ハチャメチャだけどストイックな楽曲で、これまでのシリアスなイメージを打ち破った4人。内宇宙から外の世界へと目線を移したいま、ここから新たな旅の物語がスタートする――

 「今回は、プロデューサーから〈fhánaのシリアスなイメージを打ち破ってもらう。振り切れるか?〉と言われまして。〈全然やりますよ〉って答えて蓋を開けてみたら、京都アニメーション制作『小林さんちのメイドラゴン』のタイアップの話だったっていう。fhánaの結成のきっかけになった〈CLANNAD〉っていうゲームのTVアニメ版も、個人的に好きな『涼宮ハルヒの憂鬱』も京アニの制作なので、思い入れのあるぶん嬉しかったですね」(佐藤純一)。

fhana 青空のラプソディ ランティス(2017)

 4人がコミカルなダンスを披露するMVからも振り切れぶりが窺える、fhánaのニュー・シングル“青空のラプソディ”。多彩な音楽性が目まぐるしく入れ替わる華やかなアップ・チューンとなった同曲は、音だけでも賑やかなアニメの空気感が伝わる仕上がりだ。

 「今回はfhána史上もっとも明るい曲を作ろうと。参考曲として送られてきたものには電波ソングっぽい早口なアニソンもあったりして、それなら音楽的に自分が好きなもので、なおかつfhánaがこれまで突き詰めていなかった方向でいこう、というところでディスコフィリー・ソウルに寄っていきました。めざしていたのは、小沢健二の“ドアをノックするのは誰だ?”とかのゴージャスでロマンティックな感じ。超豪華なストリングスやチャカチャカしたワウ・ギターが入ってて、ディスコなイントロからちょっとビートルズの“Get Back”っぽいAメロ、転調、転調、転調のBメロのあとのサビではパーッと開けて切なさもあって、なぜかJUDY AND MARYっぽさもある(笑)。そこに大勢でのクラップや掛け声が入ったり、間奏ではビバップになったり。ハチャメチャに明るいんですけど、だからこそ切ない。とにかくストイックに作った曲ですね」(佐藤)。

 ハイテンションでストイック。その姿勢は林英樹の書く歌詞にも強く表れている。

 「今回は、いままでよりアニメのキャラクターと近い歌詞なんですよ。でもただのキャラソンではなく、fhánaとしてのメッセージも込めてほしい と。『小林さんちのメイドラゴン』はドタバタコメディーで笑えるんですけど、fhánaがアルバム『What a Wonderful World Line』で掲げたテーマと近い部分もあって。ドラゴンが人間社会で暮らすなかで、自分が本来持っている文化との違いから、いろいろと葛藤があるんですね。そういう異文化同士の衝突と、その折り合いの付け方であったり、あとは基本ひとりで生きてきた者同士がコミュニティーを作ることで心が明るくなってくみたいな、そういうテーマもあって。それって例えば、fhánaの“虹を編めたら”のテーマとも繋がるものだと思うんですよね」(佐藤)。

 そんな表題曲に加え、2形態のうちの〈アーティスト盤〉にはyuxuki wagaの作曲による“現在地”を収録。ロック好きのwagaらしい、疾走感のあるピアノ・エモだ。

 「聴いていて楽しいシングルにしようってことで、この曲もテンション高く。ミュージシャンも実際にバンドをやっている人を呼んで、ベースはGalileo Galilei佐孝(仁司)君、ドラムはchocolatre只熊(良介)さん。みんなで〈せーの〉で録って、本番は2テイクで終わりました(笑)。みんながこなれる前の荒い感じを残したくて」(waga)。

 そして、〈アニメ盤〉で聴けるkevin mitsunaga製の“Forest Map”は、エレクトロニカが下地のチェンバー・ポップ。アコースティック楽器が大量に投入され、とりわけ弓弾きのコントラバスがファンタジックな音世界に重厚な深みを与えている。

 「“Forest Map”は、シガー・ロスに代表されるような乾いた空気感を出したいなっていうのが最初のイメージで。そこにウッドベースや大量のパーカッション、12弦ギターなんかを加えて、どんどん生感を出していった感じですね」(kevin)。

 「ヴォーカルは、kevin君の曲は森の妖精みたいな(笑)無垢な感じを、waga君のほうは青臭い感じを意識して。最近は今回の表題曲みたいに思いっきりニュアンスを加えて歌うものが多かったので、ストレートな歌い方は懐かしかったです」(towana)。

 「“現在地”のテーマは〈住所〉という意味の〈アドレス〉で、“Forest Map”は〈マップ〉。4月には〈Looking for the World Atlas Tour〉――〈世界地図を見つけに行く〉っていうツアーがあるんですけど、この2曲はそこから先の物語の起点になる曲なんです。〈What a ~〉で向かった内面の宇宙から、今度は外の世界に旅立つみたいなテーマになるのかなって」(佐藤)。

 佐藤はさらに、グループの在り方についてもこう語る。

 「fhánaの活動は、〈良い音楽を作る〉っていうのを大前提として、同時にアニソンとしてちゃんと意味のあるものを作りたいとも思っているんです。アニメには、格差を超えて、どんな文化の人でも繋がれる良さがある。fhánaも、そんなふうにカルチャーやジャンルをどんどん超えていくものを表現できたら、というのが大きなテーマだったり、希望だったりしています」(佐藤)。