アラン・トゥーサン最後のレコーディングとなった《アメリカの歌》
昨年11月に急逝したニューオーリンズの顔役、アメリカ音楽における偉大なアレンジャー、そしてピアニスト、アラン・トゥーサンの最新作が届いた。死の直前に完成されたという本作はつまりは遺作ということになる。プロデュースはアメリカーナ隆盛のキーマン、ジョー・ヘンリー。2009年『ザ・ブライト・ミシシッピー』以来のタッグである今作は、彼と共に2013年にニューオーリンズで録音されたソロピアノと2015年にLAで録音されたバンド音源からなる。
オリジナルのソロでゆったりと穏やかにはじまり、徐々に他の楽器が参加し始める。チャールズ・ロイドのサックス、ビル・フリゼールのギターなどが丁寧に彩っていくが所謂ジャズっぽくはならない。あるとすればニューオーリンズ流のスウィング感、無論ジャズの祖先である。ニューオリンズの歴史は、リズム&ブルーズの歴史であるとともに、ジャズの歴史だ。《ワルツ・フォー・デビィ》だってその血筋だが、この街にはエレガント過ぎるか。しかしトゥーサンの手に係れば軽快に弾み、直後にご機嫌なプロフェッサー・ロングヘアのヒット曲が飛び出しても何の違和感もない。ディスカヴァー・アメリカ、ヴァン・ダイク・パークスがニューオーリンズが生んだ作曲家ゴットシャルクの曲に花を添え、そしてデューク・エリントン・ナンバーで堂々たる歌唱を披露するリアノン・ギデンズには、アメリカ音楽の未来を託すかのよう。彼にとってのアメリカ音楽はどうしたってニューオーリンズから始まり、今それを振り返ることがどんな意味を持っていたか。自身の代表曲《サザン・ナイツ》に続くラストにはポール・サイモンの《アメリカの歌》。「マルディグラに連れてって」とニューオーリンズに憧れたサイモンとマルディグラの喧騒に育てられたであろうトゥーサン。そのサイモンのあまりにも出来過ぎた歌詞で締め括られるこの作品が最後、その切なさと素晴らしさに胸がいっぱいになる。