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石若駿ら同世代の仲間たちとのCRCK/LCKS結成、ceroへのサポート参加

――前作『シャーマン狩り』からの4年というのは、CRCK/LCKSで一緒の石若駿さんや、ceroで一緒の角銅真実さんもそうですけど、音楽的にアカデミックな資質を持ちながらジャンルレスな活動をしている同世代のミュージシャンたちの姿が、シーンに見えやすい形で浮上してきた時間でもあったと思うんですが。

「そうですね。駿とは大学時代に佐藤充彦さんの即興の授業で一緒で、授業の後に一緒に木の上に登って、木を叩いてインプロしたりしていて(笑)。なんか楽しいやつだなと印象に残ってて、その後すごい才能の持ち主だなと知るんですけど、ソロ・アルバム『Songbook』(2016年)も素晴らしかったですよね。角ちゃんとも大学以来、ceroで久々に再会したんですが、なんか運命的なものを感じましたね。新作『グッバイブルー』でも、彼女とはインプロでやりたいと思って参加してもらいました。大学時代にやったときより彼女がすごく進化していて感動したんですよ。だいたい過去に印象的だった人たちって、その後絶対に縁があるんだなと思いましたね」

――CRCK/LCKS結成の流れは自然なものだったんですか?

「駿とは前から〈一緒にやりたいね〉という話はしてました。でも、当初CRCK/LCKSは、菊地(成孔)さんの夜中のイヴェント(2015年6月の〈モダンジャズ-ディスコティーク新宿〉)に出演する一回限りのセッション・バンドとして組んだんですよ。だけどせっかくやるんだったら歌モノでやりたいし曲も書きたい、みたいな流れになっていって、当時ベース担当の角田(隆太)くんが“クラックラックスのテーマ”という曲を書いてきてくれて。〈これはバンドだよね?〉ということになったんです」

※2017年3月に脱退

石若駿の2016年作『Songbook』トレイラー
 
CRCK/LCKSの2016年作『CRCK/LCKS』収録曲“Goodbye Girl”
 

――続けるしかないっしょ、と。

「〈結構おもしろいから、やっていけばいいんじゃない?〉って流れに、私とリーダー(小西遼)が半ば強引に持っていった感じです。でもみんなも乗り気になってくれて。駿はCRCK/LCKSの一番最初のライヴのときに〈でっかくやりましょうよ!〉って言っていて(笑)。ポップスに対する彼なりの夢を感じましたね。何より今はライヴがとにかく楽しくて、その楽しさはいろんな人に伝わってるんじゃないかなと思っています」

――小田さんもヴォーカリストとして歌いまくっていて。

「CRCK/LCKSとソロでは、人が違うくらいの歌い方ですよね。CRCK/LCKSでは10代くらいの私に退行している感じがします」

 

――もうひとつ、読者が訊きたい話として、ceroへのサポート加入があります。『シャーマン狩り』から直接というより、DC/PRG加入があって、CRCK/LCKS結成があって、というポップ・シーンとリンクする流れがあったからceroにも入っていきやすかったのかなとも思うんですが。

「そうですね。ceroは一緒にやるようになるまで、あんなにいろいろ挑戦していて、おもしろい音楽をやっている人たちだって知らなかったんですよ」

――そうだったんですか!

「正直、YouTubeとかで観たことがあるくらいで、ちゃんとアルバムを追ったりしてなかったんです。でも、チェロの関口(将史)くんに、ずいぶん昔に彼がストリングス・アレンジをした“マクベス”という曲を〈このアレンジ、どう?〉と聴かせてもらったことがあって、その曲は聴いたことがありました」

 

