一音を発しただけで、〈きっとあの人に違いない〉と勘付いてしまうほど、独特の空気感を放つギタリストがいる。日本では、塚本功がその筆頭格と言えるだろう。この夏は、長年パートナーを務める小島麻由美の最新シングル“GOLD & JIVE~SILVER OCEAN”でも気炎を吐いていた彼が、ソロ・ギター作品集としては第4作目となる『ARCHES』を完成させた。

本作は、音の余白から滋味豊かな色彩や切ない叙情味が溢れ出る、塚本功のギター・マジックを十二分に堪能できる一枚で、聴く者の内へ爽やかな空気を送り込んでくれる風通しの良さも何よりの魅力だ。そんな素晴らしいアルバムのリリースに際し、Mikikiでは塚本とのギタリスト対談を企画。そのお相手は、堀口チエ――ジャイヴ、ジャズ、ドゥワップ、ロカビリー、ロックンロールなどのヴィンテージ・サウンドを新鮮に蘇らせるバンド、LEARNERSのメンバーとして注目を集める新進気鋭のギタリストだ。彼女と言えば、ギャロッピング・ギターを駆使した剛毅なプレイがトレードマークとなっているが、この取材では、ステージ上でのイメージとは対照的なおっとりとした調子で、終始照れ臭そうにしているのが印象的だった。ギター奏法の話からソロ・パフォーマンスの心得まで、多岐に渡った対談をお届けしよう。

★小島麻由美 × 塚本功 × ASA-CHANGの鼎談記事はこちら

★LEARNERSのインタヴュー記事はこちら

取材協力:高円寺CITY -Hand Drip Coffee-

塚本功 『ARCHES』 TINKER(2016)

 

いろいろな風景が見えてくるから、キュンとしちゃうんです(チエ)

――チエさんの噂は耳に入ってましたか?

塚本功「うん、某音楽ライターとかから聞いていましたよ。凄いギターを弾く人だと」

堀口チエ「恐縮です……ドキドキします(笑)」

――ハハハ(笑)。一方、チエさんが持っていた塚本さんに対するイメージは?

チエ「小島麻由美さんのバックでギターを弾いていらっしゃることは知っていて。今回、過去の作品を改めて聴かせてもらったんですが、共通する好きな音楽が多そうだなあと思えて、さらに興味が深まりました」

――聴き込むことで何が浮かび上がってきたんでしょうか?

チエ「何だろう……私の理想の男性像だなあって」

塚本「じゃあそこはまた個人的に話を(笑)」

チエ「フフフ(笑)。ダンディズムに溢れた、映画を観ているような感覚になりました」

塚本「映画みたいな音楽だとはよく言われますね。ソロ作品だとインストが多かったりもするし」

チエ「いろいろな風景が見えてくるんですよね。だから聴いているとキュンとしちゃうんです。先日ライヴも観させてもらいましたが※、一途にギターを愛していることが伝わってきて。ギターが身体の一部のようになっていて、凄いなと思いました」

※8月22日に行われた東京・四ツ谷homeriでのライヴ

塚本「ギターそのものについて詳しくはないんですが、とにかく弾くのが好きで。いま使っているギブソンES-175Tは20歳の頃に出会って、46歳の今日までずっとこれだけ使っているんだよね」

チエ「ギターが喋っている感じがするんですよね」

――ギター弾きにとって、そういう音色を出すことはやはり理想ですよね。チエさんは自分の音を探すために日夜努力していることなどはありますか?

チエ「これまで使ってきたギターは人からもらったものだったんですが、先週とうとう自分でギターを買いました。すごく高かったんですけど、それがいちばんの努力ですかね(笑)」

塚本「自立しようってことだね(笑)。ブライアン・セッツァーが使っているグレッチの名器を使っていますよね」

チエ「はい、そうです。今日の取材には新しいほうじゃなくて、いつも使っているギターを持ってきました。勇気がなくて(笑)」

ブライアン・セッツァー擁するストレイ・キャッツ80年のパフォーマンス映像

――チエさんがもともとギターに出会ったきっかけは?

