2016年6月にリリースされたタワレコ&配信限定のファースト・シングル“Hometown”で突如シーンに現れたバンド、Nulbarich(ナルバリッチ)。謎めいたヴィジュアルも話題性抜群だが、何よりソウル/ファンク、アシッド・ジャズなどのエッセンスを採り入れた、キャッチーでハイクォリティーなポップソングに、早耳の音楽ファンから注目が集まった。そんな彼らが、このたび初のフル・アルバム『Guess Who?』を完成。70年代のファンク・マナーを感じさせる“Lipstick”や、レア・グルーヴ風の“I Bet We’ll Be Beautiful”、穏やかなサーフ系バラード“Everybody Knows”などが並んだ本作で、このバンドの魅力がよりあきらかになっている。今回は、Nulbarichのコンセプトや音楽的なルーツから、新作『Guess Who?』についてまでを、リーダーのJQに語ってもらった。
世界のいろいろな音楽を聴く入り口になれたら
――まずはNulbarichの結成の経緯について教えてもらえますか?
「シンガー・ソングライターとして活動をしていたんですが、いつかはバンドをやりたいとずっと思っていて。それで、ようやく一緒にやりたいメンバーが集まって、バンドを始められるタイミングが重なったことから、Nulbarichがスタートした感じですね。シンガー・ソングライターの活動をしていたのも、(バンドをやるための)経験を積みたいという気持ちがあったからなので」
――バンドをやりたいと思っていたというのは?
「シンガー・ソングライターとしてやっていると、基本一人で作ることがほとんどじゃないですか。なので、やっぱりバンドが良かった……うーん、何でなんだろう(笑)? まあ、みんなで演奏するほうが楽しいっていうのもあるし、みんなで作ったほうがより良いグルーヴが生まれるし」
――Nulbarichの楽曲にはソウルやファンクなど、ブラック・ミュージックのテイストが強く感じられます。これはJQさんの音楽的なルーツと重なっているんでしょうか?
「特にブラック・ミュージックだけがルーツにあるわけではなくて、幅広く聴くタイプなんですよ。聴いてきたものは洋楽が多くて、もちろんブラック・ミュージックも大好きだし。最初はヒップホップだったので。いいなと思う曲のサンプリングのネタをディグしながら、昔の音楽を知っていきました。どっぷりハマったのは2000年代に入ってからですね。そこからシュガーヒル・ギャングあたりまで遡りました。特に90年代のヒップホップが好きだったんですけど、楽曲のクレジットを見てプロデューサーの名前や元ネタをチェックするようになったんですよね。ヒップホップ系のクラブに行くと、DJの人が元ネタをかけてから、それをサンプリングした曲をかけたりもしてたし。勉強というわけではないけど、周りの友達もそういう聴き方をしていたので。DJプレミアやジャスト・ブレイズあたりは特に好きですね」
――クリエイター/トラックメイカー的な聴き方ですよね。
「そうですね。新しい曲を聴いた時に真っ先に気になるのはトラックのクォリティーと質感、ヴォーカルとトラックのバランスなので。当時からトラックも作ってましたね。周りに上手いラッパーがいっぱいいたので、自分でラップするのは無理だなとあっさり諦めたんです(笑)。なので、周りのラッパーたちにトラックを提供したり」
――楽器は?
「小さい頃にピアノを少し習っていたんですよ。4歳から小学校に入るまでなんですけど、そこがちょっと変わったピアノ教室で、いわゆる定番の曲を弾いたりせずに、まず作曲をさせられるんです。自分で弾いたものを先生が肉付けして楽譜に起こしてくれて、それを発表会で弾くっていう。そういう流れで何となく曲を作ったりはしていて、いまも鍵盤で打ち込むことが多いですね。ピアノを弾くこと自体はすぐに飽きちゃったんですけど(笑)」
――トラックメイカーとしてアーティストに楽曲を提供するなかで、J-Popに対してはどんな捉え方をしていたんですか?