――それは意外でした。

「でも、やってみてわかったんですけど、ceroはすごく貪欲ですよね。自分としても曲ごとに吸収していくものが多いので、楽しい。今の編成でやりたい新曲がどんどん出来てきているのもうれしいし、メンバー3人とも作る曲の味が違って、三度おいしいみたいな(笑)。歌詞もすごく好きなんですよ。〈缶コーヒー〉〈スマホ〉とか、すごく近くの情景を質感や温度感がわかるように描いてる一方で、すごく遠くにも連れて行ってくれる距離感の差みたいなものがすごく好きですね。それは私が詩にすごく求めてる部分でもあるんです。“ticktack”の歌詞に出てくる〈影のない人〉というフレーズもそうですが、今生きてる世界とは別の世界へ飛ぶような感じがあったり、拡大鏡で近寄ったり引いて見たりしている感じがすごく魅力的だなあって」

――ceroで歌詞が好きな曲といえば?

「わりと全部好きなんですけど、“Orphans”とか、“Wayang Park Banquet”とか、新曲の“魚の骨、鳥の羽”も好きですね。この間の日比谷野音での公演でやった“DRIFTIN'”も。“マイ・ロスト・シティー”の〈都市の悦びを支えるもののタガが今はずれた〉というインテリっぽいフレーズを、すごくノリノリで歌う髙城(晶平)くんのあの感じも好きです」

ceroの2016年作『Obscure Ride』収録曲“Orphans”
 

――小田さんは純粋に音楽面でのサポートで参加していると思ってる人も多いでしょうけど、実は歌詞にきちんと共鳴しているという。

「以前は歌詞にはあんまり着目してなかったんですが、最近は歌詞ってすごく大事だなと思ってます。言葉が響くということをもうちょっと大切に考えてみたいなと」

――歌詞について言うと、『シャーマン狩り』では、詩人の作品に曲を付けている曲が多かったですよね。

「詩を読むのがすごく好きなんですよ。私は音楽はできるけど、歌詞については自分で書くより、もともとある素晴らしい詩を歌ったほうがいいから、それに曲をつけようという考えがありました。そこはすごくクラシカルというか、歌曲的ですよね。特に『シャーマン狩り』の時点では、その方法にすごく可能性を感じていたんです。音楽の形式が詩によって連れて行かれるというか、ちょっと変わっていくというのがおもしろいと思っていた。ただ、周りの人から〈もっとあなたの話が聞きたい〉みたいに言われることもよくあって。〈あ、そうか。私が向き合おうとしなくちゃ人も向き合ってくれないんだな〉という気持ちになって、自分でも歌詞を書き始めたんです。でも、最初のうちは自分の歌詞にあんまり納得いってませんでしたね」

――谷川俊太郎さんや平田俊子さんといった素晴らしい詩人のみなさんとコラボレーションをされてたり、音楽と言葉の関係について真摯に学ぼうとしてる姿勢を感じますけどね。

「自分に採り入れられているかはわからないんですけど、常に詩に興味はありますね」

――『グッバイブルー』収録の“星めぐりの歌”(作詞/作曲:宮沢賢治)もそうですけど、前作でも宮沢賢治の詩を歌ってましたよね。

「最初は宮沢賢治が嫌いだったんですよ。真面目だし、説教されてるみたいで(笑)。それが、作品の裏側や賢治の個人的ストーリーについての話を聞いて、有名な『雨ニモマケズ』がああいうふうには強くなれないという本人の弱さの裏返しだったとわかり、とても心を打たれたんです。それで改めて読むようになったら、すごくいいなと思うようになりました。作家では遠藤周作とかもすごく好きです。人の弱さを徹底的に書くじゃないですか」

 

 

弾き語りに可能性を感じている

――その流れで『グッバイブルー』についてお聞きします。まず制作はいつ頃から?

