3枚目の愛の夏は原点回帰の季節――90年代やUKロック、ローファイへの偏愛を最高のバンド・サウンドで鳴らした待望の新作は揺るぎなく濃密な彼女自身で溢れている!
原点回帰した感じ
いろいろな意味で象徴的な年となった2020年の晩夏、ラブリーサマーちゃんが(全国流通CDとしては)久々の新作となるニュー・アルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を引っ提げて、メジャーにカムバックする。2016年にメジャー・デビューし、2017年夏のEP『人間の土地』以降はしばらくフリーランスで活動していた彼女。今回のアルバムは、その間に作り溜めていた楽曲を中心に構成したため、特定のテーマは設けていないとのことだが、それゆえに、彼女のいま奏でたい音楽がストレートに結晶化された、新しくも懐かしさを感じさせる作品に仕上がっている。

「私はいろんな音楽が好きだから、前までは〈ラブリーサマーちゃんはこういう音楽をやってます〉という一貫したものがあまりなかったんですけど、渋谷系とかシューゲイザーとか好きなジャンルを一通りやったら気が済んで、いまは原点回帰した感じがあって。もともと初めて好きになった音楽がthe brilliant greenだったので、〈いろいろ遊んだから本命の彼女に戻るか〉みたいな感じで(笑)、90年代の音楽とかブリティッシュ・ロックに立ち返ったところはあります。『人間の土地』に収録した“FLY FLY FLY”を作ったときから、私はマッドチェスターみたいな方向に行きたいんだなって気付きはじめていたので」。
アルバム表題の『THE THIRD SUMMER OF LOVE』は、件のマッドチェスターが生まれる引き金となった、80年代後半にUKで起こったムーヴメント〈セカンド・サマー・オブ・ラヴ〉をもじったもの。「ただのダジャレなんですけど、私の本名は〈愛〉と〈夏〉と書いて〈愛夏〉だし、今回が3枚目のアルバムなので、このタイトルを使うならいましかないと思って(笑)」と本人は笑うが、それらしいサイケデリックなアートワーク、そしてアーティスト・イラストにフィーチャーされたストライプ柄の紙コップを含め、それらすべてがアルバムの本質を伝えるシンボルとしても機能している。
「このオレンジと白の紙コップって、私が生まれ育った時代には身の回りになかったんですけど、自分が好きな90年代のCDによく出てくるモチーフだったんです。スピッツの『フェイクファー』とか、ブリグリやJUDY AND MARYのCDのブックレットとか。だから、私の中でこの紙コップは、自分がいちばん好きだけどリアルタイムで体験できなかった、90年代の音楽への憧れの象徴として君臨していて。でも、2年ぐらい前に、としまえん(東京の遊園地)に遊びに行ったとき、売店でポップコーンを頼んだら、まさにこの紙コップに入って出てきたんですよね。失われたと思っていたものが、突然現れたことにショックを受けて……そのときに私は〈この紙コップになりたい!〉と思ったんです(笑)。もし、私と似た趣味の誰かが私の曲を聴いたときに、90年代に失われたと思っていたサウンドが目の前で鳴らされて、私がこの紙コップを見たときと同じ気持ちになったらおもしろいなって」。
とはいえ、往時の音楽をそのままリヴァイヴァルするわけではなく、現在25歳である彼女のフィルターを通したサウンドになっているのが、本作のユニークなところ。「前のレーベルにいたときは、宅録で作ろうという方向性があったんですけど、そもそもバンドをやりたくて音楽を始めたので、とりあえず気が済むまでバンド・サウンドをやってみたくて」と語る通り、wash?の奥村大(ギター)、NENGUの馬場庫太郎(ギター)、ayutthayaやnenemなどで活動する右田眞(ベース)、セカイイチの吉澤響(ドラムス)らをサポートに迎え、かつてなくロックな楽曲が並ぶこととなった。
音楽が起こしてくれる感情の起伏
マンチェ経由でグルーヴ・チューブに片足を突っ込んだような“More Light”、オアシスばりのギター・ソロから終盤はストリングスも交えてビートリッシュな大団円を迎える“LSC2000”(弦アレンジはCRCK/LCKSの小田朋美が担当)、「ブラーの“Song 2”とキンクスの“All Day And All Of The Night”をドッキングさせたような曲」だという“どうしたいの?”など、あちこちに影響源が透けて見えるのは、音楽を無心で楽しんでいることの証。そのなかでも、気だるげな歌声とヘンテコな音色のトゥーマッチ感がクセになるローファイ・ポップ“I Told You A Lie”は、彼女のいまのモードを投影した新境地と言えそうだ。
「この曲はオモシロをコンセプトにしていて。最近のイギリスにはいいアーティストが多くて、特にラット・ボーイ、オンリー・リアル、スーパーオーガニズムの3組は、いろんな音を加工しておもしろい音作りをしているところが共通していて、カッコ良さだけではない笑いのエッセンスが入ってるところがしっくりくるんです。彼らに通底してるのはユーモアで、音はハイファイだけど、歌も上手く歌おうとしていないし、そのニヒルさにローファイを感じるんです。“I Told You A Lie”はそういうローファイ・マインドを現代的な音でやりたくて作りました」。
そしてアルバムのリード曲にあたる“AH!”は、虚飾まみれの世の中に対する皮肉(とロマンティックなオチ)が最高にゴキゲンなロックンロール。去年の4月に音楽イベント〈SOMEWHERE,〉でみんなで踊って盛り上がることの楽しさに気づき、踊れる曲を作ろうと思って出来た曲だという。さらに、アルバム本編のラストを飾る爽快なギター・ポップ“ヒーローズをうたって”にも、とびきり粋なエピソードがあった。
「〈SOMEWHERE,〉でアラン・マッギーのDJを見たんですけど、その帰りにカラオケに行ったら、友達がアランと仲良くなってて、そこにアランが来たんですよ(笑)。で、一緒に(デヴィッド・ボウイの)“"Heroes"”を歌ったりして。そんなことがあったら、次の日、もう空を見上げることしか出来なくて、〈あぁ、生きていこう〉と思って(笑)。そういう日って、たまにあるんです。くるりの岸田(繁)さんが私のことをツイートしてくれたり、同年代のバンドがすごくいい曲を出したときとか。そういう風に私の好きな音楽が私に起こしてくれる感情の起伏がすごく大切だし、それに生かされてる気がすると思って書いた曲です」。
周囲の環境や相対的な評価に惑わされることなく、自分の感情や感性に誠実に、自由な気持ちで音楽をクリエイトしていることが伝わってくる本作。そのちょっとひねくれたひたむきさこそが、彼女の音楽がいつでもラブリーな理由なのだろう。
「私は個人的なことをやるためにラブリーサマーちゃんとして活動しているので、どの作品も私の濃度がめっちゃ濃いんですよ。なので今回のアルバムも良し悪しとかで見ることはできなくて。すごくいいなと思えるところもあるし、〈またそういうこと言って!〉っていうところもあるし。それを含めて一生懸命に生きてる人という感じがするので、嫌いな人もいるかもしれないですけど、私は好きですね。それがかわいいなって」。
関連盤を紹介。
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