インタビュー

柳樂光隆(監修)× 小熊俊哉(担当編集)――新世代のジャズ・ガイド〈Jazz The New Chapter〉で音楽シーンに旋風を巻き起こした張本人たちに迫る:後編

〈1〉からわずか半年で〈2〉を作った理由、ジャズ・リスナーではなく音楽リスナーのためのジャズ本制作秘話、そして〈Jazz The New Chapter〉の今後とは

写真左:「Jazz The New Chapter」シリーズ担当編集の小熊俊哉氏 右:監修の柳樂光隆氏

 

ロバート・グラスパーを中心に、新世代による〈21世紀のジャズ〉をまとめた書籍「Jazz The New Chapter」。今年2月に刊行されるやいなや大反響を巻き起こした同書は、〈グラスパー以降〉というキーワードと共に、刺激的な現代進行形のジャズ・シーンの面白さをジャズ・ファンのみならず、多くの音楽ファンに知らしめることとなった。

そして、第1弾の余波がまだ続くなか、新たな動きが目まぐるしく起こりさらなる活況を呈するジャズの最前線をドキュメントするために、9月には第2弾「Jazz The New Chapter 2」が刊行されたばかり。

 こちらも第1弾と同様に大きな話題を呼んでいるが、はたしてこの〈JTNC〉旋風を巻き起こした張本人たちは一体どんな人物なのだろうか? 今回は、その仕掛け人である2人――監修者の柳樂光隆(ジャズ評論家/音楽ライター)と担当編集者の小熊俊哉(CROSSBEAT)に話を訊くことで、この人気シリーズ誕生の秘密に迫ってみた。

※インタヴューの前編はこちらから

 

「Jazz The New Chapter 2」を作った理由

――2月に〈Jazz The New Chapter〉が刊行されて、それから半年ちょいという短いタームで〈Jazz The New Chapter 2〉が登場することになったんですが、この第2弾を作る着想というかアイデアはどのタイミングで生まれたんですか?

小熊「おかげさまで第1弾が好評なのもあって、本も再版になったし、ユニバーサルからJTNCとコラボした再発やコンピの話もいただいたりして。いろんなレーベルから連絡がくるようになったし、反響の大きさに驚いているうちに、短いスパンでもう1冊出せるだけの環境が整っちゃったんです」

柳樂「あとサマソニか」

小熊「あー、そうそう。なんかグラスパーが来るっぽいなっていう話は5月ぐらいの時点であったから。関連アーティストの来日が次々と決まったのも大きかった」

柳樂「〈JTNC1〉の構想の時点でやりたいことをたくさんリストアップしてたんですけど、実はほとんどできてなくて。ここ20年とか15年とかの空いているところを埋める作業みたいなつもりでいたので、(その作業をクリアにするために、企画の多くを)だいぶ削ってるんですね。〈2〉をそのうちやりたいねっていう話はしていたので、あとはタイミングをいつにするかっていう感じだったんだけど、フライング・ロータスも(新作が)出るみたいな話になったから、もうやっちゃうかって」

小熊「ホントに面白い新譜が続々と出ちゃってて、もう十分これだけで1冊作れちゃうなっていうのもありましたね。〈1〉が出た直後に、クリス・バワーズっていうグラスパーよりもっと若い世代の人が出てきて、グラスパーの活躍のあとにもっと自由ななにかをやろうとしてるっていう動きが表面化して、そのバワーズに追いつくか追い越すかみたいな感じで、他のミュージシャンたちもそういう動きを見せている状況が現実のものになりつつあって、これはもう1冊作れちゃうなって」

【参考音源】クリス・バワーズの2014年作『Heroes + Misfits』収録曲で、
ジュリア・イースターリンを迎えた“Forget - Er ”

 

――〈JTNC1〉が2000年代以降をギュッとまとめる感じだったとしたら、〈JTNC2〉のコンセプトは一言で言うと〈いま〉って感じですか?

