どれだけエモくなれるか
――歌い方も非常に特徴的で、そこがフックとなってMINAKEKKEの世界観に惹き込まれる感じがあるのですが、いまのような歌い方はどんなふうに確立されたのですか?
「歌い方についてはそんなに意識したことはないんですよね。もちろん、曲ごとにこんな感じで歌おうというのはあるんですけど、特にライヴの時は〈どれだけエモくなれるか?〉みたいなのが自分の中で重要で(笑)。本番前とかは、フィギュア・スケートのすごく好きなプログラムの動画を観ているんです。フィギュア・スケートって、観ると絶対泣いちゃうんですよ。それでウワー!ってなった状態のままステージに立つことが多いです」
――アハハハ(笑)。ちなみにどの動画がお気に入りですか?
「先日引退を発表した(浅田)真央さんももちろん好きなんですけど、鈴木明子さんの〈ウエスト・サイド・ストーリー〉※が最高なんですよ(笑)。それをライヴ前に観ることはよくありますね」
※2010年のバンクーバー・オリンピックでのフリー・プログラム
――確かTHE NOVEMBERSの小林祐介さんも、羽生結弦選手の演技に感動して、それで曲を書いたことがあると言っていました。
「あ、そうなんですね! でもわかります。本当にフィギュア・スケーターってすごいなと思います」
――MINAKEKKEの音楽には、いろんな要素が混じっているなと思うんですけど、ご自身ではどういう成分が含まれていると思います?
「今日、ここに来るまでに自分はどんな音楽を聴いてきたかなと思いながらプレイリストを作ってきたんですけど……」
――(プレイリストを読み上げる)ストロークス、ストーン・ローゼズ、エリオット・スミス、ブロンド・レッドヘッド、ビートルズ……なるほど。ビートルズの影響も大きいですか?
「中学生の頃にギターを習っていたことがあって、その時に先生からビートルズやレッド・ツェッペリンを課題曲として出されることが多かったんです。そこでちゃんと聴くようになりました。アルバムでは『Abbey Road』(69年)がいちばん好きですね」
――リストの中では、特にブロンド・レッドヘッドが〈やっぱり!〉って思いました(笑)。
「ああ、大好きです。名前は何となく知っていて、〈Hostess Club Weekender〉に出演したのを何の気なしに観たら(2014年の新木場Studio Coast)、すごく良くてそれで大好きになりました。女性シンガー・ソングライターももちろん好きで、ジョニ・ミッチェルやフィオナ・アップルなどもよく聴いています。ただ、洋楽を好きになったきっかけがバンド・サウンドだったので、わりとバンドのほうが聴くことが多いかも」
――日本の音楽では?
「BOOM BOOM SATELLITESがすごく好きでした。くるりも高校生の頃はよく聴いていましたね。あと凛として時雨とか。それと、小・中学生の頃からずっと好きなのは宇多田ヒカル。まず声がすべてを作り上げている気がしていて。それから歌詞ですよね。普通は歌の中で使わないような〈あれ?〉って思う言葉を使っているのに、彼女が歌うとカッコ良くなるのがすごいなと思っています。サウンドもJ-Popという括りですけど、日本語の歌詞と洋楽っぽいサウンドを本当にバランス良く融合させているじゃないですか」
――どのへんの時期の作品が好きですか?
「『ULTRA BLUE』(2006年)の頃ですかね。“Passion”“誰かの願いが叶うころ”“Be My Last”とか。やっている音楽のジャンルは違いますし、〈宇多田ヒカルさんになりたい!〉というわけじゃないんですけど、でもすごく尊敬するアーティストの一人です」
本当に必要な音を必要なところに
――さて、『TINGLES』についてお訊きしたいのですが、制作期間に2年を要したというのは本当?
「レコーディングそのものは1年くらいだったのですが、プリプロに結構時間をかけていて。というのも、これまではずっと一人で完結するような音楽をやっていて、そういうスタイルの音源も自主制作では出していたんですけど、今回は自分の中にあった音とか景色を、〈ひとつの正解〉として作り上げたいと思ったんです」
――アルバム全体のイメージとして、何か参考にした作品はありました?
「そのまんまというわけじゃないんですけど、今回のアルバム制作で影響をうけたのが、バット・フォー・ラッシーズの『Two Suns』(2009年)と、カーディガンズの『Gran Turismo』(98年)だったんですよ。マインド的には、この2枚が大きかったかもしれない」
――『Gran Turismo』はちょっと意外ですね。プロデューサーの橋本竜樹さんとは、どのようなやり取りをしました?
