ジャズ・ピアニスト、森田真奈美のニュー・アルバム『Naked Conversation』が6月1日にリリースされる。先日まで5年に渡りテレビ朝日〈報道ステーション〉のメイン・テーマ曲だった“I am”(2011年作『I am』収録)で、彼女のダイナミックに歌うピアノを日々耳にしていた人も多いだろう。前作『When Skies Are Grey』(2012年)の時点でも、それまでのイメージと少し違うムードは感じられたが、〈ありのままの会話〉と名付けられた今回の新作は、コンセプトや編成も以前とは大きく異なっており、作曲やアレンジ、ピアノの音色そのものから、さまざまな面で彼女の中に変化が生まれていることがわかる。
出身である米バークリー音楽大学では、ホセ・ジェイムズやニュー・センチュリー・ジャズ・クィンテットで活躍する大林武司や小川慶太らと同窓生で、大学のキャンパスにはブレイク直前に最年少講師を務めていたエスペランサ・スポルディングもいたそう(よくお茶をしていたとのこと)。そんな学生時代の貴重な思い出も飛び出す朗らかな雰囲気のなか、今回は彼女のキャリアを振り返って音楽性の元となったものを探りつつ、『Naked Conversation』で見せる新たなサウンドに迫った。5月28日(土)には初のビッグバンド編成でのライヴも控えており(詳細はこちら)、記事を読んで気になった人はぜひ足を運んでみてほしい。
言いたいことが多い饒舌なピアノ
――大学を中退して、バークリーに留学したんですよね。
「はい。上智大学のジャズ研にいて、当時はジャズをやる人がみんな持ってるようなスタンダード本の楽曲をやったり、みんなで小曽根(真)さんの曲をコピーしたりしていましたね。ちょうど上原ひろみさんがメジャーになった頃で、〈こういう人もいるんだ〉と思うなかでバークリーを意識するようになりました」
――森田さんが大学生の時に上原さんがデビューしたくらい?
「そうですね。確か歳は私の5個上で」
――僕の友人で会社を辞めてバークリーに行った人がいて、NYで(中村)恭士さんのベースに感銘を受けて名前を検索したら、〈バークリー卒〉と書いてあったから受けちゃったそうです。
「私も小曽根さんが通っていたからというのがあったし、似たような感じですよ。あとは当時バークリーに行こうとしていた人が周りにいっぱいいたこともあって。上智では外国語学部だったんですけど、英語学科の外人の先生の息子さんがちょうど(バークリーに)通っていたんです。その先生が私がジャズ研なのを知って〈うちの息子はジャズの学校に行ってるんだ〉と話しかけてきてくれて、〈いい学校だよ〉と聞いてたりしました。その先生が受験の時に推薦文を書いてくれたんですけど、当時私は英語をまったく話せなくて、〈いいよ適当で〉と言いながらお願いして(笑)」
――バークリーでは作曲専攻ですか?
「そうですね、ジャズ・コンポジション科です。本当はフィルム(・スコアリング)もやりたかったんですけど、お金や時間の問題で断念しました※。ジャズコンは楽しかったですけど、最近は専攻する人が少なくて、当時私の学年には10人もいなかったです。プロフェッショナル・ミュージック科という、専攻にかかわらず何の授業でも取ることができる学科や、ミュージック・エンジニアリング科が人気ですね。CMとかメディア系の音を作るほうがいまは人気みたいで」
※バークリーでは専攻を2つまで取ることができる
――先生は誰でしたか?
「バディ・リッチのアレンジャーもやっていたグレッグ・ホプキンスとか。彼とはいまだに仲良いですよ。私はバークリーって(ソング)ライティングの学校だと思っていて、コードや理論、リズムとか、誰々のソロがどう、といった話ばかりで、プライヴェート・レッスンでもピアノの弾き方をあまり教えてくれないんですよね。4千人くらいいる学生の中にはエンジニア志望の人たちもいるので、楽器をまったく弾けない人も結構いるわけですけど」
――確かにそんなイメージはありますね。取っていた授業で印象に残っているものは何ですか?