「1、2年くらい前からポツポツと曲は書いていたんです。ライヴのために書いた曲だったり、山口県にある中原中也記念館のBGMのためのチェロのインスト曲だったり。それらを集めた感じで、コンセプトがあってそこに向けていったというよりは、ひとつひとつを点で置いていったイメージです。録音してみるまでどういう作品になるかわからない、出たとこ勝負なところもちょっとありましたね」

――角銅さんや関口さんと一緒にやった数曲を除けば、基本的に歌詞のある歌ものは小田さん一人でやっているというのが、コンセプトと言えるのかなとも思うんですが。

「そうですね。私は弾き語りがすごく苦手だったんですよ。子供の頃からずっとやってることだから、自分の裸を人前で見せるみたいで恥ずかしいという気持ちもたぶんあって、逆に開放しきれない。でも今回はあえてそれをやってみようと思ったんです。最近、弾き語りも自分として可能性がある気がしていて、その片鱗が“星めぐりの歌”で芽生えてきてるというか……もっと正直に言うと、このアルバムを作り終えた今、かなり可能性を感じています」

――じゃあ、今後の可能性の起点になった作品でもあるという。

「そうですね。あと今回弾き語りにしようと思ったのは、千葉・八街市の畑の真ん中に、教会みたいなとても素晴らしい響きのスタジオがあって。声もめちゃくちゃ伸びるし、何よりヴァイブスが良いし、そこだったら弾き語りもやりたいなと思ったんです。その空気感をそのままレコーディングできたらいいなと」

――音像にもヨーロッパ映画というか、(アンドレイ・)タルコフスキー後期の映画を観ているような空気感がありますよね。

「私の中にロマンチックだったりセンチメンタルだったりする部分があって、そこをちゃんと逃げないで〈ロマンチックです〉って言ってみようかなと。チェロの曲は架空のサントラみたいなイメージで作ったし、映画っぽくしたいというのはありましたね」

――“星めぐりの歌”以外にも、アルバムを動かすきっかけになったような曲はありますか?

「“北へ”は三角みづ紀さんという詩人の詩に曲を付けたんですよ。〈陣痛かもしれない〉という一節を読んだとき〈え!〉って思ったけど、そのときすでにメロディーが浮かんでしまって、そこから曲にしたんです。この曲は絶対に入れたいなと思いましたね。あと“マリーアントワネットのうた”はアルバム用に書き下ろしたんですが、これを作ったのは、レコーディングをしていたスタジオなんですよ。ちょっとピアノを弾いてたら〈マリーアントワネットのうた〉というフレーズが出てきて、〈あ、これでいこう!〉と。そういう意味では、空間から生まれた曲ですね」

――これはすごい歌詞だし、すごい歌ですよね。

「意味がわからないですよね。〈こういう曲が今自分から出てくるんだ〉と思いました。でも、そこがいいとも思って。私って偉そうに見えてしまうことが多いというか、人に〈おまえはマリー・アントワネットか!〉って言われたこともあって(笑)。でも、人は誰でも多かれ少なかれ周りから誤解をされていると思うし、ある意味マリー・アントワネットって〈誤解〉というもののアイコンになっているなと思っていて。どれだけ誤解されている人の中にも美しさはあるし、誰にも理解されないその人の美しさみたいなものに想いを馳せたりと、その方向で考えていたら歌詞が繋がっていった」

――片方に小田朋美のソロがあって、もう片方にCRCK/LCKSがあって、さらにさまざまな音楽活動があって。その活動の振幅の大きさも、どう誤解されようが音楽の力で越えていければいいという気概を感じます。そういう意味でも、今回は『グッバイブルー』の取材ですけど、もうすぐCRCK/LCKSの新作も控えているということで、その2枚が音楽家としての小田朋美のまた新しい起点を示すものになりそうですね。

「なかなか〈これが自分だ〉とは自分でもわからないですよね。全部が本当の自分だとも思うし。アコースティックな方向でもっとおもしろい遊びにも挑戦していきたいし、ぜんぜん違う方向に行きたいという気持ちもあるし。今はためらわずにどんどん形にしていければいいなと思ってます」

 


LIVE INFORMATION

〈『グッバイブルー』発売記念インストア・イヴェント〉

日時:2017年6月16日(金)
開演:19:30
会場:タワーレコード渋谷店7Fイヴェント・スペース
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