チエ「13歳の時に友達の家へ遊びに行ったら、アコースティック・ギターが置いてあって。それを触らせてもらって、すごく感動したんです」

塚本「いまのようなスタイルになったのは?」

チエ「遅かったです。23歳の頃にやってみようと思い立って。それまではミッシェル・ガン・エレファントのようなバンドをやっていました」

――やっぱりギターのルーツはブライアン・セッツァーなんですか?

チエ「そうですね、好きだと言える人が彼ぐらいしかいなくて」

塚本「LEARNERSでの演奏にはその点がヒシヒシと感じられますよね」

LEARNERSの〈BAYCAMP2016〉でのパフォーマンス映像

――演奏を見ていると、マール・トラヴィスっぽいギャロッピング・ギターを披露していたりして、古いルーツ・ミュージックをいろいろと研究されているんだろうなと思ったんですが。

チエ「1950年代の音楽はいろいろと聴きましたけど、コピーしたいと思うものはどうしてもブライアン・セッツァーのギターになってしまう。きっと暴れん坊っぽい、ロックな感じが好きなんですね」

――塚本さんがギターを弾きはじめた頃の話もお聞きしたいです。

塚本「エレキ・ギターを使って何かやりたいと思ったのが、中学校2年生の時で。中1の時にフォーク・ギターをもらって、触ってはいたんだけど、せっかくもらったんだからコードでも弾いてみようか、という程度だった。でも中2でロックに出会ったんです。TVでTHE MODSやRCサクセションを観て、こういう音楽をやりたい!と思って、エレキを手にしました。当時はエクスプロイテッドのコピーをやったりするハードコア・パンクのバンドにいたりしましたね」

――そこからデルタ・ブルースなどの泥臭い音楽に舵を切ったのはいつ頃ですか?

塚本「よくある話だけど、当時聴いていた日本のバンドを通じて、ローリング・ストーンズとかの存在を知るわけです。彼らは古いブルースのカヴァーをたくさんやっていますから。でもより深くハマっていくのは、バディ・ガイやマジック・サムなどバンド・スタイルでブルースをやっていた、60年代の新世代たちの音楽に出会ってから。彼らのレコードは本当によく聴きましたね。だから、ソロのギター・スタイルでのお手本がほとんどないまま、ここまでやってきているんですよ。ロバート・ジョンソンあたりも聴いてみたけど、いいなと思えるまでだいぶかかったしね。何年かおきに聴いては、ウンウンうなづくばかりで。いま頃になってようやく、スゲエなあと思えるようになってきたんですけど」

マジック・サムの67年作『West Side Soul』収録曲“I Don’t Want No Woman”

――やっとなんですね(笑)。自分はバンドの一員だという意識が強かったからなんでしょうか。

塚本「うん、完全にバンド志向でしたね」

――チエさんもソロをやっていらっしゃいますよね?

チエ「はい。Chie & The Wolf Baitsという女の子3人組のバンドをやっているんですけど、そのソロ・ヴァージョンという感じですね。まだ塚本さんのように自分のスタイルは確立できていません(笑)」

Chie & The Wolf Baitsの2015年のパフォーマンス映像

塚本「僕はソロで10数年やっていますが、きっかけは企画として誘われたことなんですよ。ちょうどヒマだったこともあって、ちょっとやってみるか、ぐらいのものだった。だから僕も同じで、20歳の頃からずっとやっているネタンダーズ※の弾き語りヴァージョンですよ。でも徐々に一人でやることに味をしめたというか。ただバンドがいないだけ、というもので終わらせるのはつまらないと考るようになって、ライヴの頭と終わりにインストを入れるようになった。それがだんだん増えていったんです」