「ジョアン・ブラッキーン※がやっていた〈ラボ〉という授業があって。希望すれば誰でも取れるんですけど、そこで毎回ジョアンが持ってきたピアニストのアルバムを翌週までに耳コピで譜面に起こして、みんなで弾くぞっていう内容で。それが一番好きでしたね」
※アート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズで歴代唯一の女性メンバーである1938年生まれのジャズ・ピアニスト
――へぇ~。
「もう単位を取らなくていいのに、3学期分受けたくらい好きでした(笑)。例えばブラッド・メルドーの『Day Is Done』(2005年)を持ってきて、そのなかで一番好きな曲を選んでメロディーとソロを譜面に起こす。できればそのコードも取ってきて、その場にドラマーとベーシストもいるので、一緒に演奏するんです。これが半端じゃなくしんどいんですけど、毎週こなしていくことで、もっともインプロの為になったかな。理論がどうとかではなくて、耳コピが一番なんですよ。プロのピアニストを聴いてると本当にそう思いますけど、誰がどうやって弾いているかは最終的には関係ないんじゃないかと思っていて」
――なるほどね。ちなみにブラッド・メルドーはどのあたりの作品が好きですか?
「一番好きなのは『Largo』(2002年)ですけど、トリオ作も好きですよ」
――『Largo』のどこが好きなんですか?
「最初の〈タラララ~♪〉ってところでブワー!って泣きたくなるんです。大好き(笑)! 〈ラボ〉ではほかにキース・ジャレットやオスカー・ピーターソンとかもやりましたよ。ピーターソンは難しすぎて全然弾けなかったですね(笑)」
――メルドーも難しいし、ピーターソンもまた違う種類の難しさですよね。
「メルドーの難しさは独特なリズム配置だと思います。拍子を意識しないで音を空間的に捉えていて、そこがすごく新しいんです。ピーターソンはテクニック的に一番難しいですね。もう速すぎて何を弾いているかわからなくて、〈全然取れないよ~〉と(笑)」
――メルドーは『Largo』あたりから平気で拍子を跨ぐようになっていって。
「そう! そういうソロが増えていきましたよね」
――グッと自由度が増していきましたよね。
「確かにそうですね、それまでは確実に譜面に起こせるリズムだったというか。ブラッド・メルドーの曲をやっていてで何が一番困ったかというと、すごく譜面にしづらいんですよね。拍子も跨ぐしもう付点でもない……みたいな。最終的には、結局譜面なんて何でもいいんだなと思いましたね」
――『Largo』以前はわりとモダン・ジャズの形式にはまってましたよね。作曲の授業ではアレンジとかおもしろいものはありましたか。
「何でもおもしろかったんですけど、結構好きだったのはクラシック系の時。バッハの平均律とかも一応やるんですよ。でも一番楽しかったのはビッグバンドの授業かな。卒業制作ではジャズのスルー・コンポジションで10分間繰り返しなしのラージ・アンサンブルを10数人でやりました」
――当時はどんな曲を書いていたんですか。
「一応コンテンポラリー・ジャズで、どんな感じだろう……いつもすごく抽象的で、卒制の曲なんかは〈山登りの曲〉でしたね(笑)。これは今度のビッグバンド編成のライヴでもやりますよ」
――リズムがクロスしてたり、ちょっと変わったリズムで?
「うんうん。ストラヴィンスキーみたいな感じで、ジャズなんだけど結構クラシック寄りのものかもしれない。拍子がポビットじゃなく3拍子になったりとか。クラシックはそういった帳尻合わせが結構多いじゃないですか。書き方としてはそういう感じに近いかもしれないです」
――森田さんはピアノ・トリオの曲でもそんなところがありますよね。
「そうですね。拍子を混ぜたり、そうしようと思ってるんじゃなくて自然とそうなるんですけど」
――結構細かく割ったり、5連符でとか変なリズムですよね。でもすごくキャッチーだなと思います。
「なぜかキャッチーではありますね」
――ベースがエレキ・ベースというのも特徴的ですよね。
「どちらも好きなんですけど、ずっと一緒にやっているザック(・クロクサル)がエレベで、一緒にリフができたり速いフレーズを弾けるから、そうなってしまうところはありますね。でも最近の曲はウッド・ベースでも対応できる曲になってると思います」
――前作くらいから曲の雰囲気が変わってきましたよね。でもピアノ・トリオでエレベというのは意外と多くなくて、ミシェル・カミロとか晩年のペトルチアーニくらいで。
「あ、晩年のペトルチアーニは大好き! 最近YouTubeでめっちゃ観てました。ザックとも、〈ペトルチアーニは難しいことやらないのに普通にスケール弾くだけですごくいいよね!〉って話していて」
――そうですよね。
「(大声で)そうなの! それだけで本当にカッコイイんですよね。なんでだろう」
――アンソニー・ジャクソンともすごく合ってますよね。
「そうですね。ただ、スティーヴ・ガッドやペトルチアーニと一緒にやっているのを観ていて、アンソニー・ジャクソンのソロにお客さんが(もういいよと)拍手しちゃうことが結構あるんですけど、弾きまくってしまうというかメロディー楽器のようになってしまうエレベって、個人的にはちょっと苦手なんですよね。人それぞれのやり方なので良いんですけど、私はベーシストしかできないことがあると思うし、やっぱりベースはベースらしくやってほしいなと」
――森田さんのピアノは饒舌なので、ベースがさらにやってしまうとトゥーマッチになるかもしれないですね。
「私は言いたいことが多いから、わかってくれないとな(笑)」
シンプルなジャズ・アルバム
――ベースもドラムもすべて細かく書いてますか?
