大阪の北側から、新しい世代のメッセージを乗せたピアノの音が、高らかに鳴り響く。2012年度の〈閃光ライオット〉のファイナリストだったSHE'S、メジャー・デビュー。美少女がジャケットを飾ったインディー3部作で、ピアノ・ロックの若き旗手となった彼らが、いま、次の時代の扉を激しくノックする。

 「何かが新しく生まれはじめてる気がする。というか、もともとあるものがまた返ってきてる感じですね。(ここ数年で)4つ打ちのダンス・ロックが盛り上がって、80年代や90年代のブラック・ミュージック、シティー・ポップに影響を受けた人たちがたくさん出てきて。そこから僕らと同世代の、歌をしっかりと伝えるバンドが増えてきてる。〈ひとつの流れを作れるんじゃないかな?〉と思ってます」(井上竜馬、以下同)。

SHE'S Morning Glow ユニバーサル(2016)

 メジャー・デビュー・シングルのタイトルは“Morning Glow”。地平線から放たれる朝日の閃光のような、強烈なスネアの連打。宙を舞う生ストリングスの迫力。胸のすくメロディックなギター、そして美しいピアノの音色。バンドのルーツである90年代のポップ・パンクやエモと、井上の原点であるクラシック・ピアノの素養が、爽快なスピード感で混ざり合う。イントロ25秒でがっちりと心を掴む、ピアノ・ロックのド真ん中を行く鮮烈な一曲だ。

 「メジャー・デビューが決まってから書いた曲です。ダイナミックなリズム、洋楽っぽいメロディー、ストリングスを入れたスケールの大きさとか、自分たちが思う自分たちの魅力を、よりブラッシュアップしました。新しく聴く人にはわかりやすく、ずっと応援してくれている人にも、〈メジャー・デビューしても変わらないよ〉と伝えることができると思います」。

 〈Morning Glow〉とは、〈朝焼け〉のこと。茜さす日の光景を、美しいと捉えるか、うとましく思うか。実体験をもとに、前進も後退も停滞すらも〈すべてに意味はあった〉と真っ直ぐに歌い上げる声の凛々しさ。その歌は極めてパーソナルだからこそ、多くの人の心を捉える強力な普遍性を宿す。

 「健康的に朝早く起きて、朝焼けを見たら、すごく気持ち良いと思うんですけど。バイトの夜勤明けとか、不眠症で眠れないとか、そういう時に見る朝焼けは全然希望じゃなかった。でも、いくら嫌いでも、朝焼けはやってくるんですよね。それを希望に思うか、絶望に思うかは、自分から変えていくものだということを、ちゃんと証明したくて書いた曲です。そのなかであがいてきた結果として、目標だったメジャー・デビューという〈朝焼け〉に辿り着けたんだと思います」。

 シングルには、〈朝や昼に聴きたくなる明るい曲を〉というテーマで3曲をコンパイル。かつ裏テーマとして、〈過去/現在/未来〉の順番に曲を並べたという。

 「“Morning Glow”は過去を振り返って、いま立っている場所を確認している感覚。“日曜日の観覧車”は〈いま〉で、“Time To Dive”は未来の選択に関しての歌です。年を重ねていくごとに、選ぶことが怖くなっていく自分がいるんですよ。でも音楽を始めたのも、なんとなくいいなと思ったところから始まったから、その衝動は絶対大事にしなきゃいけない。そうやって選んでいけば、未来はどうにでもなるようにできているんじゃないかと思うんですよね」。

 まずはフェスで活躍するトップ・バンドの仲間入りが目標。だが、それよりも〈自分たちの世代で新しいものを生み出すこと〉のほうが大事だと、力強い言葉を吐く。その意気や良し。2016年、追いかけたいバンドがまたひとつ増えた。とても嬉しい。

 「結局ずっと生き残ってるのは、歌を大事にしてるバンドだと思うんです。そのなかで、メロディーはめちゃ洋楽っぽいとか、異質な新しさを出し続けられたら。それが自分の好きなことだし、めざすのはそこですね」。

 


SHE'S
井上竜馬(キーボード/ヴォーカル)、広瀬臣吾(ベース)、服部栞汰(ギター)、木村雅人(ドラムス)から成る、メンバー全員92年生まれの4人組。2011年に大阪で結成。地元を中心に活動を行うなか、2012年に〈閃光ライオット〉のファイナリストに選出されて注目を集め、2014年1月には自主制作した楽曲“Voice”がTV番組「音エモン」のテーマ曲に起用される。同年7月に初の全国流通盤となる『WHO IS SHE?』を発表。そこから2015年4月の『WHERE IS SHE?』、2016年2月の『She'll be fine』とミニ・アルバム3部作を立て続けにリリース後、メジャー契約を発表。このたびメジャー・デビュー・シングル“Morning Glow”(ユニバーサル)をリリース。