売れっ子ソングライターがついにワールドワイド・デビュー……そして大ブレイク中! 南の島からやってきた男たちが苦闘の果てに掴んだアメリカン・ドリームとは?

 ジャケットでマイクをかざしてポーズを取る可愛いキッズが、ここまで大きく成長しました!というだけの話ではない。

 貧しい生活のなかでこの2人の父は服役(locked away)し、母は2人を育てながら夫を待ち続けた――そんな実体験を下地にした純愛ラヴソング“Locked Away”によって、アーティストとしても待望の大ヒットを掴んだのがこの兄弟コンビ、R・シティなのである。そんなジャケットを纏ったアルバムの表題が『What Dreams Are Made Of』……出来すぎなストーリーではあるが、たまにはいいじゃないか。

 「小さい頃から何でも一緒にやってきたよ。学校に行きはじめたのも卒業も一緒。10か月しか離れてないからほとんど双子みたいなものだった。血の繋がった兄弟でいることの一番の強みは〈愛〉のファクターだね。俺が諦めかけてしまうたびに弟が傍にいてくれたし、アイツがくじけそうになったときは俺がいた。互いのために互いがいるっていうことが、辛い時や大変な時もお互いを支えてくれる。兄弟だから口論や喧嘩になったりもするけど、それがシリアスになりすぎたらどちらかが母親に電話するんだ。〈母さん、いまこんな感じでモメてるんだけど……〉みたいなね(笑)。うちは家族の絆がとても強いから、いまこうして揺るぎない強い心を持つことができていると思うんだ」(ティロン・トーマス:以下同)。

R.CITY What Dreams Are Made Of Kemosabe/RCA(2015)

 兄のティロンはこう語るが、弟のティモシーに訊ねても同じ答えが返ってくるのだろう。そんな兄弟の故郷は、米国領ヴァージン諸島のセントトーマス島。貧しいながらも幼少期からいろんな音楽を吸収して育ってきた彼らは、歌とラップを持ち味としたロック・シティとして活動をスタート。グループが憧れていたのはヒップホップとレゲエをソウルフルに融合させてブレイクしていたフージーズだったそう。ライヴや作品のリリースも行って、学生時代からヴァージン諸島では人気のグループだったそうだ。が、高校卒業後に大志を抱いて渡ったアメリカでは、マイアミやアトランタを渡り歩いて機会を求めるも上手くいかず。そんな状況に活路を拓いたのが「俺たちにとって指導者であり、ビッグ・ブラザーなんだ」というエイコンだ(奇しくもフージーズ人脈だったりする)。兄弟の書いた“The Rain”が『Konvicted』(2006年)に採用されたのきっかけに、ロック・シティはみるみるソングライター・チームとして頭角を表していくことになったのである。この時期の代表曲といえば、ショーン・キングストン“Take You There”(2007年)やプッシーキャット・ドールズ“When I Grow Up”(2008年)といった特大シングルが挙げられる。前後して兄弟はエイコンがゲフィン傘下に設立したコンライヴとアーティスト契約、『Wake The Neighbors』なるアルバムも制作されたが、これはお蔵入りに終わった。しかしながら、ソングライターとしての絶えない需要が、彼らの夢を諦めさせなかったのだ。

 「思い出深い曲という意味で浮かぶのは、アイヤズの“Replay”(2009年)だね。実はあの曲はゲフィンに良さを信じてもらえなくて、それなら取っておこうと思っていたんだ。いまにしてみれば、自分たちにとってのターニング・ポイントだった。当時の状況から脱却して、前に進もうと決心できた曲だったね」。

 そうして裏方として活動しながら地道に自身の楽曲も制作。間には日本編集のアルバムをリリースしたり、プラネットVIと名乗っていた時期もある。そんななか、兄弟の才に飛びついたのはDrルークだった。彼の導きでルーク主宰のキモサベと契約した兄弟が完成させた作品こそ、今回の『What Dreams Are Made Of』というわけだ。

 先述の“Locked Away”はアダム・レヴィーンマルーン5)を迎えた強力なリード・シングルとして世界を席巻。アルバムの中身もレゲエやヒップホップの素養をポップに表現したキャッチーな楽曲揃いだが、職人的な作風とは異なり、自分たちのルーツにあるものやメッセージを色濃く出している。そして、その思いが作品をよりエモーショナルにしているのだ。とりわけレニー・クラヴィッツの“It Ain't Over Till It's Over”を下敷きにした“Over”は胸に迫る。

 「子どもの頃からレニーの大ファンだったんだ。あの曲は特に好きでね。今回アルバムに取り組んでいる時に自然な流れでこの曲をやる機会が訪れて、自分たちのストーリーを語る内容の曲にしたいと思った。〈It Ain't Over Till It's Over〉というのはとても強力なフレーズだと思うんだ。世の中には何かに挑戦してがんばっている人たちが大勢いる。そういう人たちに、いまは思い通りに物事が動いていなくても、〈終わるまでは終わりじゃないぞ〉と伝えたい。〈夢は叶えられる、まだまだがんばれるぞ〉ってね」。

 説得力があるなんてもんじゃないだろう。人生のハッピーでポジティヴな側面も、ストリートのハードな現実も綴られたアルバムを締め括るのは、10分以上かけて自分たちの歩みを顧みた“Our Story”――兄弟の夢はまだまだ続いていくはずだ。