「〈普通にバンド編成で、すべての楽曲をレコーディングする〉というふうにはしたくなかったんです。その曲に必要な音を必要なところで入れる感じがいいかなと思って、こんなサウンドにしたいという参考曲のようなものを聴いてもらいながら、アイデアをいろいろと提案しました。最初は自分の曲を人にアレンジされることに抵抗があって、〈うーん……〉となっちゃったんですけど(笑)、やっていくうちに、自分がどういうテーマでどういう景色をこのアルバムに落とし込みたいのかが見えてきてからは、橋本さんの提案してくれるアレンジの意味が理解できるようになって、スムーズにいくようになっていきましたね」
――確かに音数はシンプルなんですけど、随所に〈お!〉って思わせる不思議な音が入っていますよね。例えば“GIRL LIKE GHOST”で、サビでの掛け合いのピッチを上げたような声はどうやって作ったのですか?
「コーラスもおもしろいのを入れたくて、試行錯誤していくなかで思い付きました。GarageBandに入っていたMonster Voiceというプラグインを声に掛けています。あの曲は自分のパソコン内でほとんど作りましたね」
――そういう曲も結構多い?
「自分が主体になって作り上げたのは、橋本さんとの作業を通じてイメージを固められてからなので数曲です。ただ、今回のアルバム・レコーディングについては、順番としてはまず私がGarageBandでラフのデモを作って、それを橋本さんにブラッシュ・アップしてもらった後、スタジオでドラムだけ生に差し替えてから、ほかの楽器をオーバーダビングするというパターンが多かったですね。橋本さんが弾いたエレキ・ギターや私のヴォーカルなど、後からオーバーダビングするものは自宅か、事務所のスタジオで行いました」
――“L.u.x.”の後半でギターが重なっていくところはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを彷彿とさせますね。ストロークのタイム感や、歪みの具合が“Sometimes”っぽい。
「まさにマイブラに触発されたアレンジですね。もともとはアコギの弾き語りで作ったシンプルなデモだったんですけど、橋本さんに〈“Sometimes”みたいな感じで〉ってリクエストしたら、こんな感じに仕上げてくれました。なので伝わって嬉しいです(笑)」
――歌詞の世界観は、何かテーマがありました?
「今回は10代から20代前半の現在までの自分の半生というか、それを一度、作品に落とし込みたいなと思いました。自分も小学生までは結構活発だったんですけど、中学生くらいで自分の環境っていろいろ変わってくるじゃないですか。私はそれについていけなかった側の人間で(笑)。それがあったからいまこうして音楽をやっていると思うんですけど、その時に抱いていた感情だったり、気持ちだったりを、格好良い音楽に昇華したいっていうのがあったんですよね。だから〈僕〉とか〈私〉とか、一人称の曲が多いし、そういう意味でもパーソナルな世界になっていると思います」
――やっぱり、届けたいと思うのも同世代の女の子だったりしますか?
「もちろん同世代の人には届いて欲しいなと思うんですけど、今回の『TINGLES』というタイトルが、〈ヒリヒリする〉〈ゾクゾクする〉という感覚を意味する英語なんですね。例えば昔のことを思い出した時に鳥肌が立ったりとか、そういう感覚って誰しもあると思っていて。そういう意味では同世代の子たちだけでなく、自分よりちょっと上の年代の人たちにも、当時の感覚を思い出しながら聴いて欲しいです」
――確かに『TINGLES』は、自分の孤独にそっと寄り添ってくれるというか、夜中にそっと一人で聴きたくなるような作品ですよね。そういう意味で、さっきプレイリストにも入っていたエリオット・スミスやフィオナ・アップル、それから個人的にはイールズなどにも共通する感触だなと思いました。
「それはすごく嬉しいです。ありがとうございます」
――今後、やってみたいことはありますか?
「たくさんあります。今回は自分の描いていた景色や音をアルバムに全部落とし込めたんですけど、一度原点に戻って完全な弾き語りのアルバムも作ってみたい。アコギ1本でどこにでも出掛けて行って歌えるというのは、自分の強みだとも思うんです。なので今作のような世界観は核としてありつつ、アコギ1本のスタイルも自分と向き合ううえでは必要なので、これからも両方大事にしていきたいですね」
LIVE INFORMATION
〈MINAKEKKE presents “TINGLES” RELEASE PARTY〉
日時:2017年6月11日(日)
会場:東京・新宿MARZ
開場/開演:18:30/19:15
出演:MINAKEKKE Band Set(ユイミナコ、橋本竜樹、堀正輝、内藤彩、葛西敏彦、丹澤由棋)、高井息吹と眠る星座
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本文中に登場した、MINAKEKKEのルーツをまとめたプレイリストを公開中!