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話の展開が全く予測不能! スペインからフィルム・ノワールの新たな傑作が誕生!

 長山洋子のデビュー曲《春はSARA SARA》が流れるオープニングから、実に意表を突くスペイン映画である。なぜ長山洋子が流れるかといえば、12歳の白血病の少女アリシアが大好きな日本のアニメ『魔法少女ユキコ』の(映画設定上の)主題歌だからであり、アリシアの願いは、魔法少女ユキコになること。余命いくばくもない娘の願いを知ってしまった父ルイスは、その願いを叶えようと、魔法少女ユキコのコスチュームを購入しようとオークションを覗く。見て驚いた。日本円にして90万円! 失業中のルイスは、愛蔵書を泣く泣く売ったりはしたものの、到底娘の願いを叶えることはできない。可憐な少女の夢を叶えさせてあげたい! オヤジ頑張れ! この時、観客の誰もがそう思ったはずだ。

カルロス・ベルムト マジカル・ガール VAP(2016)

 しかし、そんな思いはすぐに裏切られる。父娘の物語に、精神が不安定な美女バルバラと彼女と過去に何かがあり、長い間刑務所暮らしをしていた元・数学教師ダミアンの物語が交錯するに至って、この映画が実は「フィルム・ノワール」であることが判明する。それも、相当にエグくて暴力的な「フィルム・ノワール」である。

 ネタバレになるので、詳しくは本編をご覧いただきたいのだが、本作が劇場長編処女作というカルロス・ベルムトは、この一作で世界の一線に躍り出た。予測不能の、それでいて極めて精緻な構成力あるのストーリーテリングと抑制のきいた演出力。特に、物語の余白や暴力をあえて見せないことで生じる作法が本当にマジカルな効果を生んでいる。

 最後に本作は『魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』と通底する「愛の映画」とだけは言っておきたい。後味はずしりと重い。