※塚本が中心となって90年に結成されたトリオ・バンド。現在も精力的にライヴ活動を行う

チエ「そうだったんですか」

塚本「部屋で一人で弾く時のレパートリーが欲しいなあという想いもあって、その時に出来た試作品をライヴでやってみたりしてね」

――部屋で一人ギターを爪弾いている感じが、ソロをやる時のベースとして常にある、ということなんですかね。

塚本「そうなんですよ。バンドでいうリハのようなものが、いつでもどこでもできちゃうのが便利ですね(笑)」

――僕も久々にライヴを観させてもらって、塚本さんの佇まいもそうですが、ギターの音がまるで煙のようだなと思えて。発信者の自己顕示欲が演奏からほとんど感じられない。立ち昇る煙のような音が空間を漂いながら消えていくのを、ただただ追いかけていました。

塚本「ああ。ソロを始めた頃は地味だと思われるのがイヤで、バンド以上に爆音だったりしたこともよくありました。どこかに尖った要素を提示しておかないとマズイだろう、とか考えながら(笑)、クラシックのような曲調のものをハウリングを多用しながら聴かせたりしていて。でもそういう部分が次第に自分のなかで目立つようになったので、徐々に排除していったんです。バンドだったらドラムやベースとのアンサンブルを重要視するけど、〈ソロの場合はいったいギターと何を融合させればいいのか?〉と、自問自答をするようになるんですが、〈場の空気と混ざり合うことじゃないか?〉という答えを導き出してからは、ステージ上でそれを得るための孤独な作業が始まりました。その影響か、この3年ほどでライヴのムードがだいぶ変わったと思います。例えば、ライヴでの定番曲にデューク・エリントンの“Caravan”がありまして。椅子の上に立ってギャンギャン弾くのがお決まりになっていたんですが、そのように予定調和でやるのがだんだんおもしろくなくなっていった。最近は、いい空気感が醸し出せるのであれば地味だろうが何だろうがそれでOK、という感じでできるようになりましたね」

――やっぱり、いい空気感を共有し合うのがライヴの醍醐味ですもんね。

塚本「共有できているかどうかはわからないけどね。絶えず願望として」

塚本が演奏する“Caravan”

――チエさんもライヴでいろいろと心掛けていることがあると思いますが。

チエ「LEARNERSのライヴだと、メンバーが演奏中に下を向いている時は、私はお客さんをしっかりと見なきゃ!という思うことはあります(笑)。やっぱり前へ発信していかないと、こもってしまうから」

塚本「ギターを弾く時の顔の持って行き方って、考えてみるとすごく大事だよね。ヴォーカルは自然とお客さん側に向くけど、ギターはうつむいて弾くのが自然だから。そうやって集中して弾いていると〈どこか痛いんですか?〉と言われたり(笑)」

チエ「確かに(笑)」

塚本「だから、人がギターを弾いているところを見ているとおもしろいね。〈このタイミングでこっち見るんだ〉というのがわかったりして」

 

ギターを弾くのがおもしろい、と感じながらやるのが大事なのかな(塚本)

――自分の半径数メートルの空気を作品に閉じ込める、ということを塚本さんは新作『ARCHES』でめざしていらっしゃるわけですが、今回音作りでこだわった点などを教えてもらえますか。

塚本「今回はレコーディングに関わったスタッフがヴィンテージの機材を取り揃えてくれて、マイク何本かで録音したんですが、とにかく自分の求めているイメージを共有できるメンバーと作業ができて、得るものが凄く大きかったですね。こだわりとしては、いろいろな場所で聴かれることを想定しながらミックスしたこと。このあたりの音はちょっと強めに出したほうがいいんじゃないかとか、試行錯誤しながらやりました。『ARCHES』はメロディーとベースだけで構成されている曲も結構あるんですが、どちらかが出すぎたり引っ込んだりしてしまうと音楽として成立しなくなってしまうので、その点にもかなり注意を払いましたね」

――塚本さんのアルバムを聴いていると、ギターという楽器はいつまで経っても発展途上のままというか、いい意味で未完成な楽器だな、という想いに駆られたりするんですよね。まだまだ未知の演奏を引き出す可能性に満ちているように思える。

