歌心に溢れた二胡が人気のアジアン・ヒーリングシリーズ
「ヴァイオリンは木と金属で出来てますが、二胡はそこに動物の皮、ニシキヘビの皮が使われています。だから響きがより生き物っぽい。二胡の音色は女性の声に似ていると言われているんですね。そもそも二胡は指板が無いから、深くビブラートができる。それが聴き手をより感情的にさせるんですね」。二胡の魅力についてそう語るのは日本在住の二胡奏者、甘建民(グァン・ジャンミン)。柔和な笑顔と朴訥としていてマイルドで優しい喋り声。まるで彼が奏でる音楽そのものだ。あぁきっと、彼が開いている〈甘建民二胡学院〉の生徒さんたちもこの響きにメロメロなんだろうな、というような余計なことを考えたりしてしまう。
それにしても、とことん切ない胸に響く音色だ。彼の新作『はかなき恋の二胡~アジアン・ヒーリング~』を聴いてそう思う。世界共通の郷愁を誘う二胡とはなんて人間臭い楽器なんだろうとつくづく感じさせる魅力に溢れている。前作『眠れる風の二胡』に続いて二胡J-POPのインスト集である本作は、桜色に華やぐ季節に最適なラヴソング集。五輪真弓の《恋人よ》のような中国でも人気のある曲を採り上げつつ、哀愁を帯びた独特な音色をより柔らかく聴かせる作りとなった。
「(松任谷由実の)《春よ来い》や(レベッカの)《フレンズ》などは自然と歌手の歌い方をおぼえてしまっていて、譜面そのまま演奏すると味気なくなるので、オリジナルの歌い方を意識して弾きました。シンコペーションが多いのでその点は苦労しましたが」ということだが、オリジナルのテイストを損ねないよう意識しつつ、日本人の心情に共鳴しうる叙情性に満ちた音色を紡いでいるところが素敵だ。「今回は音響的にも編成的にもすごく良かったと思います」と語る彼だが、新たな挑戦として行った二胡と琴のアンサンブルも素晴らしい成果を挙げており、「高雅な曲が出来上がった」とその出来にはかなり満足されている様子。
2000年に演奏活動をスタートさせてから今日まで、日中文化の橋渡しに努めてきたグァンさん。これから先も日本や中国の曲、クラシック曲などさまざまな楽曲を採り上げながら、二胡の魅力をもっと広める活動を展開していこうと思う、と語る。最後に彼にとって音楽の魅力とは何かを訊いてみた。
「みんなを感動させながらも自分で感動できるところ。自分自身感動できないと良い音色が出せない。特にライヴのときはそういう気持ちがないと人の気持ちに訴えかける演奏はできません。良い音色を出そうとする筋肉の動きによって特別な何かが分泌されている、そういう感覚もあるんですね。だからもっと感動させないといけない、って思うわけです」