「そうですね……以前からJ-Popは聴いていたんですけど、やっぱり研ぎ澄まされている音楽をやっている方、ブラック・ミュージックに通じている音楽性を持っている方が好きだったんです。山下達郎さんはまさにそうですね。あと、欧米の音楽と比べながら(J-Popを)聴く人が多いなという印象も僕のなかにはあって。僕自身が作る楽曲に関しても、いまのJ-Popよりも少し欧米のメインストリームのサウンドに寄せるというか、世界でも戦えるようなものにしたいという気持ちはありましたね。ただ(音楽的に)本当にすごいことをやっている人は日本では売れない、みたいなジンクスがあるじゃないですか」
――〈J-Pop〉としては支持を得られないというか。
「そこはぶっ壊していきたいなと思っていますね。トラックメイカーをやっている時も〈もっとポップでわかりやすく〉という仕事よりも、〈トラックの質を上げたい〉ということでお話をいただくことが多かったんですよ。そこはNulbarichでもしっかり追求して、J-Popなんだけど、世界標準のポピュラー・ミュージックとして聴ける音楽を作っていきたいですね。世界のいろいろな音楽を聴く入り口になれたらという想いもあるので」
――音楽的な方向性や、どういったポジションのバンドをめざすかにも明確なヴィジョンがあると。
「うん、そうかもしれないです。まあ、そこまで狙っているわけでもなくて、単純に僕がカッコイイと思う音楽がそういうものなんですけどね(笑)。せっかく自分で組んだバンドだし、やりたいくないことはやらないので。もし、やりたくないことをやらされそうになったら、すぐ辞めます(笑)。やっぱり得意分野で戦ったほうがいいじゃないですか。昨日までバスケをやっていた人に、サッカーをやれと言っても無理なのと同じで、〈アイドルに対抗しろ〉と言われてもできないので」
いつかはビルボード・チャートに喰い込みたい
――Nulbarichはメンバーを固定しないで活動していくそうですが、現在のメンバーはどうやって集めたんですか?
「全員、何かしら繋がりのある人たちばかりですね。トラックメイカーとして活動するなかで知り合った人だったり、自分が好きなプレイヤーだったり。もちろん、Nulbarichのコンセプトに賛同して集まってくれています」
――楽曲制作はどのように行われるんですか?
「まず僕が作った基本となる叩き台を各メンバーに投げて、それぞれのパートをアレンジしてもらいます。それをさらに僕がエディットして仕上げていく感じですね。そこからメロディーと歌詞を乗せていきます」
――スタジオでセッションしながら作ることはない?
「それもやりますよ。例えば“Spread Butter On My Bread”という曲は、スタジオでセッションしたときに出てきたフレーズがヒントになっていますし。ただ、セッションだけでは終われないというか、もっとアレンジを詰めて楽曲をアップグレードさせたいんですよ。だから、作り方としてはやっぱりトラックメイカーなんだと思いますね。ミュージシャンと一緒に演奏するのは好きだけど、レコーディングは生で一発録りがいちばん!とは全然思わないので。メンバーが入れてくれたフレーズをエディットすることで、その曲の正解に近付けるというか。みんなの演奏、自分のアレンジを含めて、高め合っていきたいんですよね」
――ただ、ライヴで演奏するためにはかなり高い技術が必要ですよね。
「そうなんですよ。そこは困っています(笑)。日々訓練ですね。もちろん最低限のプレイはいつでもできるんですけど……Nulbarichは顔を出していないバンドなので、お客さんは楽曲だけを聴いてライヴに来てくださるわけじゃないですか。そうなると、ライヴに対する期待度も上がると思うんですよね。そういう皆さんの期待に応えたいし、パフォーマンスの質はもっともっと上げていかないといけないと思っています。さっき言ったように、音源はきっちり詰めて作り上げますけど、ライヴでは〈やっぱり生演奏がいい〉と思ってほしい。ステージも好きなんですよね、僕は」
――なるほど。ところで、英語と日本語が入り混じった歌詞が独特な聴き心地ですね。
「歌詞に関しては、意味が直接伝わることよりも耳当たりの良さだったり、メロディーへの乗せ方がキモだと思っていて。あまり直接的な言葉がドーンと入っていると曲のバランスが壊れてしまうので、自然と英語が多くなるというか。僕自身、音楽を聴くときには、曲全体のバランスを意識していますね」
――〈この気持ちを歌にしておきたい〉と思うことはない?
