原田知世
少女時代の恋の歌に成長の軌跡を浮かべて――演じるように歌った2冊目の恋愛小説
女優とシンガー、ふたつの顔を持つ原田知世が、洋楽のラヴソングを集めたカヴァー・アルバム『恋愛小説』を発表したのは去年のこと。本人いわく「演じるように歌った」曲の数々は、まるで彼女がさまざまなラヴストーリーのヒロインを演じているようでもあった。そして、このたび届けられたその続編『恋愛小説2~若葉のころ』は、邦楽のラヴソングを集めたもの。今回は〈自身が少女時代に聴いた歌〉というコンセプトがあって、彼女のルーツに触れることができるのも魅力のひとつだ。
プロデュースは前作に続いて伊藤ゴロー。前作のアコースティックなサウンドを引き継ぎながら、新たにストリングス・クァルテットが加わったことで音に広がりと華やかさが増した。伊藤のアレンジも光っていて、繊細なサウンドに芯の太いグルーヴを走らせることで、曲にしなやかな躍動感を息づかせている。なかでも、ずっしりしたドラムでリズムを強調した“秘密の花園”(松田聖子)やロックな “年下の男の子”(キャンディーズ)は遊び心もたっぷり。 特に“September”(竹内まりや)の編曲はカラフルで、曲の途中でアレンジをガラリと変えて鮮やかな場面転換で楽しませてくれる。
そして、そんな演出に刺激を受けながら、原田の歌声は曲ごとにさまざまな表情を見せてくれる。といっても、自分の個性をアピールするのではなく、ちょっとしたニュアンスや間合いで感情の揺れ動きを伝える自然体の演技。歌詞が男女の掛け合いで構成されている“木綿のハンカチーフ”(太田裕美)は歌う女優にぴったりの題材だし、これまでカヴァーすることが多かった大貫妙子の“夏に恋する女たち”はまさにハマリ役。子供の頃から大好きで、ライヴで何度もカヴァーしてきた久保田早紀“異邦人”や原田真二“キャンディ”には、素の彼女の表情が透けて見えたりもする。そんななか、過去の恋に想いを馳せるノスタルジックなバラード“SWEET MEMORIES”(松田聖子)は彼女のオリジナルにはないタイプの曲だが、キャリアを重ねてきたいまの原田だからこそ歌えた本作のハイライトともいえる〈名演〉だ。
アルバムの前半はガーリーでポップな曲が並び、後半はしっとりと大人びたナンバーが並んでいて、ひとりの少女の成長を描き出すようなドラマティックな構成も見事な本作。となると、もし〈恋愛小説3〉が出るなら〈彼女のキャリアを振り返るセルフ・カヴァーで!〉と期待したいところだが、しばらくは本作を何度も読み(聴き)返しながら、彼女が囁く愛の言葉に耳を傾けたい。