET”が、工藤くんにとってランドマーク的な曲だったんです。バンドに入ったばかりで右も左もわからないなか、何度もやり直して一発録りで録ったんですけど、彼は〈もう、これ以上のものは叩けない〉と言っていました。でも、“HOWL”はそのテイクを超えた。新しいアプローチを見つけたって彼は言ってましたね。その演奏を僕がチョップしてループに繋いだんです。今回のアルバムを通してループしたドラムが活躍しています」。

 また、本作にはTVドラマ「階段下のゴッホ」のエンディング曲“赤と青”をはじめ、タイアップ曲を多数収録。それぞれがしっかりとロットの世界に昇華されているが、つくばみらい市のプロモーション曲“MIRAI”には、市内の高校から吹奏楽部が参加。市民の合唱も取り入れた異色の曲に仕上がっている。

 「生徒たちには学校の外に飛び出してほしかったので、学校にない楽器を使って曲を作りました。そして、生徒たちの演奏をサンプリングして、それをビートメイカーみたいに組み立てたんです。そしたらプレステみたいなサウンドになって(笑)。こんな音楽が街に鳴ってたらおもしろいだろうなって思いましたね」。

 もしかしたら、ロットも自分たちの世界から飛び出そうとしたのかもしれない。これまで彼らは、ひとつの物語を生み出していくように曲を構築してきた。サウンドに対するこだわりが頂点に達したのが前作なら、今作は緻密さより野蛮さ。音楽を奏でる興奮や、生の衝動に貫かれている。

 「アルバムを作っているときの仮タイトルは〈月に吠える〉でした。吠えているのは狼のイメージ。狼って仲間を呼ぶときに吠えるじゃないですか。吠えるのはコミュニケーション・ツールなんです。リモート社会のなかで、僕たちが吠えたら誰かが吠え返してくれるんじゃないかと思ったんですよね。みんな孤独を抱えながらも、何かで繋がっているという感覚をアルバムで表現したかったんです」。

 ロットはパンデミック前から、さまざまなミュージシャンとコラボレートするイヴェント〈HOWL SESSION〉を続けてきた。本作の開放感溢れるサウンドはその成果であり、まるでバンドが一匹の獣になってコロナの世界を全速力で駆け抜けていくようだ。いま彼らの目の前には新しい世界が広がっている。

ROTH BART BARONの近作。
左から、2021年作『無限のHAKU』、2022年作『My Small Land (Original Motion Picture Soundtrack)』(共にSPACE SHOWER)

左から、中村佳穂の2022年作『NIA』(SPACE SHOWER)、岡田拓郎の2022年作『Betsu No Jikan』(NEWHERE MUSIC)、マーティ・ホロベックの2022年作『Trio II』(APOLLO SOUNDS)