「それはありますよ。歌詞の内容は想像上の何かではなくて、基本的に自分のことなんです。こういうふうになりたいという理想だったり、あのときはこうするべきだったという反省点だったり。英語と日本語が混ざってますけど、歌詞を読むと意外に詩みたいになっていると思います。例えば“LIFE”の歌詞は、ここは一発がんばらなくちゃいけないという時期に、自分へ向けて書いているところがあったり。ただ、さっき言ったように楽曲の中で〈これが俺の気持ちです〉と押し出すのはナンセンスだと思っているし、歌詞を読んでどう感じてくれるかは人それぞれでいいと考えています」
――なるほど。では、ご自身のヴォーカルに関してはどうですか? トラックのクォリティー、演奏技術を向上させるのと同じように、ヴォーカルに対しても求めるレヴェルは高いのかなと。
「まだまだ理想のヴォーカリストにはなれてないですね。今回のアルバムでの歌唱は現状のベスト、という感じですけど、もっともっとレヴェルアップしていかないといけないし、ハードルをさらに高いところに置きたいですね」
――では、アルバムの収録曲についてもいくつか訊かせてください。まず、リード・トラックの“NEW ERA”。これはブラック・ミュージック経由のサウンドを今様のポップスに昇華した、Nulbarichのコンセプトをわかりやすく示した楽曲だと思います。
「“NEW ERA”と先行シングルの“Hometown”はNulbarichの始まりの曲なんですよね。僕自身すごくワクワクした状態で作ったし、インパクトのある楽曲になっていると思います。バンドのコンセプトそのものというか」
――“NEW ERA”、つまり〈新しい時代〉ですからね。このバンドで新しい時代を切り拓くようなイメージでしょうか。
「そこまで偉そうなことは思ってないけど(笑)、ミュージシャンとしてこれから向かっていく先だったり、思い描いているプラン、自分自身の夢を叶えたいという想いもありますね」
――“SMILE”は、アルバムのなかでも特にポップに振り切った楽曲ですよね。J-Pop的なアプローチも感じられるというか。
「確かに。“SMILE”は自分にとって挑戦だったというか、あの曲のビート感はどうしても垢抜けない感じになりがちなんですよ。それをカッコ良く仕上げるのはすごく難しかったですね。歌謡曲的な部分を削ぎ落として、60年代のブラック・ミュージックのテイストを引っ張ってきた感じです。上手く乗りこなせたので、僕としても好きな曲になりましたね」
――楽曲の制作自体がクリエイターとしての挑戦になっていると。
「曲を作るなかで、何かを発見したいんですよね。そうやって自分がグレードアップしていく感じが楽しいので」
――初作『Guess Who?』がリリースされることで、Nulbarichの存在を知るリスナーも増えていくと思いますが、今後のヴィジョンについても教えてもらえますか? ロック・バンドだったらフェスでのし上がるというのもありますが、Nulbarichの場合はそういうタイプでもないような気がしますが。
「フェスは総ナメにしたいと思ってるんですけどね、できれば。機会があればガンガン出演して、印象だけでも残したいなって。〈何だ、あいつら?〉という感じで観てもらうのもいいと思うんですよ。それがマイナスのイメージでも後からひっくり返しやすいかもしれないし、とにかくいろんなフェスやイヴェントに出たいですね」
――ここ数年はシティー・ポップ、アーバンなテイストを持ったアーティストの台頭が目立っていますが、そういう面々に親近感を覚えたりしますか?
「タワレコさんで〈Suchmos、cero好きにオススメ〉と紹介してもらっていたりするし、
勝手に親近感は湧いてますけどね。ただ、実際にそういった方々とは会ったこともないし、むしろ恐縮している感じです(笑)。確かに、そういうシーンが盛り上がっているのは僕らとしてもやりやすいし、嬉しい限りだなとは思います。でも、もっともっとがんばって日本で受け入れられたい。日本の音楽のクォリティーの基準はすごく上がっているから、僕自身もさらに上をめざしたいですね。そうしないと置いていかれちゃうので」
――ただ好きなことをやれればいいというのではなくて、音楽のクォリティーやシーンにおいてのポジションも含めて、どこまでも高いところをめざしたいと。
「もちろん好きなことはやっていくんだけど、パワーアップしていくのが楽しいんですよ。将来的には海外でも認められるようになりたいんですよね。アルバムに“NEW ERA”の英語詞ヴァージョンを収録しているのもそうなんですけど、いつかはビルボード・チャートに喰い込みたいと思っているので。これから勉強しなくちゃいけないことも多いけど、理想はそこですね」
Nulbarichライヴ情報
Night Breezin’ vol.01
10月26日(水)@Motion Blue Yokohama
with LUCKY TAPES
18:00開場/19:30開演
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CINRA×Eggs presents 『exPoP!!!!! volume90』
10月27日(木)@東京・TSUTAYA O-NEST
with ドミコ and more
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SHIBUYA TSUTAYA presents Scramble Fes 2016
11月5日(土)@東京・TSUTAYA O-EAST
13:00開場/14:00開演
with OGRE YOU ASSHOLE/D.A.N./never young beach/Yogee New Waves/Homecomings and more
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Nulbarich 1st ワンマンライブ「Guess Who?」
2017年2月3日(金)@東京・渋谷WWW
18:30開場/19:30開演
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