塚本「実はそうなんですよね。でも逆に、1940年代のレコードなんかを聴いていると、こんな凄いことをこの時代にもうやっていたんだ、という驚きの発見があったりする。僕はハーモニクスでメロディーを弾いたりしていますけど、そういう技法はもう大昔にあったんだと最近知って。ジャンゴ・ラインハルトのような有名なギタリストがやっていたみたいですね。僕の場合はギターを触りながら〈あ、こうしたらこういう音が鳴るかも〉と発見したんですが。エフェクターなどが登場する前も、いろいろな工夫で新しい技法を開発されていたんでしょうね。なかには、日の目を見ることなく埋もれているものもたくさんあるような気がします」

ジャンゴ・ラインハルトの1939年のパフォーマンス映像

チエ「アルバムを聴いていて、“Shiodoki”はどうやって弾いてるんだろう?と不思議だったんですけど、ライヴを観て、チョーキングをやりながら音を外しているんだとわかりました」

塚本「あれはチョーキングで外すというか、最初から外れている場所へ指を持っていってきちんと上げ切れば、正しい音のポジションに届くけど、上げきらないとああいう音になる」

チエ「てっきりスライド・バーを使っていると思っていました」

塚本「アルバムのなかでもいちばん〈何コレ?〉という曲だよね(笑)。音楽に詳しい人からは〈上の部分で鳴っている楽器は何ですか?〉と質問されて。ギターで録ったベース・ラインに、まったく違うものをくっ付けたと思われたみたいで」

――ベースは覚醒しているのに、上に乗るメロディーが酔っ払ったような、千鳥足状態というのが何ともおかしくて。

塚本「うんうん。でも弾くのはちょっと疲れるけどね(笑)」

――チエさんはどの曲が気に入りましたか?

チエ「私は“UFO NOMURA”が好きでした」

塚本「ギャロップのスタイルと、ディスコっぽくもあるリズムが合わさった曲ですね。このリズムも、ブギーな曲を弾いている時にだんだん出来ていったんだよね」

チエ「UFOっぽいですよね……絵が見えてくる。それをギターで表現できてしまうのは凄いなあ、おもしろいなあと思って」

塚本「ブリキで出来た手作りのUFOみたいなね(笑)」

――この曲はこういう時に生まれた、というようなエピソードはありますか。

塚本「そうだなあ、いろいろあるんだけど……。僕はここ4~5年、ソロのライヴを活動の中心にしていて、日本のあちこちに行っているんです。それで、よく乗っている福岡と大阪を繋ぐフェリーがあるんですが、お客さんの前で演奏をすると、乗船代や食事代すべてがタダになるというシステムが用意されていまして」

――あっ、知り合いのミュージシャンから聞いたことがあります。ライヴをやると、すべて無料にしてくれるというおもしろいシステムがあると。

塚本「そう、いろんなミュージシャンが利用してるんですよ。アマチュアと同じように応募するんですけど、JASRACに登録されている曲は演奏しないでくださいという決まりがありまして。それなら船の上だし、ちょっと海な感じの曲を弾いてみようかな、と思い付いた曲がオープニングの“Shiosai”です」

チエ「即興で作ったんですか?」

塚本「ソロの曲は、即興で作ったものを後でまとめて曲にすることも多いかな」

――簡単なスケッチを貯めておいて、そこから拾い上げたものを曲にしていくプロセスも多々あると。

塚本「そうですね。さっきの“UFO NOMURA”も、ライヴでブギーの曲をやっていた時に浮かんだアイデアがベースになっていて。いつも曲の間奏でいろいろとアイデアを試すんですよ。ステージに上がらないと働かない意識ってあるでしょ? その時々で自然発生的に出てきたものから良いものだけを残していって、のちに活用する。ちなみに“UFO NOMURA”は野村くんという友達の家で作った曲です。とあるライヴ後に野村くんの家に泊まることになっていたのでそれで……」

チエ「フフフ(笑)。その〈NOMURA〉だったんですね」

――チエさんがソロ・アルバムを作るとしたら、どういった内容にしたいですか?

