(C)後藤武浩・Takehiro Goto

 

絶妙な距離感と信頼関係 ふたりだからこそのコラボ集完成

 自身の作品制作のみならず、インスタレーションやTVCMなどさまざまな分野で活動する音楽家、蓮沼執太。ジャンルレスな共演を続けてきたタブラ奏者、U-zhaan。2人は昨年公開されたドキュメンタリー映画『マンガをはみだした男~赤塚不二夫』で劇中音楽を担当するなど、2012年の初共演以来たびたびコラボレーションを重ねてきたが、今回発表された『2 Tone』はそうした交流の集大成ともいうべきアルバムだ。

蓮沼執太,U-zhaan 2 Tone commmons(2017)

 「アルバムを作ろう! と意気込んで活動していたわけじゃなくて、あくまでも演奏や制作の仕事が舞い込んできたら2人でやってきた感覚なんですよ。ご飯を食べるような感じで楽しみながらのコラボレーションというか」(蓮沼)

 「これまでに聴いてきた音楽など、根本がすごく近いところにあるのかも。彼との制作は異常にやりやすいし、とても楽しいんですよ。いつもケラケラと笑いながら作業しているような気がする」(U-zhaan)

 制作された時期や目的はそれぞれ異なるだけあって、収録曲の曲調は実に幅広い。抽象的で実験的な楽曲がある一方で、ご存知“スーダラ節”の脱力インスト・カヴァーやいくつかの歌モノ曲もある。ただし、本人たちも認めるようにとびきり相性のいい2人だけあって、統一したトーンが全体を柔らかくコーティングしている。

 「デジタルからアナログまでさまざまな電子音も使ったし、環境音などのノイズもあれば、歌も歌ってますし、生演奏もある。僕が持っている要素すべてを使ってU-zhaanのタブラと融合することで、新しい音楽が作れるんじゃないかと意識していました」(蓮沼)

 2人が作り出すトーンに新たなスパイスを加えているのが、アート・リンゼイ坂本龍一デヴェンドラ・バンハートなど豪華ゲスト陣。ただし、彼らもまた、蓮沼とU-zhaanが主催する食事会に招かれたゲストのようなものであって、どこかリラックスした雰囲気が漂う。このアルバムは実験的かつ挑戦的なポップス作品ではあるものの、音の向こうから蓮沼やU-zhaan、ゲスト陣の楽しげな笑い声が聴こえてくるのだ。

 「今までも特に大きな目的を持たずに自然とコラボレーションをしてきたので、これからもやりたい時にやったり、オファーが来たらそれに答える、というマイペースな形で発展していくと思います。音楽的にも個人的にも友達なので、今後も2人で作り続けていくと思う」(蓮沼)