柳樂「そうですね、いま起こってることっていうか、〈1〉でやったところで特に力を入れたところを、さらに特化してやった感じです」

小熊「最初の100ページぐらいはそうなのかな。フライング・ロータスなど前回よりももっとキャッチーなものも盛り込んで、本人たちの発言も取れるだけ取って。前半では〈今〉のジャズの動きを浮き彫りにすることがあった一方で、後半ではもっとすごい濃密な〈論〉をやるっていう。〈もっとディスクガイドっぽい作りにしなくて大丈夫かな?〉っていうのは前号の自分の中で不安としてあったんですけど、本が出てからの反応を見ると、ディスクガイド部分以上に〈論〉が面白いとか、みんなの書いてる原稿のクォリティーが高いっていうところがすごくウケていたので、だったら〈2〉もそこを基本的に継承するべきだろうなと」

柳樂「〈ただのディスクガイドにしたくない〉みたいな話も作るときに結構してたんですよ。掲載何百枚とか千枚とかっていうのをやることにあんまり面白みを感じないねって。やっぱり今起きてることの流れを切り取るほうに力を入れたいっていう話をしてて。(〈1〉と〈2〉の間の)期間も半年だし、前回ほどは(載せるべき)ディスクもないだろうっていう感じだったんで、だったらここぞと〈論〉を詰め込めるんじゃないかと」

小熊「今回、帯にはもう〈何枚載ってる〉とか入れてないんですよね。前回は入れたけど、そこでいちいち競わなくていいかなって。やっぱり、人間はそんな一度に聴けないんで」

柳樂「うん、そんなにたくさん聴けないもんね(笑)」

【参考動画】フライング・ロータスの2014年作『You're Dead!』収録曲で、
ケンドリック・ラマーを迎えた“Never Catch Me”

 

 

〈JTNC2〉でやりたかったこと

――確かに、〈1〉に関しては半分はディスクガイド本になってるけど、今回の〈2〉は、いち記事ずつ時間をかけて読まないとっていう〈濃厚に物事が詰まってるぞ感〉がすごくしますね。後半にはECMやシカゴのポスト・ロックについてなど、濃厚な論考が次々と登場しますが、そのアイデアはどういった感じで決まったんですか?

小熊「ECMをやりたいっていうのは柳樂さんがずっと言ってたんですよ。僕としても、ジャズ・リスナーが手に取ってもらう動機を作るうえで、セールス面も含めて、それはアリかなって思ったので。ただ、ブレインフィーダーとECMってスゴイ食い合わせだなとは思いましたけど(笑)。まあ、それもこの本らしいかなと」

 

柳樂「〈1〉を作ったときの時点で構想はすでにあったんですけど、〈2〉の場合はディスクガイドをそこまでやらなくてもいいって考えもあったんで、じゃあすごく新しい切り口のECM大特集みたいなものをやりたいなあと思って。個人的にはそこを〈2〉のメインに考えてましたね」

小熊「ブレインフィーダーに惹かれて(JTNC2を)手に取るような人が、読んでいくうちにECMにも興味をもってくれるような構成……逆ももしかしたらあるのかもしれないけど、そんなふうになったら面白いのかなって」

柳樂「極端だけど、一応どちらも最先端なんで。〈いま〉の最先端を扱う本としては、そんなに矛盾もないかなと」

小熊「ただやっぱり柳樂さんはジャズがすごく好きなんで、すごく尖ったことやろうとしても最終的にジャズからは上手い具合に離れないんですよね。僕からしてみれば〈こんなの全然普通のジャズじゃん〉っていう風に聴けちゃうっていうか、逆にそれが安心感としてありました。インディー・ロックの人とかヒップホップの人とかが今、ジャズに興味を持ってるのは知ったうえで、だからといってそっちのほうに変に流され過ぎないっていうか」

――そこも、この本のポイントな気がしますね。日本で紹介される〈ジャズ〉っていうと、まず聴きやすいのはジャズ・ピアノのビル・エヴァンス『Waltz For Debby』っていうのがあって……みたいな説明になりがちなんですけど、ジャズの最新型や最前線だけを切り取ったというところが斬新でした。そこは意識したところですか?

