Don't Kill The Magic――その願い通り魔法は消えなかった! 鮮やかなレゲエ・フュージョンで、また夏が踊りはじめる! こんな音を前にしたらYesと答えるしかないじゃないか!

 

シンプルにいきたい

 あ~、蒸し暑い。本稿を書いている今日は全国51の地点で気温35℃以上をマーク。これから8~9月にかけ、ラニーニャ現象の影響で日本中が記録的な猛暑となる見込みらしいです。そんなうだるような季節を楽しく乗り切るために、マジック!のニュー・アルバム『Primary Colours』はいかがでしょうか? 2012年にカナダはトロントで結成され、現在はLAに拠点を置くこのポップ・バンドは、メッセンジャーズの片割れとしても知られるナスリ・アトウェ(ヴォーカル)を中心とした4人組。2013年のデビュー・シングル“Rude”がジワジワと全米チャートを上昇し、翌年には6週連続1位という大記録を達成。それと前後して“This Is Our Time(Agora E A Nossa Hora)”がサッカーW杯のオフィシャル・ソングに選ばれ、シャキーラデヴィッド・ゲッタの作品にも顔を出しています。そうしたバズが冷めないうちに、彼らはファースト・アルバム『Don't Kill The Magic』をドロップ。あっという間にスターダムを駆け上がりました。

 「ラッキーなことにファースト・アルバムが大ヒットして、ツアーで世界中を旅して回って、次のアルバム用にふたたび楽曲制作へ立ち返った時、シンプルにいきたいと思ったんだ。だからタイトルに〈Primary(基本の、最初のという意味)〉という言葉を使ったんだよ。初心を忘れないって意味でね」(ナスリ)。

MAGIC! Primary Colours Sony Canada/ソニー(2016)

 別掲のコラムで少し触れている通り、全員が30代半ばの彼らは、ナスリのみならず、それぞれ裏方として多くの経験を積んできたプロフェッショナルな集団。そもそもグループを組んだきっかけは、誰かが歌うための音楽ではなく、自分たちの曲を作りたいと思ったからだとか。このたび登場した2作目でも成功に浮かれることなく、しっかりと地に足が着いている様子は流石です。

 そんな4人の性格は見事にバラバラなようで、〈原色〉なる新作のタイトルにちなんで、自分たちのカラーを以下のように説明しています。

 「マヤ歴によると色が人の性格やタイプを表すんだけど、メンバーも認める通り、僕は努力の人。だから努力と癒しを象徴する〈白〉が当てはまると思うんだ」(マーク・ペリッザー、ギター)。

 「僕は〈赤〉だね。なぜなら僕はとても情熱的で、アクティヴで、スポーツや芸術を愛しているから」(アレックス・タナス、ドラムス)。

 「僕は冷静沈着を表す〈青〉かな。自分は全力で仕事に向き合う、とても穏やかな心を持っていると思うから」(ナスリ)。

 「マヤ歴に基づいて色を選ぶとしたら、僕は頭脳派を意味する〈黄色〉だね。自分は成熟していて、スマートで、時には物事を違った角度で見るし、あとは黄色の服が自分に凄く似合うと思うんだよ」(ベン・スピヴァク、ベース)。

 

旅の車中で流してほしいね

 このように4つの異なる色が一体となって生まれた『Primary Colours』は、グループの基本に立ち返り、前作が好みだったリスナーの期待にも120%応える一枚となりました。オープニングは、トリニダード・トバゴへの渡航がインスピレーション源になったと思しき、ソカのリズムを敷いた“Have It All”。続く“Lay You Down Easy”にはショーン・ポールが駆け付け、“Rude”と直結するようなジャワイアン・テイストの一曲に。

 「“Lay You Down Easy”は本当に楽しくてセクシーな曲だよ。全然難しい感じじゃなく、僕たちのゆるいノリをよく表しているね。ライヴで演るのが凄く楽しい曲だから、早く日本のみんなにも披露したいよ」(ナスリ)。

 ほかにも、ボブ・マーリー“Could You Be Loved”風のベースラインが格好良いルーツ・ロッキンな“Dance Monkey”など、全編を通じてアイランド・ムードがたっぷり。ちなみに、多くのエリアではまだ目立ったシングル・ヒットが“Rude”の1曲のみに留まっている彼らですが、ジャマイカでは『Don't Kill The Magic』からの4曲がエアプレイ・チャートの上位に入り、“Rude”に至ってはその年の人気チューンを詰めたご長寿コンピ・シリーズ〈Reggae Gold〉でド頭に使われていました(これって本当に凄いことなんです!)。きっとこうした実績も自信に繋がり、前作以上にアルバムの構成がレゲエ寄りになったんじゃないかと思います。

 もっとも、コアなレゲエ・ファンへ向けたボトムの重たい音になっているわけではなく、全体の感触は非常に軽やか。イイ塩梅に線の細い歌声も手伝って、アバの“Tropical Loveland”だったり、ポリスの“Roxanne”のような聴き心地です。そこにブルーノ・マーズ“Locked Out Of Heaven”を思い出さずにはいられない“No Sleep”や、コールドプレイ顔負けの叙情派ピアノ・バラード“I Need You”などを挿むことで、よりいっそうキャッチーさが増し、間口もグンと広がっていくことに。そう、マジック!の魅力はベタなくらいのポップさであり、そのことをまったく厭わない点にあるんじゃないでしょうか。

 「『Primary Colours』はぜひ旅の車中で流してほしいね。ドライヴしながら聴けば、いろんな感情が沸き起こり、時間も忘れて楽しいひと時になると思うよ」(ベン)。

 同感です! 燦々と輝く太陽の下では、淡い色彩の実験サウンドよりも、パキッと鮮やかな原色ポップのほうがずっとお似合いですしね。