これまでに5度のグラミー賞を獲得しているヴェテランのジャズ・ヴォーカリスト、ダイアン・リーヴスが4年ぶりに来日。5月29日(月)~31日(水)の3日間に渡ってブルーノート東京で公演を行う。
故ジョージ・デュークを従兄弟に持つ彼女は15歳でキャリアをスタートし、これまでに通算19枚のアルバムを発表。長年所属したブルー・ノートを離れて発表した2013年の最新作『Beautiful Life』ではテリ・リン・キャリトンをプロデューサーに迎え、ロバート・グラスパーやエスペランサ・スポルディング、レイラ・ハサウェイらジャズの概念を拡げる現行シーンの顔役たちと手合わせし、持ち前のスケール感ある歌唱で魅せた。そんな、まだまだ現在進行形のダイアン・リーヴスのこれまでの輝かしい歩みを振り返りつつ、5月の公演の見どころを紹介したい。さらに、グレゴリー・ポーターやキャンディス・スプリングスらリーヴス縁のアーティストから彼女についてのコメントが届いているので、最後までチェックを! *Mikiki編集部
感性としてのジャズ
ダイアン・リーヴスは、99年に『Bridges』というアルバムをブルー・ノートから発表した。プロデュースはフュージョンからR&Bまでを俯瞰する広角型鍵盤奏者/制作者のジョージ・デュークで、リーヴスはそこでピーター・ガブリエルやジョニ・ミッチェル曲などと共に、ミルトン・ナシメントの“Bridges”(彼のヒューマン名曲“Travessia”の英語歌詞曲)を取り上げている。そのリリース時に僕がインタヴューした際、その表題について彼女は次のように語った。
「それは収録曲のタイトルでもあるけど、私はもっと大きな意味を込めている。ジャズとポップ・ミュージック、そんな異なる島にあるものを繋ぎたい、それらの架け橋となる歌い手になりたい、という意図がそこにあるの。そして、私はそうあってこそ、現在の〈感性としてのジャズ〉が作り出せると信じている」
真っ当な見解であり、それはいまも有効であるのは疑いがない。その秀でた技量や品格から、リーヴスのことを王道にいるジャズ・ヴォーカリストと捉える人がいるかもしれないが、実は彼女はソロ・デビューした頃からそうした視野の広さ、しなやかさを抱えていた。ブルー・ノートに在籍した実力派ジャズ・シンガーというと、カサンドラ・ウィルソンのことを思い出す人がいるかもしれないが、1歳年下のリーヴスもまた、彼女同様に開かれた審美眼のもとに〈私の考える、現代ジャズ・ヴォーカル〉を送り出してきている。カサンドラにせよリーヴスにせよ、彼女たちの胸を張った志向が、ノラ・ジョーンズ登場以降のブルー・ノートにおける末広がり路線の礎になったという指摘も可能なはずだ。
ダイアン・リーヴスは1956年にデトロイトに生まれ、多感な時期はデンヴァーで育っている。母親はトランペットを吹き、叔父はベーシスト。また、ジョージ・デュークは従兄弟だった。子供の頃から歌い、ピアノを弾いていた彼女は、小学校を出る頃には音楽こそが第一の存在であると考えるようになり、中学時代はジャズ・ヴォーカルに夢中になった。高校のビッグバンド付き歌手として歌ったこともあり、それを見た大御所ジャズ・トランペッターのクラーク・テリーは彼女を絶賛した。
その後、デンヴァー大学に進んだものの1年で辞め、リーヴスはLAに移って歌手活動を模索。ジャズは当然のこと、特殊フュージョン・バンドのカルデラ、セルジオ・メンデスやハリー・ベラフォンテといった南米属性を抱えるポッパーたちとやることで、彼女は〈柳腰〉と言いたくなる綺麗な放物線を描くヴォーカル流儀を固めている。また、ジャズ以外の活動にも関与することで、彼女は同時代性や大衆性を抱えたジャズ・ヴォーカル表現のあり方も皮膚感覚で学んでいった。
彼女のレコード・デビューは、82年。西海岸のインディ・レーベル、パロ・アルト・ジャズ発の『Welcome To My Love』がデビュー作で、それはソウル~ブラジリアン・フュージョン調サウンドを採用した内容を持つ。だが、彼女が広く知られるようになるのは、87年にブルー・ノートに迎えられてから。ジャズの素養を持ちつつ広い大海を悠々と泳ぐようなリーダー作を、20年強に渡って次々とブルー・ノートからリリースしている。
うち、ジョージ・デューク制作のクロスオーヴァー路線にある作品が多い。ブルー・ノート初作『Dianne Reeves』(87年)、『Never To Far』(90 年)、『Quiet After The Storm』(94年)、冒頭に触れた『Bridges』(99年)、99年の〈プレイボーイ・ジャズ・フェスティヴァル〉のライヴ盤『In The Moment: Live In Concert』(2000年)、『Bridges』をアップデートしたような好盤『When You Know』(2008年)などは、彼のプロデュース盤だ。
もちろん、デュークが絡まないアルバムもいろいろ出していて、それらは以下の通り。主にジャズ・スタンダードを陰影深く歌った初期の傑作『I Remember』(91年)、書き下ろし/オリジナルを張りのある歌唱を聴かせた『Art & Survival』(93年)、少しレトロなお膳立ても持つジャズ盤『The Ground Encounter』(96年)、ドラマーのテリ・リン・キャリントンが仕切った静謐なジャズ・ヴォーカル盤『The Day』(97年)、パリのクラブでのトリオ伴奏による実況盤『New Morning』(97 年)、リーヴスの作品中もっとも圧倒的なジャズ歌唱を収めた、大好きなジャズ・シンガーに捧げる『The Calling: Celebrating Sarah Vaughn』(2001年)、アレサ・フランクリンやノラ・ジョーンズらの作品を手掛ける大御所アリフ・マーディンが制作した『A Little Moonlight』(2003年)、一筋縄では行かないアートなクリスマス・アルバム『Christmas Time Is Here』(2004年)、リーヴスもシンガー役で出演したジョージ・クルーニー主演映画のサントラである純ジャズ・ヴォーカル盤『Good Night & Good Luck』(2005年。これはコンコード発)……。