小熊「昔からやると〈いま〉に到着しないっていう本をいままでいっぱい見てきたので、それだけは今さらやらなくていいだろっていうのはありましたね。その点で僕がこの本を作っているときにすごく安心したのは、柳樂さんは(以前)レコード屋で働いてたからっていうのもあるけど昔のジャズや他のジャンルもいっぱい聴いてたり、きちんと知識の蓄積があるんですよ。だから読めばちゃんと、今につながってる昔の部分についての研究も、この本にはすごくいっぱい載っていることがわかると思うんですよ。その昔の音楽に辿り着くための入り口が、直接昔のことについて触れるだけじゃなくてもいいっていうか、今から辿る昔があってもいいっていうか、そういう作りになっているはずなので。でもそういう作りって、単に流行りものに飛び付くだけの人を監修に立てても出来なかったし、そこは大きかったと思いますね。僕は世代的にレア・グルーヴ(・ムーヴメント)よりも全然後で、そっちのほうは正直詳しくないんですけど、柳樂さんはそこを一通り通ってるから、フライング・ロータスがジョージ・デュークの影響を受けているっていうのもすぐピンときたりとか、そういう(わかっている)ところが大きかった」

柳樂「普通の若いリスナーはなかなか、ZAZEN BOYSがないとレッド・ツェッペリンまで辿り着かないし、ゆらゆら帝国がないとザ・ゴールデン・カップスに辿り着かないかもしれない。でもそういう感覚のジャズの本がホントになかったので。〈2〉は、僕がやりたいことを全部詰めたっていうのもあるんですけど、できれば1冊のいろんなところがすごく複雑に繋がっててほしいみたいなのがあったし、そういう風に作りたいっていう話もしてて。特に、後半のいろんな論考を読んでから前半に戻ってみるとまた繋がって、みたいなことを意識して作ってあるんです。具体的に言うと、ミニマル・ミュージックの原稿を読んでからだと、ポスト・ロックやECM、ビート・ミュージックの原稿が深まるようにって感じでしょうか。」

 

インタヴューをしていくうちに、本の内容が決まっていく

――〈JTNC2〉の話に戻りますけど、〈JTNC1〉に比べてインタヴューがどっと増えてますよね。音楽媒体で読めるインタヴューは、基本的に新作が出たときのプロモーションという内容が多いんですけど、今回はそれぞれの音楽にあるバックグラウンドだったり、考え方だったりについて語ったものが多いので、すごく貴重な内容だなあと思いました。僕が一番印象を受けたのは、これだけの当事者たちの言葉が一冊にまとめられることによって、音楽地図への理解度が一気に高まって、ショートカットができるなあという感動が一番大きかったんですよ。本人たちの証言をこれだけ多く集めた狙いとしては、〈裏〉をちゃんと取るということだったんでしょうか?

柳樂「そうですね。前回、デリック・ホッジケニー・ギャレットは、新作が出たから、それについて話を訊くっていうタイミングじゃないところで話を訊いたものがすごく面白かったので。あと、意外とネット上にも出てない情報があるので、前提として〈わからないところは訊くだけ訊こう〉っていうこともありました。それと、やっているなかで、インタヴュー原稿でもアーティストの本質に踏み込んだり、シーンの状況を詳細に訊いていけば〈論考〉に近いようなものに、かなり深いものにできるんじゃないかって思ったということもあります」

小熊「グラスパーが典型的ですけど、〈JTNC〉で扱っているような若いジャズ・ミュージシャンは積極的に売れようとしてるというか、リスナーに届かなければ意味がないってみんなわかってますよね。だから彼らは話す場を求めているんだけど、そういう場が実はなくて。それでこっちのリクエストにすごく素直に、丁寧に応じてくれる部分もあって、そういう点でもすごく面白かったです」

柳樂「あと、彼らに関しては、理解してくれる聞き手を求めていたこともあると思います。今回ホセ・ジェイムズの新譜がすごく不思議な内容になっていて、海外のインタヴューを読んでいてもインタヴュアーの的が外れてるっていうのを見ていたので。自分で言うのもアレですけど、前にもインタヴューをやってるのもあって、僕はなんとなくホセがやりたいことはわかる気がしていて、実際今回のインタヴューもすごく良い感じで出来たんですよ。そのあと、ホセとテイラー・マクファーリンは仲良いんですけど、「この前ホセと会ったんだけど」みたいな話をテイラーにすると、すごく良い反応をしてくれて。インタヴューを重ねることで話が徐々に深まっていって、相手も心を開いてくれる。同じように、リチャード・スペイヴンがフライング・ロータスの話をしてくれたことが、今度はフライング・ロータスの心を開いたりね」

【参考音源】ホセ・ジェイムズの2014年作『While You Were Sleeping』収録曲“EveryLittleThing”
(バンド・メンバーであるクリス・バワーズとの共作)

 

――実際にいろんな人にインタヴューをしていくうちに、当初の予想の範疇を超えた驚きや、拡がりみたいなことは感じられましたか?

