紋切り型の追悼では終わらせたくない、〈ニューオーリンズの偉人〉の多彩な名仕事

 ニューオーリンズ(NOLA)音楽といって真っ先に思い出されるアラン・トゥーサンが、2015年11月9日にスペインのマドリッドでの公演後、あの世に旅立ってしまった。享年77。トゥーサン(38年生まれ)といえば、主に50年代後半から70年代にピアニスト/プロデューサー/アレンジャーとして、地元のファッツ・ドミノアーマ・トーマスアーロン・ネヴィルドクター・ジョンなどに関わり、彼のセッション・バンドでもあったミーターズと共にセカンドライン・ファンクを確立。自身のソロ名義でも『Southern Nights』(75年)などの名盤を生み、エレガントなピアノで温厚にファンクしながら、米国のみならず世界のアーティストと共演してきた。

 ゆえに近年のエルヴィス・コステロとの共演も含めてロック方面からの支持も厚い人だが、話題になるのは地元音楽か異色コラボであることが多いため、それ以外のアーバン~ポップ仕事は、ラベルの大ヒット作も含めて案外見過ごされがちでもある。そこで今回は、隠れた名作を含むトゥーサンの仕事を70年代中期から80年代前半に限定して変則的に振り返りたい。NOLAのシーンに根差しながらフィールドを越えて革新をめざしたトゥーサンのソウルは、いつの時代も尊いものだった。

75年作『Southern Nights』収録曲“Southern Nights”
2013年のライヴ盤『Songbook』収録曲“Who's Gonna Help Brother Get Further?”