©Mari Amita

初の弦楽四重奏との共演作が完成!

 昨年の年末から今年の年始にかけて、上原ひろみは、弦楽器四重奏とブルーノート東京のステージに立った。ライブで新曲の演奏を重ねた後で、レコーディングするのはいつもの手順だが、弦楽四重奏とアルバムを作るとは意外な展開だった。新作『シルヴァー・ライニング・スイート』は、4曲からなる組曲と新曲、さらに再録音の曲で編成されている。

上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット 『Silver Lining Suite』 ユニバーサル(2021)

 「ブルーノート東京でのライブの企画を考えるなか、もともと弦楽器が好きで、弦楽四重奏と組むイメージが浮かんできたので、すぐにヴァイオリンの西江辰郎さんに連絡しました。年末年始、何やっているの?って(笑)」

 そこから〈チェロにはジャズのベースと同じくらいピチカートを弾いてもらう〉などといった要件をもとに西江さんと共にメンバーを選び、そして、曲を書いていった。作曲のベースにあるのはコロナ禍の先の見えない不安だ。組曲4パートの英語タイトルも日本語にすると、隔離、未知なるもの、漂流者、不屈となる。

 「ツアーがキャンセルになり、出来ないことだらけの日々の中で感情の浮き沈みがあり、この先どうなるんだろうという、ザワザワした気持ちを曲にしました。そのなかで組曲が完成して、あらためて自分が求めているのはなにかと考えた時に〈希望〉だと思い、『シルヴァー・ライニング・スイート』というタイトルをつけました」

 レコーディングでは「ジャズとクラシックは音楽言語が違うので、そこは適当でいい、といういつものノリが彼らにはなく、そういうクラシックの緻密さが勉強になりましたし、全体としてお互いのフィールドの良さを生かし合うことが出来たと思います」と言う。

 そして、完成した新作を聴いてこう思ったと言う。

 「負けてたまるかという負けず嫌いの思い、ウイルスに対して、そちらは猛威を振るっているつもりかもしれないけれど、こっちも負けずにやるよという気持ちがあったので、〈私、これ出来ましたけれど!!〉って、ウイルスにひとことモノ申すという思いがありました(笑)」

 レコーディング以外にSNSを使って、1分間の新曲を海外のミュージシャンとリモートで共演する〈One Minute Portrait〉を昨年夏に行うなど、今出来ることを考えて意欲的に取り組んだ。声を掛けられたミュージシャンは、誰もが前のめりになって企画に耳を傾け、嬉々として共演したという。

 そのスピリットは、オリンピック開会式のエネルギッシュな演奏でも貫かれていた。上原ひろみの思いは、きっと全世界に届いただろう。そして、多くの人がこの新作を待ち望んでいたと思う。

 


LIVE INFORMATION

上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット JAPAN TOUR 2021 “SILVER LINING SUITE”
2021年11月11日(木)長野・松本 まつもと市民芸術館
2021年11月12日(金)愛知・名古屋 愛知県芸術劇場 コンサートホール
2021年11月14日(日)ザ・シンフォニーホール
2021年11月23日(火・祝)広島国際会議場 フェニックスホール
2021年12月4日(土)北海道・札幌 カナモトホール(札幌市民ホール)
2021年12月7日(火)大阪 ザ・シンフォニーホール
2021年12月8日(水)福岡・博多 福岡国際会議場 メインホール
2021年12月9日(木)東京・渋谷 Bunkamura オーチャードホール
2021年12月12日(日)静岡 アクトシティ浜松 大ホール
2021年12月24日(金)宮城 日立システムズホール仙台 コンサートホール
2021年12月27日(月)東京・渋谷 Bunkamura オーチャードホール
2021年12月28日(火)東京・渋谷 Bunkamura オーチャードホールhttps://www.hiromiuehara.com/