ラウドにビルドアップされた逞しい演奏とエッジーな言葉の衝突が新たなケミストリーを生み出した! ヴォーカリストを擁するバンドとして強力に新生したケミスツのウォーリアー・サウンドを喰らえ!!!!!
バンドとしての結束
セカンド・アルバム『Spirit In The System』のリリースが2010年――あれから6年近く経過する今年、3枚目となるオリジナル・アルバムがようやく完成した。そんなケミスツ不在の空白期間は、EDMが爆発的に世界を侵食して音楽業界の勢力図を様変わりさせた時期でもある。そのムーヴメントと連動してダブステップやドラムンベースでもアップリフティングなスタイルのアーティストたちが一気にブレイクしたり、ダンス・ミュージックそのものがUSのメインストリームにも着火し、世界中で市民権を獲得していった。
「(EDMやダブステップは)すごくクールで俺たちも気に入っていたよ。当時はそういうのが流行っている時期で、ステージでのライヴでもプロダクションでも、あまりギターの音を入れたがらない人が多かった。〈DJがすべて〉みたいな感じだったんだ。俺たちもそういうスタイルを試して、ダブステップを作ってみたりもした。だが、よくよく考えてみたら、それは俺たちらしい音楽じゃないし、俺たちがやりたいことじゃないと気付いたんだ」(リオン・ハリス、ドラムス)。
前作も〈方向性を定めるまでかなり悩んだ〉という発言をしていた彼らだが、6年のインターヴァルから想像するに今回も試行錯誤をした様子が窺える。しかし、この気付きからケミスツらしさ――ダンス・ミュージック+ロック・バンド――を再認識することで焦点が定まり、そこからアイデアを膨らませて、ある時5人編成のバンドとしてやっていきたいと思うようになったそうだ。
「俺たちのアルバムを聴いてくれるリスナーやファンにとって、ヴォーカリストの継続性というものを提示したかったんだ。つまり同じ人の声が聴こえ、曲ごとに似たような響きが感じられるということ。いろんなアーティストとコラボするのも大好きだし、それは今後もやっていくよ。だけど、今回のアルバムはより統一感のあるものにしたかった。バンドとして一つとなった雰囲気を出したかったんだ」(リアム・ブラック、ギター)。
こうしてライヴではお馴染みだったMCのブルーノ・バランタ、シンガーのオリヴァー・シモンズが正式に加わって5人体制が出来上がった。ファースト・アルバム『Join The Q』(2008年)の野性味に溢れたサウンドを、次作『Spirit In The System』ではエレクトロやダブステップなどを吸収して楽曲に幅を持たせながら深みを追求してきた彼ら。その2作も十分にラウドでアグレッシヴであったはずだが、新作『Warrior Sound』では、一音一音に込められる熱量が各段に増し、ギター・サウンドが重用され、メタルコア・バンドばりの激情が盛られて、よりエネルギッシュでアドレナリンの放出量も尋常でないレベルに達している。
その変化はリアムの言葉の通り、MC/ヴォーカリストが固定されたことによる統一感が大きいようだが、「(5人になったことで)自分たちが感じていることや考えていることを曲にできるようになった」「仲間同士の雰囲気を伝えたかった」とリオンが精神面の結束を想起させる発言がある一方、ダン・アーノルド(ベース/シンセサイザー)は「俺たちはギターが大好きなんだよ。あとドラムキットも(笑)。もちろん、ギターの出す音はギターだけじゃないし、ドラムキットもそれだけの音ではない。ありとあらゆる種類のシンセと混ざった音になって、アルバムで聴こえる音のようになっている」とギターとドラムスへの愛情を冗談めかして話す。
変化を恐れないこと
また2人の加入は歌詞にも大きな変化をもたらしたようで、どこか攻撃性を強調したようなタイトルが目につくのも新作で目を惹く点だ。
「俺たちは、サウンドを通して信念のために立ち向かうから『Warrior Sound』と名付けた。ゲスト・ヴォーカリストそれぞれの考え方ではなく、俺たちにとって大事なことについての曲を書くようになったんだ」(リオン)。
「今回はブルーノも殻を破って、いままで以上に自分自身を自由に表現するようになった。彼とオリ(オリヴァー)はたくさんのことで意見が合っていたからね。現在の世界ではいろいろおかしなことが起こっている。具体的なことは言わないけど……毎日のように俺たちを悩ませ、振り回すような出来事が起こっているだろ。アルバムではそういうような内容に触れているんだよ」(ダン)。
ただ、MC/シンガーの加入によって多彩なゲストとのコラボレーションがなくなるのか心配されている方はご心配なく。今回もラウド系バンドのハクティヴィスト、グライムMCのゲッツ、そしてCrossfaithのKenta Koieという厳選された3組のゲスト・アーティストが、ハイブリッド志向なリスナーたちの欲求を満たしてくれるだろう。
「ハクティヴィストはジェント系メタル音楽の上にラップを被せている。ジェント自体もハイブリッドな音楽だ。CROSSFAITHの音楽はEDMの影響も強い。そして、ゲッツはグライムのアーティストだが、自分の書く音楽によってスタイルを変化させることができる。そういった意味で彼らはみんな、クロスオーヴァーする音楽を理解できるという点で考え方が似ているんだ。スタイルを変化させていくことを恐れない。ゲストを選ぶ際、そこが重要になってくるよ」(リアム)。
「Kentaとはぜひ一緒にやりたいと思っていた。メタルのヴォーカリストと一緒に仕事をしたのは初めてだけど、おもしろかったよ」(ダン)。
「アルバムのなかではKentaとの“Anger”が一番アグレッシヴだと思う」(レオン)。
なお、アルバム・リリース後の4月には日本で初の単独ツアーも決定しているケミスツ。もしかしたらCrossfaithとの共演が観られるかも!?