柳樂「今回特にデカかったのが、UKのクラブ・シーンで活動してた人で、いまLAに移住してジャズのコミュニティーにもいるマーク・ド・クライヴ・ロウのインタビューかな。マークが急遽来日することが決まったのをたまたま見つけて、とりあえずコンタクトとったらインタヴューができることになったんですよ。そこで話を訊いてわかったことが、のちのインタヴューにもすごく活きたし、誌面の構成にも影響を与えました」

小熊「マークのインタヴューは、完全に(今回の)本のコンセプトが見えた瞬間でしたね。たった一時間の取材で、〈NYとLA、ロンドンの音楽シーンの繋がり〉と〈ここ十数年のクラブ・ジャズから最新のジャズまでの流れ〉が一気に見えるようになりましたから」

【参考動画】マーク・ド・クライヴ・ロウの2014年作『Church』収録曲で、
ジョン・ロビンソンを迎えた“The Mission”

 

――〈JTNC1〉は、まず概要やコンセプトを提示することが主題にあったと思うけど、〈JTNC2〉ではインタヴューひとつずつの深みや広がりがすごくダイナミックで、〈1〉とはまた違った醍醐味というかテイストの面白さがすごく感じられました

小熊「〈1〉でやりたかったことを〈2〉でどこまで広げられるか、というエクスパンデッド・エディション的なものを作ろうっていうのは、僕のなかではあったかもしれないです。まず、〈1〉の世界はこれまでになかったものを作るのに近かったから見取り図として、〈2〉ではその設定した見取り図を自分たちのルールやパースペクティヴのなかでどれぐらい広げられるか。なので、〈2〉が出来たことで〈Jazz The New Chapter〉という切り口がもっと俯瞰的に見られるようになったと思います。」

 

〈ジャズ好き向け〉ではなく、〈音楽好き向け〉

――個人的にはリスナーとしてもちろんジャズは好きなんだけど、〈どジャズ〉専門人間でもなくていろいろと幅広く聴くほうなので、〈JTNC2〉に登場するアーティストのインタヴューで、ステレオラブニック・ドレイクなど他ジャンルのアーティストたちの名前が何度も出てくるところもすごくいいなあって思いました。プレイヤーはもちろん音楽を聴くことも大好きな人なわけで、その当事者としては至極真っ当っていうか、こっちは聴く、こっちは聴かない、っていうんじゃなくてもっと音楽に対して絶対的にオープンで、特に海外はもっとオープンだと思います。いっぽう、日本はメディアも含めてジャンルごとにギュッと閉鎖的な村にしがちなところがあって、どうなんだろ?と常日頃から感じているので、個人的にはそういった開かれた感じが出ているところが一番面白く感じられました。この本はジャズっていう背骨で作ったけど、大前提として自分が耳にして良いと思った音楽は素直に楽しんで影響を受けるっていうことが、当事者たちの口から語られていてすごく良いなあ、と思いました

柳樂「日本人はすごく真面目なんで、〈ジャズ道〉みたいな感じになっちゃうけど、海外のジャズ・ミュージシャンにインタビューするときに〈あなたにとってのジャズとは?〉みたいな感じで〈ジャズ、ジャズ〉って言っていると、〈俺がやってる音楽はジャズじゃなくて音楽なんだよ〉っていう感じで全部冷たく返されちゃんですよ(笑)。彼らは、もちろんジャズが好きなんだけど、自分がやってることはそれに縛られてなくて、(それでも)やっぱりジャズなんだっていう感じですね。そういう経験もあって、ジャズ・ミュージシャンに〈ジャズ〉だけではなくて、彼らがやっている〈音楽〉をきちんと語ってもらうっていうのは、ずっとやりたかったことなんです。あと、多くのジャズの本ってジャズのリスナーやジャズ評論家、ジャズ・ミュージシャンなどを含めた〈ジャズ・シーン〉に向けて書かれてるんですよ。たぶん、ジャズの本専門の編集の方がついてて、自然にその範囲だけにわかるものを作っちゃってたというか。なので、今回はジャズの言葉を極力使わずに書くっていうのもひとつありました。普通の〈音楽〉リスナーにも読める言葉で書くっていうことは、徹底してやったっていうのはありますね」