チエ「私がやってきたバンドでは、ニーコ・ケースとかアメリカの女性シンガー・ソングライターたちに影響を受けた、歌中心の音楽を作ってきたんです。でも塚本さんのアルバムを聴いて、もっとシンプルにギターだけでやってみたいなと思いました。ギターだけのソロ・アルバムもいいかなと」

塚本「お、挑戦状だね(笑)」

チエ「そうじゃないです(笑)」

ニーコ・ケースの2013年作『The Worse Things Get, The Harder I Fight, The Harder I Fight, The More I Love You』収録曲“Night Still Comes”

塚本「いろいろなギタリストがそういうふうにやり出したらおもしろいよね。『ARCHES』も曲によっては少し変わったことをやっているけど、難しく聴こえないように心掛けて作ったつもりなんですよ」

チエ「十分難しそうですよ(笑)」

塚本「いやいや、ギターをやっている人からしたらそうかもしれないけどね。でも、〈僕にもできるんじゃない?〉と思ってくれるかなあと期待しています。思えば僕らの世代が新しいことをやる時は、ちょっとした勘違いが働きがちだったというか。いまと比べたら情報もかなり少なかったし、レコードの音から得られるものがすべてで、聴こえてくる音から〈たぶんこんな感じじゃねえの?〉とあれこれ試行錯誤を繰り返してきたわけだけど、いまはそういうきっかけで何かを発見するのは難しいんじゃないのかな。この人はこういうふうに弾いていますよ、という情報もほとんど揃っているもんね」

――制限を設けることは、クリエイティヴな作業においては大事だと思いますよ。塚本さんの音楽を聴いていると、そういう意識の働きが感じられたりします。

塚本「うんうん。制限かどうかはわからないけど、(塚本がスタイルとする)エフェクターをまったく使わない、ずっと同じギターを使っているとかは、そう言えなくもないですよね。ひとつには、部屋で弾いている時の生音が絶対の基準なんですよ。アンプを通した時も部屋で聴こえていた音のバランスを再現するというか。部屋の音がそのまま出るとやりやすいというのがあって。それを基準にしつつ、飽きないようにいろいろとやっていくと、たまに素っ頓狂なものが出てきたり」

チエ「フフフ(笑)」

――部屋で鳴らしている音がもっとも気持ち良いということですか?

塚本「気持ち良さでいうと、さほどそうでもないんですけどね(笑)。部屋で自分に向けて弾いている時の生ギターの音は、他人と共有し合えるものじゃないというか。その状態をキープしながら、いろんな実験を繰り返しているんです。パンツ一丁で部屋にいるという気持ち良さはあるけどね(笑)。そういう意味では、アンプは外に出掛けていく時に着る洋服のようなものなのかな」

――求道者のように部屋に閉じこもってギターを弾き続けるようなことには、あまり興味はない?

塚本「うん。部屋で弾いている時の気分は比較的ドライというか、どうしても練習か組み立て作業になるほうが多いから。最終的にめざすものは誰かに聴かせることだったりするので、その準備としての意味合いが大きいけどね」

チエ「凄い量の練習をされてるんでしょうね。いろいろと考えながらやっていらっしゃるんだろうなと思います」

塚本「そうでもないですよ。部屋で考えていることって9割ぐらいしょうもないことだったりするしね(笑)」

――チエさんにとっての気持ち良い音はどんなものですか?

