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シャンソン~フレンチポップ 時を超え蘇る音楽という表現

 世界的にみても音楽的アイデンティティが強固なフランスだが、ここ数年チャートの上位半分を占めるのはヒップホップ。それ以外はカリブ海に海外県が多いことからそういったテイストのダンサブルなポップスかエレクトロ~EDMが隙間を埋める。別にそれを批判するつもりはないしすべきものでもないし、どんなスタイルであれやはりフランスらしさはある。もちろん時代の変化と共に音楽も形を変えていくものだし、例えばヴァネッサ・パラディの復帰作も手掛けたバンジャマン・ビオレのように、先達が残したものに敬意を払いつつ更新しているひとたちもいる。古き良き音楽をストレートに蘇らせているザーズなんかもいる。社会情勢を考えるとヒップホップが人気になるのもわからなくはない。が、我々日本人のおそらく多くが思い浮かべるであろう“所謂フレンチポップ”が年々少なくなっている現状には多少の淋しさを感じる。

LAURA CAHEN NORD rakaoke/MODESTLAUNCH(2017)

 ならこのローラ・カエンも違うんじゃない? というひともいるかもしれないがそうではない。キュートでコケティッシュなフランス・ギャル的それとはもちろん異なるが、楽曲を初聴したときにまず想い浮かべたのは70年代のフランソワーズ・アルディやブリジット・フォンテーヌ。どこが所謂フレンチポップやねんと言われればそれまでだが、ローラの、内面を表現した詩的で芸術性のある世界観は彼女たちと共鳴するのだ。そしてそこからローラは一歩踏み込み、内にある感情を詩的に精査した言葉に置き換える事で聴くものが各々にイメージを膨らませ問い、答えを探しだそうとするような手法をとっている。感銘を受けたアーティストにバルバラやファイスト、ラサ・デ・セラ等を挙げているのも納得だ。1990年生まれの27才。この才能と高い意識を持つ新星が、その音楽が多くのひとに愛されることは音楽界にとっても大きな意味を持つのではないだろうか。