自身の持つポップネスと先鋭性で切り拓く未来――過去の発想を解体し、現代的に再構築した〈メタ・ポップ・アルバム〉とは?

 〈恐るべき子供たち〉と評された4人組、スーパーカーのデビューから17年。日本において、ギター・ロックとエレクトロニック・ミュージックの融合をいち早く実践したバンドの解散後は、ポップな実験を繰り広げてきたiLLを主軸に、フルカワミキやagraphこと牛尾憲輔、田渕ひさ子と結成したLAMA、昨年、傑作アンビエント・アルバム『High Strangeness』を発表(現在は配信のみの取り扱い)したNYANTORAといった複数の名義でリリースを重ねてきた中村弘二。the telephonesをはじめとするプロデュースやCM音楽の制作、自身のレーベル=Sound of Romancesの運営を含め、多岐に渡る音楽活動を通じて絶え間ない進化を遂げてきた彼が、Koji Nakamura名義という新たなソロ・プロジェクトのもと、初作『Masterpeace』を完成させた。

 「例えば、音楽の可能性を切り拓いてくれたボアダムスだったり、ROVOほか、いろんなプロジェクトに取り組む山本精一さんといった上の世代をお手本に、この17年間、自分も音楽性を拡張し続けてきたんですけど、今回のアルバムは、その変遷を総括するというアイデアからスタートしたんですよ」。

Koji Nakamura 『Masterpeace』 キューン(2014)

 ここで断りを入れると、彼の言う〈総括〉とは、時計を巻き戻してノスタルジックな作品を作るということではない。過去に作品化したアイデアを解体し、コンテンポラリーな形で再構築した〈メタ・ポップ・アルバム〉を意味する。それはどういうことなのか――彼はギター・ロックとテクノが融合した『HIGHVISION』期のスーパーカーを彷彿とさせる冒頭の“Blood Music”を例に挙げて説明する。

 「“Blood Music”は表向き、普通のポップスとして楽しめるように作ったんですけど、実はその奥に幾重ものサウンド・テクスチャーが敷いてあって、それが曲展開に関係なくランダムに動くドローン・ミュージックになっている。このアルバムではそういう仕掛けを施したり、アイデアを組み合わせることで深みのあるポップスを作りたかった」。

 そんな本作では、曲のイメージを伝えたうえで、作詞をACOやLEO今井、ふくろうずの内田万里、「エウレカセブン AO」でお馴染みのアニメーション監督・京田知己らに依頼。自身の労力をヴォーカルとサウンド・プロデュースに集中させることで、彼の持つポップセンスと先鋭性が共存しながら、未来を切り拓いてゆくアルバムがここに到着した。

 「例えば、シューゲイザー・テクノと言われるフィールドも執拗なループを耳に焼き付けるアプローチはポップそのものだし、抽象度の高いワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの楽曲に美しいコード進行が含まれていたり、エイサップ・ロッキーがラップするトラックに知性が感じられたり。そういう重層構造のなかにいまのポップ感覚があるように思うし、音楽の可能性を感じますね」。

 ギター・ロックに始まり、ニューウェイヴからテクノ、ディスコ、果てはドローンやノイズまで、彼が散りばめた音のピース。その奥に埋められたものの存在を意識して、今作を繰り返し聴いてみてほしい。その先で、あなたは大切な宝物と出会うことになるはずだ。

 

▼『Masterpeace』に作詞で参加したアーティストの作品

左から、ACOの2013年作『TRAD』(AWDR/LR2)、LEO今井の2013年作『Made From Nothing』(ユニバーサル)、ふくろうずの2013年のミニ・アルバム『テレフォン No.1』(エピック)、JINTANA & EMERALDSの2014年作『Destiny』(Pヴァイン)
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▼文中に登場した関連作品

左から、フィールドの2013年作『Cupid's Head』(Kompakt)、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの2013年作『R Plus Seven』(Warp)
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