「全然。わりと丸投げです。〈こんな感じのグルーヴで〉と一応イメージを伝えて、フレーズを口ずさんで〈こういう感じにして!〉って言った後はもう好きにやってもらっています」
――初期の頃はわりとリズムがかっちりしてませんでしたか? 同じ拍子でずっとグルーヴしていて、ピアノは難しいことをしているような。変な拍子だったり転調したりするんですけど。
「そう! その通りですね」
――今回は全然違いますよね。
「今回はほとんど丸投げで譜面も全然書いていないし、コードとメロディーだけ、みたいな。まさにジャズのリード・シート※のような感じで、みんなに投げて〈こういう雰囲気で〉という感じ。でもそれが楽しいんです」
※メロディーや和音、歌詞という基本的な部分のみを取り出して書いた記譜法の一種。ジャズでよく使われる
――昔はガッツリと書いてたんですか。
「譜面は書かないですけど、リハはしっかりとやっていましたね。〈ここの決めはフォルテにして!〉とか細かく指示も出していましたけど、最近はそうするとトリオの意味がないというか自分の解釈にしかならないと思うようになって。他人に曲を一緒に解釈してもらうのがすごく大事なんじゃないかなと」
――前はやりたい音が明確にあったと。
「自分のなかで作り上げてから〈こうしてください〉とお願いしていましたね。バンド・メンバーではザックと一番長いんですけど、今回のドラマーも向こうでずっと一緒にやっていた人で、私の音楽性をわかってくれていると思うので、言わなくてもいいやって」
――こうハマればいいというものが3人の間で共有されているということですね。
「長く一緒にやるのはそういった意味ではいいですよね。それこそキース・ジャレットなんて30年くらいあのトリオでやってますけど、たぶん彼らは〈入り〉とか何も決めてないと思うんです」
――上原ひろみのトリオなんかも、作品を重ねるごとにだんだんハマってきているんですよね。
「それはメンバーが曲に慣れてきたのもあると思うし、上原さん自身もちょっとフリーダムを与えるようになっていって」
――メンバーに合った曲を書けるようになったりとか。ジャズは続けていってできるようになることが増えていく音楽ではありますよね。それでは自由度が上がってからは初めてのアルバムになりますか?
「そうですね」
――前はいろいろな楽器やアレンジでやっているイメージでしたもんね。
「前作『When Skies Are Grey』は自分の中では比較的コンセプチュアルなアルバムで、物語的なイメージで気持ちの流れのあるアルバムだったんですけど、今回はシンプルなジャズ・アルバムですね。凝ってるような曲といえば“Left Alone Tonigt”と“Letter From”くらいで」
――“Caravan”はずいぶんと変わったアレンジになってますよね(笑)。森田さんはいつもカヴァー曲を大胆にアレンジされるじゃないですか。以前やられてたノラ・ジョーンズの“Don't Know Why”(2011年作『I am』収録)も。
「ガッツリといってましたね(笑)」
――もうガラッと変えていこうと思ってアレンジしてるんですよね? 原曲はあくまで素材だと。
「そうですね。“Caravan”はずいぶん前に書いたもので、拍子も普通の3拍子なのでやっていることはそんなに難しくないんだけど、複雑に聴こえるみたいです。そういうものが結構好きなのかもしれない。下に流れてるリズムは同じだけど半拍ずれている、というのを繰り返していて、それがすごくやりたかったんです。この曲のアレンジはドラムの人たちがすごく喜んでくれますね」
――“I Will Be Here”はこれまでの森田さんとは違うリズムのような気がします。
「これはリズムがすごくステディーにあって、その上でソロをフリーにやっている曲なんです。演奏していて楽しすぎて、ライヴではいつもお客さんとの距離が離れてしまうような気がしています(笑)」
――リズムも自分で書いてるんですか?