――そこが、〈JTNC〉という本が大きく支持されたポイントだと思います。たぶん、〈ジャズ道〉の方々じゃない、他のジャンルを好きな人が熱狂的に〈よくぞやってくれた!〉って。〈もっとジャズをわかりやすく紹介してよ!〉っていう不特定多数のリスナーのツボにハマった。もちろん〈ジャズ道〉の方々もこの本の登場が気になっていると思うし、これまでにジャズと他の音楽の間にあったミッシング・リンクを繋ぐことができた。〈本職はニューウェイヴインディー・ポップです〉という若き編集者が担当して、柳樂さんが仰ったように〈小熊がわからないってものは駄目〉っていう作り方をしたところが、〈JTNC〉シリーズのすごい肝だと思います。そういえばこの本を作っている最中に、ECMの選盤で悩んでいたときのエピソードをお聞きしましたよね

柳樂「ECMで、キース・ジャレットを扱う扱わないみたいなことや、チャールズ・ロイドを入れる入れないってところはすごくデカくて。ECMは歴史が長いだけにリリース量も多いし、ジャズ史の重要盤も多いんで、(ディスクガイドを)50枚に絞るという作業はすごくハードだったんですよ。そこで困っていたときに(小熊に)訊いてみたら、〈とりあえず年寄りを捨てろ〉って、バッサリ(笑)。新しいやつだけでいいだろっていう。そういうもんなんだなーって」

小熊「ああ、言いましたね(笑)」

 

柳樂「この本としてはそれが正解なんですよ。ヴェテランがずっと新しいことをやってて素晴らしいのはもちろんわかってるんだけど、それは他の本にすでに載っているので。じゃあ、情報のない若い人に絞ればいいっていう。なかなかね、普通はその決断ができないですよ(笑)」

小熊「僕も勢いでそうやって言っちゃうけど、柳樂さんだって度胸あるなって思いますね。本のまえがきから凄いけど、自分がコレだと思ったらいけるというか、思いっきりひっくり返す度胸がある。その度胸があるかないかっていうのは、世代的なものとかとはもうちょっと別で、人間の資質の問題だと思うんですけどね。だから、こういう本を作るうえで、そこがあるかないかっていうのはすごく大きいし、そこは編集者にはどうにもならない部分のひとつかもしれない。まあ、僕も大概ちょっと……ふてぶてしい部分はあるかもしれないですけど(笑)」

柳樂「迷ったときに安全なほうをとらない人と組んだのはよかったですよね。すごくやりやすいっていうか、なかなかそんなこと言ってくれる人もいないんで」

 

〈Jazz The New Chapter〉の今後

――最後の質問です。〈Jazz The New Chapter〉の2冊が、こういう人に読んでもらえたら、届いたら、伝わったらいいなというのはありますか?

柳樂「たぶんヒップホップやインディー・ロックのリスナーにはある程度届いていて、彼らがジャズを聴くきっかけにはなってるはずなので、それと同じ感じで、これを読んでジャズのリスナーがJ・ディラを聴く――それがホントはベスト。ジャズに馴染みがなかった人にとっても、ジャズを聴き続けてきた人にとっても、ジャズの聴き方が軽やかになるきっかけになるといいですよね」

小熊「ジャズ・メディアっていうか、ロックのメディアでもそうなんですけど、こういう(〈JTNC〉的な)在り方みたいなものが、いろんなところで影響を与えて活性化してったら面白いのかなあとは思います。あとはやっぱり若い人が読んで、何年かあとに〈実は影響を受けました〉みたいに言われたら、たぶん一番嬉しいでしょうね」

柳樂「僕が原(雅明)さんや村井(康司)さんの本に影響を受けて、この本を作ったみたいにね」