チエ「アンプに繋いで鳴らしたグレッチの低音弦の響きとか。ヴィンテージのグレッチにしか出せない良い音があるので、いつも気持ち良いなと思いながら弾いています。家では私も生音で弾いていますが、やっぱりアンプに繋いだ時の音をいつも想像していますね」

堀口チエがKeishi Tanaka、松田”CHABE”岳二とセッションしたパフォーマンス映像

塚本「純粋にギタリストとして参加するのはLEARNERSが初めてだったの?」

チエ「そうなんです。ずっとギタリストをめざしてやってきたんですけど、ギターだけじゃ何だか中途半端な気がして。歌と2本柱にすればひとつのものになるかなと」

塚本「僕は高校生の頃から常に、歌とギターを務めるバンドと、ギターだけで参加するバンドの2本立てでやってきたんですよ。ピラニアンズ※に参加した時はギタリストとしてだったし、ネタンダーズでは歌も歌いますよ、という感じで。一時はギター兼ヴォーカルがいちばんやりたいことだと思っていたこともありましたけど、いまはヴォーカルしかやらないバンドもいいなあと思えたりもして」

※世界でも珍しいプロの鍵盤ハーモニカ奏者、ピアニカ前田を中心に91年頃から活動開始。現在は塚本を含む4人で活動。初期にはASA-CHANGも参加していた

――それはおもしろそうですね。

塚本「つまり、(自分の活動の)どういう部分を切り取って見られても、言いたいことはほとんど変わらないんだと、そう思えるようになってきたということかな」

塚本擁するSLY MONGOOSEの2004年のパフォーマンス映像

――最後に、お2人にお訊きしたいんですが、自身が理想とする音楽とはどういうものでしょう? 音楽とはこうあってほしい、自分の音楽はこうありたいなど、常々考えていることを教えてもらえますか。

塚本「ざっくりというと、聴いてくれる人が何らかの自由を感じてくれたら……ということですかね。僕の音楽を聴くことによって、心を解放させてもらえたらいいかな」

――塚本さん自身が解放されるのはどんな瞬間ですか?

塚本「ライヴで言えば、僕が触ったまんま、指で抑えた通りの音が出ていると実感できる時ですかね」

――それは毎回得られるとは限らない?

塚本「う~ん……それはミクロなレヴェルでの話なんですけどね。どんな針の穴でも糸を通せてしまうみたいな音の〈状況〉は稀なことなので。そういう時は解像度が高まるというか、凄く良く見えている状態になるんですよ。そうすると身体も楽になる。無理な動きをしなくていいので。フレーズを弾くにも何もしなくていい。何もしなくていいというのは、やればいいことをポンとそのままやるだけということなんだけど、それは気持ち良いですよ」

チエ「レヴェルが高すぎます(笑)」

――チエさんも、弾き出したら止まらなくなった、身体が勝手に動いてしまうということはあるんじゃないですか?

チエ「はい。自分の気持ちとギターが完全にリンクして、〈このままずっと行きたい!〉という状態になることはよくあります」

――チエさんが理想とする音楽はどんなものですか?

チエ「まだまだ未完成ですが、人の心を少しでも揺さぶることができたら、という気持ちはいつもあって。それは歌でも作曲でもギターでも。難しいことは大してできないけど、気持ちを乗せて表現すれば伝わるんじゃないかと思いながらやっています。それと、誰かがギターの音を聴いて、〈これはチエさんだな〉とすぐにわかるようなプレイヤーになりたい。塚本さんのように、本当の意味での個性を感じさせる音を見つけたいです」

――それを得るためには何をすれば良いんでしょうね?

チエ「もっと自分がどういう人間なのかを知るために、音楽や映画をたくさん聴いたり観たりして探っていきたいですね」

塚本「自分を知れば知るほど、ガッカリの連続だったりするんですけどね(笑)。でも、実際の自分と音楽をやっている時に見えているものとのギャップがあっても全然構わないという境地にはなりました。人間的にはどうにも自信が持てない、と思いながら何十年もやってきたから」

チエ「私もそうです!」

塚本「ああ、だからギターをやり続けているところもあるのかもしれないですね。ただ個性云々ってことはなるべく考えず、とにかく弾くこと。ギターを弾くのがおもしろい、と感じながらやるのがいちばん大事なのかな。あと、何でそれをおもしろいと思えたのかを見い出せると、それがおのずと個性に繋がっていくだろうし……なんちゃって」

 


梅津和時からのコメント
小島麻由美からのコメント