「基本的にはそうです。メンバーと一緒に考えているのは構成くらいですね。自分のなかでイメージはあるけど決まりきっていない時は、〈ここどうしよう?〉と相談して」
――なるほど。“I Will Be Here”でのバック・ビートっぽいイメージはこれまであまり見受けなかったので。
「確かになかったですね」
――これまでは前に行く感じのリズムが多い印象だったので、すごく新鮮でした。今回一番こだわって作った曲はどれですか?
「アルバムに向けて曲を作らないんです。なので、どれもこれまであった曲の中から選んでいきました」
――あえて書いた感じではないんですね。
「すでにあるものからどれがアルバムに合うかなと並べていって。一番最後のソロで弾いてる曲(“To Be Continued”)だけ、アルバムを作っている時期に書いた曲だったので、これは絶対入れようと思いましたが。“Left Alone Tonigt”はすごく昔に作った曲なんですけど、コード進行を複雑にしすぎて当時はソロが自分で取れなくて、いまになってやっとできるようになったから入れました(笑)。いままでライヴでも恐くてできなかったんですよ。一度(大林)武司(ピアノ)にも弾いてみてもらったことがありますけど、〈これ難しいな~〉って言いながら彼は上手なので全然余裕で弾けていて。本人はもう覚えてないと思うけど、こっちは一生忘れない(笑)」
――ハハハ(笑)。ちなみに、NYで活動していた頃はどんな場所でライヴをやっていましたか?
「一番好きだったのはRockwood Music Hallですね。みんなで〈Rockwood Empire〉って呼んでるんですけど、よく観にも行ってましたよ。日本にもああいう場所があるといいなと思います」
――僕も行きましたけど、すごくいい場所ですよね。
「1時間刻みでずっとショウをやっていて、ブラッド・メルドーやBIGYUKIさん、グレッチェン(・パーラト)、マーク・ジュリアナとかそういう有名な人だけじゃなく無名な人でも出られるところがいいんですよね。メジャーな人が出る時だけはチャージがあったりするけど、それでも10ドル程度です。そういった気軽な空気がないと、ミュージシャンもリスナーも新しい音楽をエクスペリメントできないですよね」
――僕はジェシ・フィッシャーに連れて行ってもらったんですけど、スケジュールを見ないでいきなり行ったら、ネルス・クラインとクリス・モリッシーがフリー・インプロをやっていました。隣のステージに行ったらスナーキー・パピーのギタリストのボブ・ランゼッティがフォーキーなジャズをやっていたけど、ほとんど投げ銭でしたね。
「そうなんですよね。ミュージシャンもあそこで稼ごうなんて全然思ってないんですよ。もちろん商業的な目的を成功させるライヴも大事ですけど、ミュージシャンが自分の音楽を追求していて、お客さんがいる時もいない時も、発表できる場所があることってすごく大事だと思うんです。演奏が良ければ聴いてもらえるけど、ダメならお客さんは帰っちゃいますからね(笑)。私も自分の歌もののバンドなどで、金曜の深夜12時とかすごく遅い時間に出たりもしていましたよ」
――ジャズの次に思いっきりカントリーっぽいバンドが登場したりしますよね。
「ジャンルレスでなんでもやってるので楽しいんですよね。いつもジャズにこだわって音楽を聴いているわけではないので、本当によく行ってましたね。行けば絶対何かやっているし。まぁジャズ箱に行くのであればウェスト・ヴィレッジのほうへ行かないとメジャーどころはあまりないですね」
――共通点は〈ライヴ・ミュージック〉ってだけで。
「歌の上手な黒人のお姉さんが一人でギターを携えてやってたりとかね。私パリス・モンスターがすごく好きでよく観に行ってました」
――パリス・モンスターはMikikiで掲載したニーボディとYasei Collectiveのインタヴューの時にも話題に上がっていました。僕ちょうどこの間NYで(メンバーの)ジョシュ・ディオンのライヴを観てきましたよ。
「本当ですか! ベーシストとドラマーの2人でやっているバンドで、ドラマーのジョシュがドラムを叩きながらキーボードを弾いて歌っていて。ヤバイですよね! あとはアラン・ハンプトンも『Origami For The Fire』(2015年)が大好きで、よく観に行ってましたね」
綺麗すぎないものに惹かれる
――森田さんは曲自体も印象的だけど、ピアノの音色にすごくキャラクターがあるような気がしていて。いつもどういった音を鳴らそうと思って弾いてますか?
「音色って大事ですよね。でも〈こういう音色にしたい〉というのは特にないんです。楽器は歌と違った難しさがあると思っていて。もちろん苦労はたくさんあると思うんですけど、歌の人はラッキーだと思うんです。その声を出せるのは初めから自分一人しかいないということは大きなアドヴァンテージじゃないですか。楽器を演奏するうえで、自分と(楽器を)一体化させることがまずすごく難しい」
――押せば音が鳴るけど、誰が押したかで全然違う音が出る。
「有名なピアニストはちょっと聴いただけで誰だかわかりますもんね」
――オスカー・ピーターソンとか。
「そう! 普段どれだけピアノに触ってるかもやっぱり大事だし、曖昧な言い方ですけど気持ちの乗せ方とかも」
――ロバート・グラスパーって気持ち悪い感じでピアノを弾くじゃないですか。ガーンッて弾かない変な気持ち悪さがあって。ピーターソンはすべてがすごく綺麗で、でもクラシックではないんですよね。(マルタ・)アルゲリッチなんかは、普通にクラシックの綺麗な音なんだけど、ピーターソンが弾く音はジャズっぽい綺麗なもので……とそれぞれあって。森田さんは、自分の音はどういう感じだと思います?
「えっ! 難しい質問ですね(笑)。わからないです……自分の音がどういう音って言えますかね!?」
――澄んだ綺麗な音やナチュラルな音とは違うような気がします。
「やっぱり性格は出ますよね」
――キース・ジャレットとか、神経質そうな人が弾くとそう聴こえますよね。ペトルチアーニは馬鹿っぽいし。
「だから(ペトルチアー二は)メジャーのスケールを弾いてもカッコイイのかな。私はいつも、いかに自分に嘘をつかないで演奏するかを大事にしていますね。少しでも自分じゃない何かになろうとした瞬間にダメかなと思っていて。でも私のピアノはどちらかと言えば人見知りで神経質だと思いますよ。このアルバムはすごく顕著かもしれないです。ファースト(2009年作『Colors』)では明るさが前面に出ていますけど、今作では結局基本的には人見知りだったことがわかった。あまり信じてもらえないんですけどね」
――序奏のあたりのタッチが以前と違いますよね。
「そうですね。すごく素が出てしまっているんだと思います。『Colors』ではたぶんすごくがんばってしまっていて、そのイメージで〈この子は明るい子だよね〉と思われている」
――初期の頃って、どの曲もタッチが似ている気がしますけど、今回は曲ごとにずいぶん違いますよね。曲の中でも変わったりもするし。
「そうですね。こっちのほうが素に近いんです。昔が元気だったのは単純に若かったのもあるけど」
――ハハハ(笑)。でもその頃の音色もやっぱり出てますよ。森田さんのピアノは、ちょっとノイズが混じるイメージがありますよね。だからああいったテンションになるのかなっていう気はするんです。神経質に綺麗に弾こうとするのとはまた別な。
「綺麗に弾こうとは全然思わないです。弾けないですし。バッチリ弾こうと思っているところもあるんですど、どうしてもワ~!っと雑多な感じが出ちゃうんですよね(笑)」
――〈元気が出るピアノ〉ってコピーが出ているじゃないですか。
「あれはビックリしました」
――作曲面もあるけど、ピアノのタッチもすごく関係しているのかなと思っていて。綺麗に弾きすぎない部分がエモーショナルになっているような。
「録音技術が発達して、リスナーもクォリティーの高さを求めてしまいますよね。シンガーはみんなピッチ・コントロールして、全然ミスがなくて、コンプ(レッサー)をガンガンかけて……みたいな完璧なものばかりだけど、それが本当に良いものかどうかの判断は難しいですよね。ビートルズだって初期は歌もギターもひどいじゃないですか。でも、それを補ってあり余るパワーみたいなものが漲っていて、それが個性になっているというか。そういったものの良さがもっと見直されてもいいと思うんですよ」
――ヨレているからこその魅力ってのもありますよね。晩年のバド・パウエルみたいな。
「そうそう(笑)。ああいうやりきった感じは良いですよね」
――特にジャズは〈大丈夫なのかな〉という危さの良さがありますよね。
「そういった汚い感じは全然アリだと思うんですけどね」
――はい。森田さんの出す音ってすごく人間臭いと思っていて。ちょっと振り乱してるような要素が混ざっていないと、そんな音色は出ないと思うんです。タイトルにも表れていますけど、新作はその雑味がさらに出ている気がしますね。
「そこはめざしてるところではありますね」
〈Manami Morita Big Band〉
日時:5月28日(土)
開場/開演:17:00/18:00
場所:埼玉・彩の国さいたま芸術劇場小ホール
第1部:Manami Morita Trio
第2部:Manami Morita Big Band ゲスト:ヴァイオレット
チケット:大人/4,500円、中学生以下/3,000円
※中学生以下は入場時に学生証等の身分証の提示が必要